第10話:氷の国の永久なる春
数年後。氷狼国は、大陸で最も豊かで美しい国として知られるようになっていた。
かつて「死の土地」と呼ばれた凍土は、エルサの放つ神聖魔力と、彼女を慈しむリュカの治世によって、一年中美しい花々が咲き誇る「常春の楽園」へと変貌を遂げたのだ。
城のバルコニーからは、笑い合う国民たちの姿が見える。
エルサの隣には、かつての冷酷さが嘘のように、愛おしげな眼差しを向けるリュカがいた。
「エルサ、また美しくなったな。その輝きが、私の独占欲をどれほど煽るか分かっているのか?」
「もう、リュカ様ったら……。皆様が見ていらっしゃいますよ」
リュカは周囲の目など気にする様子もなく、エルサの腰を引き寄せ、その首筋に深く、刻印を残すように唇を寄せた。彼は今でも、エルサがどこかへ消えてしまわないかと恐れるほど、彼女を熱狂的に愛し続けているのだ。
一方、地図から名を消した「旧ラングレイ王国」があった場所は、今や見る影もない。
魔獣に食い荒らされ、呪われた荒野となったその地で、二人の浮浪者が泥を啜って生きていた。
一人は、かつての輝きを失い、片足を引きずりながらゴミを漁る男。
もう一人は、髪は抜け落ち、ぶつぶつと「私が聖女よ」と虚空に語りかける狂女。
「……エルサ……すまなかった……戻ってきてくれ……」
ジュリアンが掠れた声で呟くが、その声が届くことは二度とない。
彼らがどれほど後悔し、血の涙を流そうとも、彼らが捨てた聖女はもう、彼らのことなど名前すら覚えていないのだから。
氷狼国の玉座の間。
リュカはエルサを抱き上げ、全ての臣下の前で宣言した。
「全土に告げる。我が妻エルサこそが、この国の唯一の太陽である。彼女を悲しませる者は、私がこの手で地獄へ送ろう。彼女の幸せこそが、この国の理だ」
エルサは、リュカの首にそっと腕を回し、幸せそうに微笑んだ。
かつて雪の中に捨てられた少女は、今、世界で最も深い愛の中に溶けている。
「私も、貴方をお守りします。私を見つけてくれた、最愛の王様」
氷の国に、永遠の春が訪れる。
二人の愛の物語は、これからもこの地で、伝説として語り継がれていくことだろう。




