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どうする元信  作者: Aju
14/20

14 限りなく透明に近い三角形

 そうして月は欠け、再び満ち始める。


 1週間が過ぎた週末。

 まりんは元信くんの気晴らしも兼ねて、外に連れ出そうと思った。


「ねえ、もっちゃんを気晴らしに外に連れ出したいんだけど‥‥。どこかいいとこ知らない?」

 まりんは金曜日の昼休み、岩吝図いわしみずくんに尋ねた。


 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥

「‥‥‥‥‥図書館‥‥?」

「‥‥‥‥‥‥‥‥」


 尋ねた相手が悪い。

 何しろ真人は科学オタクだ。一部の歴史に極端に詳しいのは、まりんと話がしたくて猛勉強しただけのものでしかない。

 休日の遊びスポットなど全く知らない。


 まりんまりんで「家康命」の歴史オタクだから、史跡以外のお楽しみスポットなんて知らない。


 史跡だけは避けたかった。

 だってそれじゃ、もっちゃんの悩みをより深くしてしまうだけ——。気晴らしになんかならないでしょ。

 かと言って、メジャーなTDLとかUSJとか行くようなお金はない。


 となれば、この件についてまりんが相談できる、元信くんの存在を知っているクラスメートは真人しかいないのだ。


「と‥‥とりあえず、名古屋に出てみる?」

「うん‥‥。それが、いいかも‥‥。」



「ねえ。あれ、誰?」

「えっと‥‥、たしか‥‥岩吝図いわしみずくん?」

「いたっけ? あんな子‥‥。」

まりんって、ああいうタイプが好みだったの‥‥?」


 いつもの友人たちは、まりんの最近の行動が理解できなくなってきている。

 いや‥‥、実は「家康様」以外の生身の人間に恋をしていた‥‥ということなら‥‥。

 ‥‥理解‥‥できる‥‥かも?

 ‥‥‥‥‥‥

「なんで、あの子?」



 そんな一部のクラスメートたちの(ささや)きには、まりんは頓着しない。そんなところに払う注意など、心のどこにも生まれる隙間なんか今はない。

 なにしろ、目の前に生身の推し=元信くんがいるのだ。


 何とかして、彼を笑顔にしたい。

 苛烈な戦国時代に帰るまでの3週間を、とても特別(スペシャル)な休暇にしてあげたいのだ。


 いや、そもそも帰れるかどうかすら確実ではない。

 しかも現代(みらい)で自分の人生の運命(さだめ)を垣間見てしまった——まだ14歳の少年。

 トクガワイエヤスではなく、血の通った生身の‥‥もっちゃん。

 そんな元信くんの不安を和らげるためにも、(まりん)は自分にできる限りのことをしたいと思っているのだ。


 そして、そんなまりんを笑顔にしたいのが、共に行動を始めた岩吝図(いわしみず)真人だった。


「ねえ、岩吝図(いわしみず)くんの計算によれば、そのパラレルワールドっていう世界線で、もっちゃんは自分の人生を自分で切り開いてゆここともできるんだよね? 関口の姫とラブラブなままでいることも‥‥?」

「いや‥‥、あくまでも計算は、ミクロの世界の話だけなんで‥‥。断定はできないよ。」


「ねえ、栄のあたりのデートスポット、どこか知らない?」

「‥‥‥‥‥‥」


 当の松平元信くんはそんな2人の奇妙な関係に気づいていない‥‥。ような顔をしている。


 ひょっとしたらまりんの気持ちにも真人の気持ちにも気づいているのかもしれないが、そこは14歳といえど生来の気配りの天才なのだ。


 限りなく透明に近い三角関係———。



 不思議な関係の3人が出かけた名古屋は、休日とあって人出も多かった。


「な‥‥何かの祭りでござるか?」

 駿府は、京風の落ち着いた府である。初陣もまだの元信くんにとっては、こんなごった返しは初めて見るのだろう。

「すっごい人だね。こんな朝から‥‥。」

「通過交通の要だからね。」

と、分析的な真人。


「‥‥‥‥」

 元信くんは口を開けて、林立する高層ビルを眺め上げた。

 これが、未来の町か‥‥。岡崎や刈谷どころではない。

「あの、捻れたような建物は何でござる?」

「ああ、あれはデザイン学校の建物だよ。」

「でざいんがっこ?」

「ああ、寺子屋みたいなもの‥‥は、もっちゃんの時代にはまだないか‥‥。」


「栄まで行こう。昨日調べてみたら、観覧車とか、遊べそうなとこある。」

 まりんが元信くんに笑いかける。元信くんも、そんなまりんに応えて少し笑顔をつくって見せる。


 そんな2人を、ちょっと寂しいような嬉しいような微笑みを浮かべて真人が見ている。



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頑張れ、岩吝図! 自称・片思いのエキスパート かわかみれいが応援だ! いやその、ヒーロー&ヒロインの切ない一方通行(恋というより…なんだろう? 推しのアイドルとファン、もしくは天才◎◎とパトロン、み…
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