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第7話:氷の王の進軍

 ラングレイ王国の王都は、ついに最期の時を迎えようとしていた。

 城門を突き破った魔獣の群れが、悲鳴を上げる市民たちを追い詰める。ジュリアン王子は剣を握る手さえ震わせ、ミラは祈りの言葉すら忘れて震えていた。


 その時だった。

 地平線の向こうから、地響きのような音が鳴り響く。

 空を覆っていた魔獣の群れが、一瞬にして凍りつき、砕け散った。


「な、なんだ……!? 何が起きた!?」


 ジュリアンが目を剥く。

 吹雪と共に現れたのは、数千の白銀の騎兵隊。そして、その中央で巨大な白狼を操る一人の男。

 氷狼国の王、リュカ・ド・ヴォルフガング。

 その隣には、彼に寄り添うようにして、白光を纏ったエルサが馬車に乗っていた。


「エルサ……! ああ、エルサ! 戻ってきてくれたのか!」


 ジュリアンは狂喜し、泥にまみれた姿で駆け寄ろうとする。

 だが、エルサが軽く手をかざすだけで、氷の壁が彼の行く手を阻んだ。


「勘違いしないでください、ジュリアン殿下。私は、この国を救いに来たのではありません」


 エルサの声が、魔法の力で戦場全体に響き渡る。

 彼女が掌を空へ向けると、ドロドロに汚れていたラングレイ王国の空が、一瞬で澄み渡った。……ただし、それはエルサの周囲、氷狼国の軍勢が立つ場所だけだった。


「私はただ、リュカ様に『私の故郷の最期を見せてほしい』と頼まれただけなのです」

「なっ……最期だと!? お前、見捨てるというのか!」

「見捨てたのは、そちらでしょう?」


 エルサの冷徹な一言に、ジュリアンは息が止まる。

 横にいたリュカ様が、無造作に剣を抜き、ジュリアンの首筋に突きつけた。


「貴様が、我が妻を雪の中に放り出した下衆か。……その首、この場で叩き切ってもいいのだが、エルサの願いは『生きたまま絶望させること』でな」


 リュカ様の号令と共に、氷狼国の兵たちが動き出す。

 彼らがしたのは「救出」ではない。ラングレイ王国の貴重な資源、魔法具、そしてエルサを支持していた僅かな善良なる民たちだけを、瞬く間に「回収」し始めたのだ。


「待て! 私の民を、私の財産を奪うな!」


 叫ぶジュリアンを、エルサは冷たく見下ろした。


「殿下。貴方の国は、もう私が守る価値のない、ただの『箱』です。……ミラ様と一緒に、その空っぽの国で、永遠に『真の聖女』ごっこを続けてくださいませ」

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