12 恋のライバル?
岩吝図真人は、また困惑した。
岳川さんの元気がないのだ。
昨日まで夢見心地のような顔をしていた岳川さんが、今日は別人のように元気がないのだ。
何か、悩みがあるのだろうか?
元気づけてあげたい。
できれば、相談に乗って‥‥あげたい。
こんな時こそ、チャンスじゃないか? いやいや、そういう下心ではなく‥‥。
ぼくにだからこそ、できることがあるんじゃないか? 散々歴史資料を勉強してきた、ぼくにだからこそ‥‥。
そうだ! 勇気を出せ! 今だ! 踏み出すんだ、岩吝図真人!
真人は、1歩を踏み出した。
「あの‥‥岳川さん‥‥。なんだか、元気ないけど‥‥どうかしました?」
ついに! 清水の舞台から飛び降りたぞ!!
「えっと‥‥、あなた、誰?」
存在感、薄っっっ! Σ(°Д°;)
「あの‥‥、岩吝図です。‥‥同じクラスの‥‥。」
あ‥‥、そういえば、そんな子いたっけ‥‥。
海は笑顔をとりつくろった。
「な‥‥何か用?」
「な‥‥なんか、今日、岳川さん元気なかったんで‥‥。どうしたのかな、と思って‥‥。」
海は少し新鮮な空気を吸ったような気分になった。
わたしなんかを気にかけてくれる男子がいるんだ‥‥。
いや海‥‥。それは自覚なさ過ぎ——。
気にしてる男子はそれなりにいるんだが、「家康様、命!」な海に取り付くシマがないだけなのだ。
「な‥‥何か‥‥、これまでの歴史資料を、否定しちゃうような何かを見た‥‥とか?」
一般的に、元気がない女子に話しかける切り出しではない。
だが、真人にとっては「歴史」以外に、憧れの岳川さんに話のできる取っ掛かりが何もなかった。
普通なら「大ボケ」である。
が、真人のこの大ボケ切り出しが、ちょうど今の海にとっては偶然にも核心を突いてしまっていた。
海が、がっ、と真人の手首を掴んだ。
た、た、た、岳川さん! 何を‥‥?
「歴史、詳しいの!?」
「いや‥‥あの‥‥、た、岳川さんほどじゃないとは‥‥思うけど‥‥。」
海はすがるような目をしている。心なしか、その瞳が潤んでいるような‥‥。
「築山殿って、本当に殺されてしまった? 何か、生き残ったかもしれない、っていうような資料、知らない?」
そのあと、手を掴まれたまま、人気のない校舎裏へ引っ張っていかれた時には、真人は心臓がパンクするんじゃないかと思った。
「絶対、内緒にしてね。」
そう言われてそこで打ち明けられた話は、真人が期待していたようなものではなく、斜め上どころか、目が点になるほど、はるか彼方にぶっ飛んだ話だった。
「松平元信? タイムリープ?」
「うちに来てくれたら、会えるよ。相談に乗ってほしいこともあるし‥‥、もしよかったら岩吝図くん、家まで来てくれる?」
岳川さんの目は真剣だ。
これは‥‥、いきなり、何という展開!?
岳川さんの、家に‥‥誘われた‥‥?
2人きり‥‥‥‥?
じゃないよ。そこには‥‥‥
巨大な恋のライバルがいる‥‥? (° °);