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第1話:氷点下の断罪劇

「エルサ・ラングレイ。貴様のような『無能』をこれ以上、聖女として我が国に置いておくわけにはいかない」


 降りしきる雪の中、王宮の広間に冷徹な声が響いた。

 声の主は、私の婚約者であった第一王子、ジュリアン。その傍らには、私の実の妹であるミラが、勝ち誇ったような笑みを浮かべて寄り添っている。


「殿下……それは、どういう意味でしょうか? 私は、十年間欠かさずこの国の結界を維持し続けてきました。私の魔力がなければ、この国は……」

「黙れ! 見苦しいぞ。真の聖女は、そこにいるミラだったのだ」


 ジュリアンがミラの肩を抱き寄せる。ミラがその手に甘えるように頭を預けた。

 ミラは、私に魔力がないと周囲に嘘を触れ回り、自分こそが神殿の加護を受けていると吹聴していた。まさか王子までそれを信じているなんて。


「お姉様、ごめんなさい。でも、殿下は『愛のない結婚はしたくない』って仰るの。お姉様の弱い魔力では、もうこの国を魔獣から守れないわ」

「ミラ、貴女、自分が何を言っているか分かっているの?」

「エルサ、もうよい。貴様との婚約は今この瞬間を以て破棄する。さらに、国外追放を命じる。直ちに北の国境を越えろ」


 国外追放。この雪の中、着の身着のままで追い出されるのは、死ねと言っているのと同じだ。

 私は周囲を見渡したが、かつて私に傅いていた貴族たちは皆、冷たい視線を向けるか、嘲笑を浮かべているだけだった。


「最後に言っておく。貴様が維持していたという結界は、今日からミラが引き継ぐ。お前の代わりなど、いくらでもいるのだ」


 ジュリアンの言葉に、胸の奥で何かが弾ける音がした。

 私は、この国のためにすべてを捧げてきた。睡眠を削り、己の命を削るようにして魔力を大地に流し込み、目に見えない結界で国民を守ってきた。


 それを「代わりがいる」と。


「……分かりました。そこまで仰るなら、私はこの国を去ります」

「ふん、潔いことだ。衛兵、この女を連れて行け!」


 私は冷たい石床を蹴り、立ち上がった。

 不思議と涙は出なかった。ただ、今まで私を縛り付けていた呪縛が解けたような、奇妙な解放感だけがあった。


「ジュリアン殿下。一つだけ忠告させていただきます」

「なんだ? 命乞いか?」

「いいえ。――私がこの国を去った瞬間、私が張っていた結界はすべて消滅します。明日からこの国を守るのは、その『真の聖女』様ですね。頑張ってくださいませ」

「……負け惜しみを。行け!」


 私は衛兵に突き出されるようにして、吹雪の荒野へと追い出された。

 背後で重厚な城門が閉まる音が響く。

 極寒の風が肌を刺すが、私の心は驚くほど静かだった。


 私は、自分がどれほどの魔力を注いできたかを知っている。そして、ミラにはその百分の一も力がないことを知っている。

 私は、北へと歩き出した。

 その先にあるのは、凍てつく大地と恐れられる「氷狼国ひょうろうこく」。

 死地へ向かう足取りは、皮肉にもこれまでの人生で一番軽やかだった。


(さようなら、私の愛さなかった国。……明日、後悔しても知りませんよ?)


 吹雪に消えていく私の背中を、城壁の上の誰も見てはいなかった。

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