一 トイレの花子さん
トイレの花子さんって言えば、誰でも知ってる学校の怪談よね。私が話すのもそう。
誰でも知ってるとおり、三階、一年生が使う西側の女子トイレ、その三つ目の個室に彼女はいるの。
でも、他と違うのは彼女を呼ぶためのルール。と言っても、扉を三回ノックするのは同じよ。
彼女――花子さんはね、呼び出した時間によって取る行動が変わるの。
例えば、四時四十四分に呼び出すと殺されると言うものから、別の時間ならば願い事を叶えてくれたり、普通に遊んだりね。
ねっ、変わってるでしょう。
どの時間でどういう反応をするかは全部は知らないけれども、決まった時間に扉を三回ノックして『花子さん、〇〇してください』と言えば、そのとおりに動いてくれるの。
これだけでは怪談として弱いし、もう少しだけ花子さんのお話をしましょうか。
去年の夏ごろかしら。一人の女子生徒がいじめにあっていたの。
きっかけは、何かしらね。単純にその子の性格が気に入らなかったのかもしれないし、あるいはないのかもしれない。
初めはノートを隠したり机に落書きをしたりする程度だったけれども、案の定と言うべきか、徐々にエスカレートしていってね。
お金を家から持ってこさせたり、足りなければ小遣い稼ぎをさせたり、本当にひどかったわ。
女子生徒も抵抗すれば良かったんでしょうけど、怯えちゃっててね。
意外と怖いのよ、悪意に晒されるのって。実際に受けた人じゃないとわからないけれども。
毎日と言っていいほどに嫌がらせを受けていたある日、女子生徒は例のトイレに閉じ込められてしまったの。
花子さんの噂は知っていたけれど、たまたまそこしか開いていなくてね。それを目ざとく見つけたいじめっ子たちにって、こと。
ちょうど、お昼休みだったかしらね。連中は上から水をかけたり、悪辣な罵詈雑言を並べたり、好き放題にやっていたわ。
そのうち、誰かが言ったのよ。
『花子さんの仲間入り、させてやろうか』
ってね。幽霊の仲間入りなんて、そういうことでしょう。上から、どこからか持ってきたカッターナイフまで落としたりして、仮にそうなっても、彼女たちは笑っていたのかもしれないわ。
だから、かしらね。
たまたま、条件が揃ったのよ。
三階の三つ目の女子トイレで、特定の時間。
普段なら、思いもしない馬鹿らしい噂話を思い出したの。
三階、扉を叩いて花子さんを呼び出す。そんな、怪談に縋りたくなるほどに、追い詰められていたのでしょうね。
そして、女子生徒はこう言ったの。
『花子さん、願いを叶えてください』
十二時十二分。花子さんは、どんな願い事でも叶えてくれるの。
結果?
ふふっ、そういえばいじめを苦に不登校になった生徒がいたわね。
彼女、最近は変なことばかり言ってるらしいわ。
『わたしは私じゃない』
どういう意味か、わかったかしら。
なら、そうね。今度は自分がそうならないように、気をつけなさい。
花子さんは、純粋に願いを叶えてくれるから。