第六話 二人の関係
元いた中学校から、この高校に来たのは、僕と葵の二人だけである。
つまり、葵の「以前」を知る人間は、僕以外この学校に存在しない。
それは安全であると同時に、逆に小さな違和感が「説明できない謎」として、静かに積み重なっていく環境でもあった。
――――――
依然として、僕のクラスは平穏だった。
葵は自然にクラスへ溶け込み、僕は葵との関係を保ちつつ、順調に友好関係を広げていっていた。
(よかった……この学校には、葵の“前”を知る人はいない。
多少変でも、「そういう人」で済む)
僕はすっかり安心しきっていた。
実際、葵は女子としての完成度が高く、言葉遣いや距離感、気配りに至るまで、まるで最初から女子として生まれてきたかのような自然さだった。
そのすべてが、「普通に女子力が高めな子」として受け取られていた。
ただし――
知らないからこそ生まれる違和感も、少しずつ芽を出し始めていた。
――――――
それは、僕が新しくできた友達――白露翔真と談笑していた時のことだ。
「白露くん、ちょっといいですか?」
翔真が先生に呼ばれ、廊下へと向かう。
話し相手を失った僕は、何とはなしに教室内へ目を向けた。
葵がよく関わっている女子グループが固まっているのが見える。
だが、そこに葵の姿はない。今日は風邪で休みなのだ。
良くないと分かっていながらも、僕はその会話を盗み聞きしてしまった。
「葵ってさ〜、なんか女子慣れしてるよね」
「わかる〜。なんか、私らより扱いが自然っていうか」
「おまけに男子と関わるのも上手いし」
「中学時代、何してたんだろ。ほんとに」
僕は、じわりと冷や汗をかく。
これは、「前を知っている」からの疑念じゃない。
葵が、女子として完成しすぎているがゆえの――違和感。
葵は上手くやっていた。
だが、上手くやりすぎたのだ。
―――翌日―――
問題は、葵ではなく、僕の方へ向かってきた。
「薫くんって、葵と仲良いよね?」
そう声をかけてきたのは、如月紬希。
葵とよく絡んでいる女子グループの一員であり、葵と並んで「クラスのツートップ」と扱われるほど、顔が整っている。
「い、いや……」
言葉が詰まる。
僕は、女子にいきなり声をかけられて、すぐに受け答えできるような男じゃない。
「もしかして、付き合ってる?」
「いやいや、そんなことない! まじでない!」
僕は正気を取り戻し、必死に否定する。
「え〜、うっそだ〜」
薫がいくら否定したところで、意味はなかった。
普通の高校生男女ではありえない距離の近さ。
気遣いの細やかさ。
そして何より、無意識に滲み出る“元の関係”。
それらが重なり合い、逆に怪しまれてしまう。
(まずい……
葵がバレる前に、僕の方が怪しまれている)
―――帰宅後―――
ゲームのVCを繋ぎ、葵とゲームをする。
「お前、いつまで風邪引いてんだよ」
『うっせ……この体、弱ぇんだよクソ……』
「そういえば今日、学校でこんなことがあってさ……」
僕は、今日の出来事をすべて話した。
『……まじかよ』
「お前は、完璧すぎたんだ」
『じゃあ、そろそろ“普通の女子”になった方が良さそうだな』
「なんだそれ」
『薫、協力してくれ』
「意味わかんねぇよ。ちょっと待って」
こうして、僕らの“改造計画”が始まることになる。
葵を、「ちょっと抜けてる普通の女子」にするために。
僕が、「距離感のある男子」を演じるために。
二人で、“他人向けの関係性”を作る訓練が始まった。
バレないために、親友を「普通にする」こと。
僕らの次のチェックポイントが、ようやく定まった。
最近文章の書き方に迷走していますがご了承ください
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