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☆第1話


 公立東原高等学校。首都圏から少し外れた場所にあるこの高校に、一人の少女がいた。

 その名前をくすのき あずさ。

 東原高校に通う高校二年生だ。

 目が若干垂れ目で、瞳は大きい。その左の目尻に小さく泣きボクロがあり、彼女を印象づける。

 鼻筋はすっきりとしてまっすぐで鼻梁は小振り、唇も小さめだ。

 ふんわりとボリュームのある長い黒髪を太い三つ編みにし、大きめの黄色いリボンで縛っており、その顎のラインも、少し緩めの弧を描いており、東原の制服であるセーラー服の上からでもわかる、ボリューミーな胸や腰、太モモなどのボディラインも全般に緩くて柔らかそうな体つきをしていて全体におっとりした印象を受ける少女だ。

「コラァッ!! 健太っ!! 掃除さぼんなぁっ!!」

「うわぁっと?! 見逃してくれあずさぁっ!?」

 そんな少女が箒を片手に頭一つ高い背丈の男子を追いかけ回していた。

 意外と活発なようだ。

「あんた掃除当番でしょっ!? なに逃げようとしてんのよっ!!」

「おわっ?! だから部活だって! サッカーの大会が近いんだから仕方無いだろっ?!」

 あずさの振りおろした箒を、真剣白刃取りよろしく両手で挟んで防ぐ健太。二人の攻防は一進一退のようである。

 こんな状況もクラスメイトには日常茶飯事なようで、特に介入する人間も無く、二人のやりとりをほほえましく見ながらそれぞれの用事に取り組んでいた。


『あーまたやってんなぁ』

『よく飽きねーよな』

『まあ、夫婦喧嘩みたいなもんだからな』

『ハハハハハ』


『夫婦じゃないっ!!』

 好き勝手に言うクラスメイトに、同時に振り向いて叫ぶあずさと健太。

 そんな息ぴったりな幼なじみコンビに、クラスメイトたちはニヤニヤしながらなま暖かい視線を送った。

 そして、はからずもハモってしまったあずさと健太はそろって赤くなった。

 が、このときの立ち直りは健太の方が早かったようだ。

「じゃ、じゃあな!」

「え? あ、うん……。じゃなくてっ!? 健太ぁっ!!」

 しゅばっと片手をあげて逃げ出す健太を見送ってしまったあずさは、我に返って声を上げた。だが、サッカー部エースの健脚を誇る幼なじみは、すでに影も形もなかった。

「あ・い・つうぅ〜〜っ!!」

 怒髪天を突く勢いで気勢を上げるあずさ。その肩を、軽く叩く手があった。

「まあまあ、落ち着きなよ? あずさ」

「カンちゃん」

 振り向いたあずさの目の前にいたのは、カンちゃんこと神崎かんざき 唯子ゆいこが、にやにや笑いながら立っていた。

 東原に入学してからできたあずさの友達である彼女は、ショートカットにフレームレスのメガネをかけ、身長はあずさより頭ひとつ分ほど高いが、女性らしい体の起伏に欠け、見ようによっては少年のように見える少女だ。

 ちなみにあだ名がカンちゃんなのは、あずさが一年の時の同じクラスに高木たかぎ 唯子ゆいこというクラスメイトが居たため、区別するために『カンちゃん』『タカちゃん』と呼ばれていたためである。

「まあた逃げられたねえ」

 唯子がそう言うと、あずさは箒とちりとりを手にしたまま腰に手を当て、頬をふくらませた。

「もうこれで三日連続! 健太のヤツ、許さないんだから!」

 ぷりぷりと怒るあずさの姿を見て、唯子は小さく笑った。

「まあ、サッカー部は毎年全国大会に出るくらい優秀な部だからねえ。その練習ともなれば、教師も強くは言えないわけだ。我が文芸部と比べるべくもないね」

 腕を組みながらしたり顔で言う唯子にあずさは仏頂面になった。

「そういう免罪符みたいなのはダメだと思うのよ。ただでさえ健太のヤツはズボラなんだから……」

 ぶつぶつつぶやくあずさの横で、唯子が腕を組んでおう仰にうなずいた。

「たしかに。だらしない格好をしていることも多いし、遅刻も多い。宿題も忘れてくる」

 唯子があげていく健太の欠点にあずさがその通りとばかりにひとつひとつうなずいていく。

「お調子者だし、バカだし……」

 しかし、徐々にそれが悪口へとシフトしはじめると、あずさの眉間にしわが寄った。

「顔もブサイクだし、足は臭いし……」

「そ、そんなこと無いよっ!?」

 唯子の悪口雑言をさえぎり、あずさが声を上げた。

「あれでなかなか細かいところに気がつくし、時々だけど優しいし、それに遅刻や宿題忘れはサッカーの練習にクタクタですぐに寝ちゃうからだし、試合の時はカッコイイし、サッカーのことを楽しそうに話す健太は……はっ?!」

 頬を赤らめ、軽く身をよじりながらそこまで語ってしまってから、自分がなにを口走っているのか気づくあずさ。あわてて唯子の方を見ると、彼女はすでにあずさから距離をとっていた。

「あ、いや、その、違うの……」

 唯子以下、クラスメイトたちがそろってにやにや笑う中、あずさは真っ赤になりながらしどろもどろに否定しようとする。

「ご、誤解よ? あたしと健太はそんな仲じゃあ……」

『はいはいごちそうさま♪』

 そんなあずさに一同が異口同音の言葉を返し、あずさは頭のてっぺんから蒸気を吹き出すほど真っ赤になった。




「おまた〜」

「やっときたね」

 教室掃除を終え、担任に報告してきたあずさは、昇降口で唯子と合流した。

 本日は用事があるため、さっさと帰らねばならないからだ。

 そんなことは知らない唯子はいじっていたスマートフォンをしまって、歩き出しながら不思議そうな顔で切り出した。

「今日は高杉の練習を見ていかないのかい?」

「うん、今日は用事があるからね。健太には話してあるし、だいじょうぶだよ」

 唯子に答えながら笑うあずさ。唯子にしてみれば、あずさが健太より優先する用事というものに興味を引かれてか、おや? という顔になった。

「用事? ふむ、大切な幼なじみより大事な用事とは気になるね」

「た、大切って……。だからそんなんじゃないってば。用事はパパの用事。重要な実験のために研究所で缶詰になってるんだけど、大事な書類を忘れたとかで、持っていかなきゃいけないのよ。ついでに着替えとか差し入れとかも持っていきたいしね」

 すこし呆れたように答えるあずさに、唯子は軽く思案するように顎に手をやった。

「『光波の結晶化に関する研究』だったか? これに成功すれば光波エネルギー技術はさらに前進すると言われている」

「んー? よくわからないけど、大事な研究みたいね。もう一週間も研究所に泊まり込んでるし」

 すこし疲れたように首を振るあずさ。三年前に母親が蒸発して以来、家事全般を受け持っている彼女だが、父親のズボラさ加減には手を焼いている。

 なんとか直したいところではあるが、なかなか難しいようである。

「まああれだ。最近は物騒だしな。気を付けて行きなよ?」

「……またなんかあったの?」

 不安そうに言うあずさに、唯子はスマホを取り出して画面を見せた。


『謎の巨大戦艦が沖縄沖で戦闘か?』

『コキュートスファング怪ロボット、香港で暴れる!』

『ラステニア王国軍とゲリラの衝突、拡大!』

『都心にて謎の怪人同士の戦い? その真相は?』

『スティールジョージ、テログループ摘発!』

『純国産航宙護衛艦‘あきつしま’初航海へ』


「火星ステーションが音信不通になってアメリカ軍が宇宙艦派遣したなんてニュースがあったばかりなのに……」

 スマホの画面に踊るニュースの数々に、あずさは眉根を寄せて眉間に深いシワを刻みながらつぶやいた。

「どれも私が懇意にしている確度の高いニュースサイトのニュースだよ。九分九厘事実だろうね」

「公共の電波には乗らないニュースか……」

 唯子の言葉に、あずさは暗い表情でつぶやいた。彼女は父親の仕事の関係から、その手の情報規制がかかっていることは聞いたことはあった。だが近年、身近なところでも発生する危険に関しても規制されていることも少なくはなく、かえって危険を呼び込んでしまっている節もあり、あずさのなかでは大きな疑問となっていた。

「なんで隠そうとするんだろうね?」

「ふむ。ある程度は仕方がないだろうね。国民に知らせても不安をあおるだけだし。まあ、ザルも同然に漏れているわけだが」

 あずさの疑問に答えながら肩をすくめる唯子。それを聞いてもあずさは納得できそうに無かった。

「ともあれ、気を付けるに越したことはないよ。あずさ」

「……うん、そうだね」

 気遣う親友の言葉に相づちを打ち、あずさは家路についた。




 唯子と別れて自宅にたどり着いたあずさは、ある程度まとめてあった着替えや、父親の言っていた書類をまとめて荷造りをした。

 差し入れはあずさお手製のクッキーだ。

 もともとお菓子造りは好きだった彼女は、家事スキルの向上にともなってその腕前を上げており、以前研究所に差し入れたときは大好評だった。

「健太には明日ね♪」

 差し入れ分とは別にラッピングしてリボンで口を閉じたクッキーを見て、あずさは幸せそうに笑うと、制服姿のまま家を出た。




 交通費が出るのをいいことに、タクシーで研究所に乗り付けたあずさは正門ゲート前で降りたった。

 研究所の構内は基本的にタクシーの乗り入れが禁止されているためだ。

 ゲートで立哨しているもはや顔なじみとなった警備員と挨拶を交わし、正門をくぐると見覚えのある車が、奥から出てきた。

「陽二さん!」

 近づいてきた車に向かって手を振りながら声をかけると、車はあずさの近くまで来て停まると、窓が開いてすこし痩せ気味でボサボサの頭をしている無精ひげの男性が顔をのぞかせた。

 胸に付けたネームプレートには、『高天原たかまがはら 陽二ようじ』とある。

 彼はあずさの顔を見て柔和に笑った。

「やあ、あずさちゃん。これから教授のところかい?」

「はい、書類を届けに。あとは着替えと差し入れを」

 陽二の問いに、あずさはにこやかに答えた。

 あずさの父の教え子だった陽二は楠家と懇意にしており、あずさにとっては年の離れた兄のような存在だ。

 専攻は人工知能だが、あずさの父の研究にも協力してくれている。

「今日はもうあがりですか?」

「ああ、明日は大学の方に顔を出さなきゃいけなくてね。実験には最後まで立ち会いたかったんだけど……」

 そう言って困ったように笑う。あずさもつられるように笑ってしまったが、時計に表示された時間に気づいて、あ! っとなった。

「私、もう行かないと……」

「そうか。それじゃあ帰りは家まで送ってあげるよ。帰る頃には暗くなってそうだしね」

「え? で、でも……」

 陽二の申し出に戸惑うあずさだが、彼はにこやかに笑うと「正門を出たところで待ってるから」と言いながら車を発進させてしまった。

 それを見送りながら、あずさは苦笑いを浮かべた。




 気を取り直し、研究所の本館へと足を向けるあずさ。

 都内から離れた場所にある研究所の敷地はなかなかに広いが、あずさは迷うことなく歩き始めた。

 そうやって向かいながら、荷物と差し入れが入った手提げ袋を見るあずさ。父や研究スタッフの喜ぶ顔でも思い浮かんだかその顔にほほえみが浮かんだ。

 と、いきなり突風が吹き抜けた。

「きゃあっ?!」

 悲鳴を上げ、手提げを胸に抱く。

 そして、顔を上げた彼女が見たものは。

 天を突く光の柱。

 研究所本館を貫いたそれに、あずさの顔が絶望に染まった。

「パ……」

 だが、本当の絶望は、その後にやってきた。

 本館が、まるで風船のように膨れ上がり、光があふれ出た。

 それは、あっという間にあずさを飲み込んでしまった。



 白い空間に手提げ袋が吹き飛び、書類やクッキーが舞い散りながら消えていく。



 そうして、楠あずさという少女は世界から消え去った。


 いよいよ始まりました『閃光闘姫 クリスティア』!

 スローペースではありますが、どうぞよろしくお願いします!

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