勇者召還
お約束な展開です。
何のひねりもありません...
あれはうだるような夏の暑さが未だに残る9月のとある日だった。
学校から帰る途中に、わたしは突然異世界へとトリップした。
そのとき、わたしと一緒に歩いていた親友を巻き込んで。
何の前触れもなく西洋風な異世界へと引きずり込まれて混乱するわたし達を他所に、目の前の偉そうな奴等は言った。
「勇者様。なにとぞ我らの為に魔王を討ってください。」
―――はい?思わず耳に手を当てて聞き返しちゃったよ。
勇者ってなんだよ、魔王ってなんだよ?!
奴等いわく、わたしはこの世界で最強の能力を持つ祝福された存在。異世界より来たりし勇者様らしい。
そして、今現在世界に蔓延っている魔物を統率している魔王を倒すのが使命だそうだ。
『お前勇者なんだから、出来て当然だろう?』
って顔した奴等を見てムカムカしてきた胸の内をなんとか理性で押さえ込んで、兎に角今現在最優先に考えるべきことを聞いた。
今現在の最優先事項。それは、元の世界への帰還。
だがしかし。その問いに奴等は「こいつ何言ってんの?」って顔で言い放った。
「代々勇者様は魔王を討伐なされた後はこの国の守護と繁栄の為残られるのが常。それに―――」
呼び寄せる術はあるが、元の場所へと戻す術はございません。
その言葉に、わたしは一瞬頭が真っ白になった。それは数秒のことだった。
我に返らせてくれたのは、ずっとわたしの隣で静かにわたしと奴等のやり取りを聞いていた親友の存在だった。
わたしの制服の裾をぎゅっと掴んで小さく震える親友の顔は真っ青で今にも倒れそうだ。
自慢じゃないがわたしの親友はそんじょそこらの美少女じゃない。超がつく美少女だ。
そんな親友の大きな瞳からぽろりと涙が零れた瞬間、わたしは「キレ」た。
「ふっっっざけんなーーー!!!」
大声でわたしがそう叫んだ瞬間、目映い光が迸った。
ハリケーンかというほどの強い風がいくつも竜巻を作り、目の前の奴等を弾き飛ばす。
落ち着いてください、とか声が聞こえてきたが、聞こえん。一切受け付けん!
なんか圧迫してくるような気配があったけど、わたしが拳に力を入れるとパァンというけたたましい音と共に圧迫感は消え去った。
奴等の言う「最強の能力」というのはハンパなかった。
何の術も発動させなくてもわたしの身の回りを守る魔法防御、無限の魔力、巨大な岩をも叩ききれるほどの力。
なにそれチートっていうの?へぇ。
後になって頬を赤く染めながら当時の様子を熱弁してくれる親友に、わたしは決心した。
―――さっさと魔王倒して、元の世界へ還る方法考えよう。
こんだけチートな能力添付されたら魔王討伐なんてサクっと終わっちゃうだろ。魔王どんだけ強いのか知らんけど。
そもそも、この国の皇太子ってのが気にいらない。
やたらとキラキラしくていかにも王子様って風情で、どこかナルシストっぽくて自己陶酔っつーの?
しかも、そのキラキラ光線をわたしと親友に浴びせてくるのだ。
わたしには「勇者」という肩書きを今後有効活用するため、そして親友には下種な思惑のため、自分の手の内に収めておこうかって腹なのは見え見えだった。
一度、深夜に親友の部屋に忍び込もうとしていたのを遠視(超能力っぽいけどこれも立派な魔法)で発見して、痛めつけてやった。主に顔を。
その後数日皇太子の姿が王宮から消えた。あれはけっこうスっとした。
え?王様どうしたって?勇者召還の次は王様に謁見。これ鉄板。もちろんした。
王様は普通だった。普通に王様やってた。どこのRPG?って感じだった。
おぉ勇者よよくぞ参った。必要なものは全てこちらで手配するから1ヵ月後に魔王討伐のため旅立ってくれ。
―――うん。もう腹も立たなかった。さすがに王様に手を出したらヤバいだろうと思ったし。
しかし、この異世界にはまともな奴はいないのか。そんな風に絶望してたけど、旅の仲間を紹介されたときに初めて常識人と出会った。
身なりは派手すぎず、だけど上等なものをさらりと簡素に着こなし、茶色の髪の毛と黒い瞳は日本人に近いものがあった(地味という点で)けど顔はそこそこ整った、第二王子。彼は素晴らしかった。
まずは突然了承なくわたしたちを異世界へと呼んだことに頭を下げた。そして、王族としての責を全うするため魔王討伐の旅の一員として同行すると言った。
どこぞの皇太子は剣など振るったことありませ~んって感じの細っこい優男だったのに対して、第二王子は騎士団に属しているというだけあって逞しかった。
いや、マッチョじゃなくて、細マッチョのちょっと上って感じ。
わたしが「勇者様って呼ばれると虫唾が走るから名前で呼んで」って言うと、少し困ったように笑った。
それに、第二王子はわたしの親友に対しても紳士的だった。
他の奴等はわたしの超絶かわいい親友のことを「容姿がいいだけのただの勇者のオプション」って扱いをしてたのに、第二王子はわたしと親友を同等に扱った。
これが一番ポイント高かったかな。
主人公がややバイオレンス傾向にあります。