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第6話:崩れ落ちる玉座と、偽りの聖女

 氷狼国から命からがら逃げ帰った使者の報告を聞き、ジュリアン王子は狂乱した。


「拒絶しただと!? この私からの呼びかけを! あの女、調子に乗りおって!」


 王宮の会議室。豪華な円卓は、今やひび割れ、埃を被っている。かつてエルサが一日中祈りを捧げて磨き上げていた城内の輝きは、もはやどこにもない。

 窓の外では、魔獣が結界の綻びを突き破り、王都のすぐそばまで迫っていた。


「殿下、もう限界ですわ! わたくしの魔力が……!」


 ミラが泣き叫びながら床に伏伏す。だが、その顔には聖女の面影はなく、やつれ果てた一人の女の醜さしかなかった。

 周囲の重臣たちは、すでに王子やミラに敬意を払っていない。彼らが目を向けているのは、北部から届いた「氷狼国の噂」だ。


「……聞いたか。氷狼国では、エルサ様が微笑むだけで冬の土から花が咲くそうだ」

「あちらは今や、魔獣一匹寄せ付けぬ楽園。それに比べて我が国は……」


 囁き声がジュリアンの耳に刺さる。彼は激情に任せ、ミラの髪を掴み上げた。


「ミラ、貴様! 『真の聖女』ではなかったのか! エルサ以上の力を持っていると言ったのは嘘だったのか!」

「ひっ、あ、痛いですわ殿下! あんな、あんな地味な女に負けるはずが……!」


 その時、轟音と共に城壁の一部が崩落した。

 ついに魔獣が王宮の敷地内へ侵入したのだ。衛兵たちは逃げ出し、召使いたちは宝物を手に我先にと脱出を始める。


「ああ……ああああ!」


 ジュリアンは腰を抜かし、玉座から転げ落ちた。

 彼が「無能」と切り捨てたエルサが、実はこの国を支える唯一の柱だった。その柱を自らへし折ったのだと、この期に及んでようやく理解した。


 一方、氷狼国の王城。

 エルサは、リュカ様に贈られた純白のドレスに身を包み、バルコニーから平穏な街並みを見下ろしていた。


「……終わりますね。あの国も、彼らも」


 背後からリュカ様の逞しい腕が回され、エルサの首筋に顔を埋める。


「悲しいか? エルサ」

「いいえ。……ただ、これほどまでに心が軽いことに、自分でも驚いているのです」


 リュカ様は低く笑い、エルサを自分の方へ向かせた。その瞳は、獲物を完全に手に入れた悦びに濡れている。


「ならば、仕上げといこう。貴様を捨てたあの王子が、一番絶望する形で見届けてやる」

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