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シアン色の残響

掲載日:2026/06/19

三角関係が大好きなので書きました。



大崎まどか、22歳。


就職を機に東京を離れ、祖母の家がある京都に引っ越した。


祖母の家に住むことも考えたが、就職先の社員寮が空いていたのでそこに住むことにした。



どうしても東京を離れたかったのだ、大好きな彼を忘れるために―――




5月、私は憧れだった看護師として働き始めた。


「大崎さん、点滴の準備終わっとる?」


「はい!」


まどかは「大好きな彼」を忘れようとしたことも忘れるくらい、仕事を覚えるのに必死な毎日を送っていた。


しかし、ある日病室のテレビから流れる歌にまどかは足を止めた。


あの声を、無視できるはずがなかった。


(忘れたかったはずなのに......)


まどかが立ち尽くしていると、先輩が声をかけてきた。


「大丈夫?」


「あっ、大丈夫です!すみませんっ!」


まどかは泣き出しそうなのをぐっと堪えた。


「去年デビューしたのに凄い人気やなぁ、大崎さんも好きなん?」


「あ、いえ……何の曲かなぁって思って……」


「若いのに知らんの?今大人気の『Cyan(シアン)』、ボーカル歌上手いよなぁ」


「本当……ですね。」


「さ、仕事しよか!あとちょっとやで。」


まどかは誰よりもその歌声を知っていた。


Cyanのボーカル、(ユー)

本名は田上 勇(タガミ イサム)


まどかの元恋人で、今は人気バンドのボーカルだ。



(もう、遠いなぁ)


勇から離れたくて、東京から京都に来たのに、まどかはとてつもなく寂しい気持ちになっていた。


そんなことを考えてるうちに、社員寮まで帰ってきていた。


「大崎さん、お疲れ様」


「えっ?」


まどかが顔を上げると、同期入社の研修医、神崎(カンザキ)先生がいた。


「あ、ごめんなさいっ!神崎先生、お疲れ様です!」


「タメ口で良いって、同期なんやから」


神崎は医師に加えて、切れ長な端正な顔立ちかつ親しみやすさから既に大人気だ。


「今から社員寮の同期みんなで飲もうって言ってるんだけど、大崎さんどう?みんな来たら喜ぶで」


(1人でいると余計なこと考えちゃうし……たまには良いか)


「行きます!」


「じゃ僕の部屋で開催やから、用意できたら来てな」


神崎はまどかに近づいて、目線を合わせると「部屋に入ったら、タメ口な」と言うと自分の部屋に入っていった。


(ずるい……)


まどかは耳まで真っ赤になっていた。



――――――――――――――――――


「お邪魔します…」


「入って入って!」


神崎の部屋には既に5人ほどいて、盛り上がっていた。


(もっと静かな飲み会かとおもってたな…)


「大崎さん、テキトーにそこらへん座ってな」


「あ、はい」


「まどか固くない?」


同期の看護師の絵美(エミ)がスルメを食べながらまどかに話しかけてきた。


(何で絵美はそんなに打ち解けてるの…)


まどかが心底不思議に思ってる間も、絵美はマシンガントークで皆を笑わせていた。


「そういや、まどか彼氏できた?」


「急に何!?」


「皆でさっきその話してたから」


絵美がそう言うと、みんなの視線が一気にまどかに向けられた。


「……いないけど」


絵美はふふんっと笑うと、神崎にむかって「やって、神崎先生良かったな」と叫んだ。


「いや、大崎さんちゃうで!?彼氏おるんかなーって話してただけやで!?」


(神崎先生なら、悪い気はしない…私って都合良いのかな…)


絵美はまどかの耳元でこそっと問いかけた。



「まどかはどうなん、神崎先生」


「どうって、そんないきなり」


「大崎さん困っとるやろ」


神崎が止めに入ると絵美がにやにやしながら、まどかから離れた。


「先生、まだまだやなぁ」


「なんやねんそれ」


(2人のほうがよっぽどお似合いに見える…)


まどかは2人が冗談交じりで話す姿を見てそう思った。




暫くして、みんなの酔いが回ってきたところでお開きになった。


最後の1人になったまどかが外に出ようとしたところで、神崎はまどかの腕を掴む。


2人の目が合う5秒間、時が止まったみたいだった。


「大崎さん、俺、本気で気になってる」


神崎の真剣な瞳に、まどかが疑う余地はなかった。


「まどかは俺と付き合ってるんだよ」


まどかと神崎が一斉に振り返ると、そこには病院の社員寮にはふさわしくない、サングラスにキャップを被った長髪の男が立っていた。


「い、(イサム)


「……そこの人、悪いけどまどかから離れて」


その言葉で神崎はぱっとまどかの腕から手を離す。


まどかは驚きと、久々に会えた嬉しさが入り混じった何とも言えない感情の渦に飲み込まれていた。


「まどか、ちょっと話せる?」


まどかは一瞬神崎を見て、すぐに勇に視線を移した。


まどかは大きく頷く。


「神崎先生、ごめんなさい。また事情は話します。勇、こっち来て。」


神崎と目が合った勇はふっと勝ち誇った顔をして、まどかの家に入っていく。


神崎はまどかに声もかけれずに、2人が入っていたドアを暫く見つめていた……。



――――――――――――


部屋に入るなり、勇はまどかをじっと見た。


「勝手に来られると困るんだけど」


そう言われた勇はきょとんとした顔でまどかを見つめた。


「勝手にって…まどかが勝手に俺から離れたんだろ?」


勇はそう言うと、まどかに近づき、壁際に寄せた。


まどかはパッと顔を逸らし、勇のペースに飲まれないよう必死だった。


(勇を好きな気持ちを封印したいのに)


まどかは勇を押しのけようとするが、勇はぴくりとも動かなかった。


「なんで勝手に逃げたんだよ」


「…勇のせいだよ」


「は?」


「勇がメジャーデビュー決まって、そこから全然連絡できなくなって、忙しいのかなって、思ってた。」


まどかの目から大粒の涙が流れ落ちる。


「久々に会えると思ったあの日、勇何してた?」


子どものように泣きながら問いかけるまどかに、勇はふいっと横を向いた。


「……答えられないんでしょ」


(あの日、綺麗な子と腕を組んでる勇を見て、信じたくなかった。その後キスしてたことも。)


「…出てって。私のなかでは終わったの。」


「……見てたのかよ。」


勇ははぁと溜息をつくと、もう一度まどかをじっと見た。


「キスぐらい、なんてことないだろ。」


その言葉を聞いた瞬間、まどかの中のひとすじの希望が崩れ落ちた。


(私が見たのは、やっぱり勇だったんだ…。あんなに、俺は好きな人としかキスしないって言ってたのに)


まどかは反論する元気もなくなり、ただ涙を静かに流すことしかできなかった。


静寂の中、インターホンが鳴り響いた。


その後に、「大崎さん?忘れ物届けに来たんやけど」

と神崎の声が聞こえた。


「あ、い、今出ます」


まどかは急いで服で涙を拭うと、顔を見られないように少しだけ玄関を開けた。


「携帯、忘れてたよ」


「…っありがとうございます」


声が震えてるのを悟られないようにしたが、様子がおかしいのは一目瞭然だった。


神崎は「大丈夫?」と顔を除くと、驚いた顔をしたあと、勇を見た。


「……あんた、何で大崎さん泣かしてんの」


「お前に関係あんのかよ」


「ある、僕が大崎さん好きやから。好きなことには泣かれたくないやろ」


神崎の真っ直ぐな声に、まどかはどきっとした。


(神崎先生っ…)


「…お前が好きだからなんだよ。」


勇をそう言うと、まどかの手を引き自分の胸の中へ引き寄せる。


まどかが反応する余地もない間に、勇はまどかにキスしていた。


「っ」


まどかに押された勇は、また溜息をつき、帰る支度をし始める。


「…白けたわ。まどか、俺は諦めないからな。また連絡する」


(勇、今更どういうことなの…勇がわかんないよ)


そう言うと、勇は玄関に向かい、神崎の耳元で「お前に俺は越せないよ」と言うと、まどかの家を出ていった。


「…なんやあいつ」


「神崎先生、ごめんなさい…変なとこ見せちゃった」


まどかの困ったような笑顔に、神崎は自然とまどかを抱きしめていた。


「…その場のノリじゃなくて、僕は本当に大崎さんが好きやから。あの男は誰なんかも聞かん」


(優しいなぁ)


自分の気持ちも定まっていないまどかは、ここで神崎の好意に応えることに罪悪感があった。


「……神崎先生、ありがとうございます。今日は少し考えても良いですか?」


まどかが上目遣いで神崎をみると、神崎は「あ、うん」と返事をして顔を真っ赤にして少しまどかから離れる。


「あ、そのごめん。こんな付き合ってもない男に抱きしめられたら嫌やよな」


「えっと…嫌ではなかったです」


「それはポジティブに捉えて良いってこと?」


(神崎先生を気になってるのは本当、だけど私は勇を忘れられるの?)


「………はい」


(……勇は忘れるの。)


「今日はごめん、事情も知らないのに首突っ込んで」


「いえ、助かりました。私1人だったら、泣いて終わってたから。」


(私は勇を前にすると何もできなくなるから…)


「ほな、僕も帰るわ。」


「ありがとうございました」


「返事、待ってる」 


神崎はニカッと笑うとまどかの部屋を後にした。


バタンと扉が閉まったあと、


勇の唇の感触と、


神崎に抱きしめられた温かさを思いだして、胸の鼓動が速くなっていた。



(勇は一体何を考えてるんだろう…)


暫く玄関から動けないまま、まどかは玄関を見つめていた。


―――――――――――――――


「うわ、目が腫れてる…休みで良かった」


朝目覚めても、まどかは勇を忘れることができなかった。


同時に、神崎への想いも募らせている自分がいることに気づいた。


(だめだ、部屋に1人でいると余計なこと考えちゃう)




まどかは出かける決心をした。


――――――――――――


(河原町、人多いなぁ)


街に出てきたものの、あまりの人の多さに圧倒されたまどかは、カフェに入ることにした。


注文して席で待っていると、肩を叩かれた。


「神崎先生…」


振り返ると、神崎の姿があった。


「ごめん、話かけるか迷ったんやけど…偶然会うなんてって思ったら、うれしさでつい」


(神崎先生って、見た目はクールだけど本当に素直な人)


まどかはふふっと笑い、「どうぞ」と椅子を軽く引いた。


「ありがとう。しかし河原町はいっつも人多いなぁ」


「本当、疲れちゃって早々にカフェに入っちゃいました」


「僕も!って、大崎さん、タメ口な」


「あ」


2人はそう言うと笑い合った。


(神崎先生といると落ち着くなぁ)


神崎は気遣ってなのか、昨日の話題は一切出さなかった。 


お互いの仕事の状況や、休みの日によくすることなど、他愛もない会話を楽しんだ。


そんな中、店内のbgmで、またCyan(シアン)の曲が流れ始めた。


(この曲は……忘れもしない…初めて勇が私にって…作ってくれた…)


「……さん、大崎さん」


「あ、えと、ごめんなさい!ぼーっとしてた…」


「大丈夫?もう帰る?」


「そうだね、帰ろうかな」


何とか笑顔でそう答えたまどかは、頭の中には、高校生のときに、勇が歌った情景で頭が一杯だった


(()()()…プレゼントはよく分かんないから、歌にしたって行ってたんだよね)


ピロン。



スマホの通知を開けると、今1番来て欲しくなかったであろう、勇からのメッセージだった。


『明日まで京都にいる。どこかで話せたら話したい。』


暫く文章を見て立ち尽くしているまどかに、神崎はそっと声をかけた。


「大崎さん大丈夫?帰れる?」


(神崎先生となら、こんなメッセージ1つで心が乱れることもないんだろうな)


「…大丈夫!先輩から明日のシフトについての連絡でした!」


「それならええけど…」


神崎は何かを察していたが、それ以上追求することはなかった。


まどかはスマホを見えないようにするため、鞄の1番奥にしまい込んだ。

―――――――――――――――


社員寮に近づいたところで、神崎がふと立ち止まった。


まどかが不思議そうな顔で神崎を見ると、微笑んだ。


「僕ほんまに大崎さんが好き」


「えっ」


突然の告白に、まどかは何も言葉を言えずにいた。


「僕のこと、徐々に知ってくれたら良いなって思う。待つって言ったのにごめん、僕と付き合ってほしい」


「あ、えっと…何で私…?」


(神崎先生くらいモテる人だったら私の他にもいるはず…)


「……新入社員のオリエンテーションで、みんなに気遣ってる姿見て良い子やなって思って。そこから目で追ってるうちに、段々気になって、いつの間にか好きになってた。あと、可愛い」


「えっと…」


まどかは自分から理由を聞いたにもかかわらず、顔を真っ赤にしてうまく返答ができない。


「ごめん、完全に一方的に気持ちぶつけて自己満…よな。でも、何か今言わんとなって思った」


先程までの笑顔とは違い、真剣な神崎の眼差しに、まどかも視線を逸らせずにいた。


(神崎先生といるのは楽しいし、何よりこんなに素直に気持ちを伝えてくれる人いない。)


「正直、まだ神崎先生のこと好きか分からない…でも今日1日一緒にいて、楽しかった」


まどかは一呼吸する。


「…お試しで1ヶ月、付き合いませんか?」


「え…え!?」


神崎は心底驚いた声を出した。


「ほんまに!?」


「…うんっ」


まどかは今日一番の笑顔を見せると、神崎はぎゅっとまどかを抱きしめた。


「ありがとう、本当に嬉しい…」


「大げさだよ」


「あっ、またやってしもた。いきなりこんな抱きつかれたら嫌やよな?なんでも言ってな」


神崎は我に返るとすぐにまどかから離れた。


(嫌じゃ…ないんだけどな)


どうやら神崎は気持ちが昂ると行動にすぐでてしまうらしい。


「今日からお試しやけど、よろしく」


「よろしくお願いします!」


握手をして、そのまま2人は手を繋いで歩き始めた。


―――――――――――――――


「もう、社宅やな」


「うん」


神崎は顔に「寂しい」と出ていたが、まどかにはしなければいけないことがあった。


「あの、昨日の…知り合いだけど」


まどかが恐る恐る話し始めた。


勇は元彼で、彼の浮気が原因で別れたこと、勇から話したいと言われていることを神崎に伝えた。


「……話すの?」


「……うん、話さないと前に進めない気がするから。」


「分かった、応援する」


「ありがとう」


「じゃ、おやすみ」


神崎はじっとまどかを見つめて、「キスしたい」と小声で言う。


「っ」


(神崎先生って思ってたよりド直球タイプだ…!)


「けど、お試し期間はやめとく。じゃ」


それだけ言うと、神崎は自分の部屋に逃げるように入っていった。


まどかはしゃがみ込んで、暫く胸の鼓動が落ち着くのを待った。


――――――――――――


「はぁ」


まどかは自室に入ると、スマホとにらめっこしていた。


「電話か…直接会うか」


幸か不幸にも、明日も珍しく休みだった。


(電話ハードル高いなぁ…)


勇からのメールの返信を打っては消して…を繰り返して30分が経過していた。


また文字を打とうとしたときに、着信がなり咄嗟に押してしまった。


『まどか?』


勇だった。


『まどか、聞こえてる?』


(聞こえてる…)


『…メール見た?』


「うん」


(やっぱり、勇の声聞くと、だめだなぁ)


『急遽明日の朝東京に帰ることになって、電話した』


「うん」


『単刀直入に言う……俺、浮気してないから。』


「……」


(キス、してたのに?)


『今は理由言えない、けど、まどかを裏切ることはしてない』


「……意味わかんないよ」


(あんなの見て、浮気じゃないってどう説明するの?)


『ごめん』


(勇が謝るって、ずるいよ)


勇は余程のことがない限り謝ることはなかった。


いや、謝るようなことしたことなかった。


(本当は勇が浮気するような人じゃないのは私が一番よくわかってる、理由があったとしてもあの光景はショックだな…)


「うん、もう気にしてないよ」


『……なんだよそれ』


声のトーンが下がった、電話は顔が見えない分、より一層冷たく感じた。


「勇、私たちもう終わりにしようよ」


(もし勇が浮気してなくても、芸能人の勇と私じゃ釣り合わない。それに、私はこれからもずっと心配してると思う、人気者の勇のことを。私だけの勇でいてって思ってしまう)


まどかは泣きそうになるのをぐっと堪えて、淡々の話すよう心がけた。


「私たち、価値観合わなくなってきてるよ。芸能人と一般人、時間も合わないし。物理的にも遠いし。」


『……なんでそんなこと言うんだよ』


あの強い勇の声が震えている気がしたが、まどかは続けた。


「もうね、振り回されたくないんだ。勇といると、ずっと落ち着かないの」


(ずっと楽しかった……ずっと幸せだった…できるなら隣で歌を聴いていたかった……)


『…俺、別に頻繁に会いに来るよ』


消えそうな、今までにない勇の声に、まどかは今にも泣きそうになっていた。


「私ね、昨日部屋に来た人と付き合うことにしたの」


『……』


「だから、勇とは続けられない。」


『……そういうことかよ。』



一気に冷たさを倍増させた声が聞こえてくる。


「だから、うん…今までありがとう」


『…俺よりあいつが良いのかよ』


「……優しくて、一途で、一緒にいると楽しくて…私には勿体ないくらい」


『……そうか。』


「勇、元気でね」


まどかはこれ以上続けたら本心がバレそうで、


涙が溢れそうで、


通話を終了した。


勇がプレゼントしてくれた曲の歌詞、『彼女と どんな夢をみようか 叶えてあげたい どんなことでもいつでも』が頭を過る。


「私は、ずっと勇といたかったよ…っ」


まどかかはこれが最後の涙、と思い気が済むまで泣いた。


―――――――――――――――


あれから暫くして、勇から連絡来ることがなかった。


まどかは神崎とのお試し期間は終わり、正式にお付き合いすることになった。


星夜(せいや)くん」


まどかは正式に付き合い始めてから、神崎を下の名前、星夜(せいや)と呼ぶことにした。



「まどかちゃん、おはよう」


(今日も星夜くんかっこいいなぁ)


まどかも神崎を徐々に好きになり、今ではすっかりラブラブだった。


当初は勇のことを忘れられるか不安だったが、神崎の一途な愛を受け、徐々に勇のことを忘れていった。


そんな中、久々に街中で勇の声が聞こえた。


(新曲か……)


巨大なスクリーンに、新曲のmvが映し出されていた。


「まどかちゃん、好きやっけ?」


「うん…ちょっと気になるな…って」


まどかが見始めると、近くにいた若いカップルがmvについて話し始める。


「これ、ボーカルの(ユー)が忘れられない恋人に向けた曲らしいよ」


「え、そやったん?」


「サビがメッセージになってるんやって」


「それにしては何か強気な曲やなー」



『 愛しい人 俺を忘れることができるか?


できないだろ。


また多分戻ってくる。


俺の声を聴いて。


あいつの腕に抱かれながら


俺の歌に夢中だろ       』



「……まどかちゃん、大丈夫?」


「え?」


まどかは自分でも気付かない内に涙が出ていた。


「え、あ、ごめん!大丈夫!なんか、なんだろうね、感動しちゃった」


「…本当に?めちゃくちゃ好きなん?このバンド」


「ちょっと昔ね」


まどかは涙を拭うと直ぐに笑顔に戻した。


「ごめん、変な空気になっちゃったね。もう大丈夫、行こ!」


「もう良いの?まだ曲終わってないで」


「うん、大丈夫!早く行かないとランチに間に合わないよ!」



まどかは早く逃げたかった。


勇の声から。


歌から。


また戻りたくなる自分を抑えるために。


(大丈夫、私今のほうが、幸せだから)


神崎を見ながら、胸がチクリとした。



end

短編の予定ですが、3人の行く末も書きたい気がしています。

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