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俺、女子高生になりました  作者: アガッタ
第11章 俺、この日を忘れない
99/100

俺、この日を忘れない2 ~悔し涙~

ここでは、恵理目線で物語が進みます。

麻衣子先輩と咲良先輩に別れを告げ、私と怜奈は一緒に帰り道を歩いていた。いつもの帰り道とは違い、そこには重苦しい沈黙が漂っていた。

「…………」

怜奈は何も喋らない。俯いたまま、ただただ一歩一歩、地面を見つめて歩いている。私だって、どんな言葉をかければいいのか分からなかった。かける言葉が見つからないまま、時間だけが過ぎていく。

ふと、怜奈の肩が震えているのに気づいた。また、涙を流し始めているのだ。彼女の頬を伝う涙が、アスファルトの上に小さな染みを作っていく。よほど今日の大会の結果が悔しかったんだろう。

私は意を決した。

「おい、怜奈」

我ながら驚くほど低い声が出た。男性だった頃の、懐かしい響き。怜奈は驚いたように顔を上げ、私を凝視する。

「え、恵理?」

怜奈と二人きりの時に限って聞く、私の男性口調。突然のことに、彼女はひどく動揺しているようだった。

「どこか座って話そうぜ」

私は彼女の手を引き、近くの公園へと連れ出した。夕暮れの公園には誰もいなかった。私は、怜奈をベンチに座らせ、自分もその隣に腰を下ろす。

「ごめん、急に……。でも、もう我慢しなくていいんだ」

私は、怜奈をぎゅっと強く抱きしめた。

「男じゃないんだから、泣いてもいいんだぞ。悔しかったら、声を出して泣けよ」

その言葉は、私自身の心の奥底に眠っていた思いでもあった。泣きそうになるのを必死にこらえながら、彼女の背中を優しくさすった。

私の腕の中で、怜奈の嗚咽が次第に大きくなっていく。そして、ついに彼女は、堰を切ったように大声で泣き出してしまった。

「うわあああああん!」

子どものように、感情をむき出しにして泣き続ける怜奈。彼女の胸の奥に溜まっていた悔しさや、やるせない気持ちが、涙と一緒に溢れ出しているのが分かった。

私も、つられて涙が止まらなくなってしまった。悔しさに耐えながら、でも希望を捨てずに生きてきた、転生前の自分の姿が重なったからかもしれない。

「大丈夫、大丈夫だよ。泣きたいだけ泣いていいんだ」

私はただ、そう言いながら、彼女を抱きしめ続けた。


公園での別れがたいほどの時間も終わりを告げ、怜奈はようやく落ち着きを取り戻し始めた。泣きはらした目をこすり、私の腕の中からそっと身を離す。

「ごめん、恵理。制服、びしょ濡れになっちゃった」

涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、怜奈が申し訳なさそうに言った。

「いいのいいの、気にしないで。さ、帰ろうか」

私は男性口調からいつもの女性口調に戻し、二人の間の空気を入れ替えるように明るく振る舞った。彼女の手を握り、ゆっくりと歩き出す。

最寄りの駅で電車に乗り、いつものように最寄り駅で降りるはずだった。しかし私は、その一つ手前の駅で、怜奈の手を引いて降りた。

「え、恵理? なんでここで降りるの?」

キョトンとした顔で私を見上げる怜奈に、私はただニヤリと笑う。そして彼女を連れ出し、駅ナカのショッピングモールを歩いて行った。

行き着いた場所は、私たちが初めて二人でショッピングに行った時に立ち寄った、懐かしいカフェだった。あの時、怜奈がペンギンのぬいぐるみを愛でながら、お茶を楽しんだんだっけ。

「いらっしゃいませー!」

カフェのドアを開けると、店員さんの元気な声が私たちを迎えてくれた。一番奥の席に座り、私はメニューを広げる。

「怜奈、何にする?」

「うーん、私、もう何も食べられないかも……」

怜奈はまだ少し元気がない様子だ。私はそんな彼女の言葉を無視して、大声で注文した。

「すみません、この特大プリンパフェ、一つください!」

怜奈は、私の注文したパフェのあまりの大きさに、目を丸くして驚いていた。

「えっ、恵理ちゃん、こんなに食べられるの?」

注文したパフェが運ばれてくると、私はスプーンを怜奈に手渡した。

「違う違う。これは、怜奈のために頼んだの。今日の大会のお疲れ様、そして、次頑張ろうのパフェ」

「でも、これ、すごく高いんじゃないの?」

「いいの。私のおごり! だから遠慮しないで、たくさん食べて」

私はニッコリと微笑んで、そう言った。

怜奈は、まだ少し躊躇していたが、私の言葉に押されるように、大きなプリンパフェを一口すくって口に運んだ。そして、その瞬間、彼女の顔に、今日初めての微笑みが浮かんだ。

「美味しい……」

その一言を聞いて、私の胸のつかえが取れたような気がした。怜奈が、再び笑顔を取り戻してくれて、本当に安心した。

「さ、どんどん食べなよ。甘いものを食べたら、きっと元気が出るから」

私たちは、二人で一つのパフェを囲みながら、他愛もない話をした。今日の大会のことは、もう一切話題に出さなかった。ただただ、目の前にあるパフェと、二人の時間を楽しんだ。


私たちがパフェを半分ほど食べた頃、怜奈はポツリとつぶやいた。

「恵理、ありがとう」

その言葉に、私は少し照れくさくなった。

「ううん、いいの。それより、どうしたの?」

私がそう言うと、怜奈は今日の大会のこと、そして、これまで誰にも話したことのなかった秘密を、ゆっくりと話し始めた。

「実は私、前世から、本番にすごく弱いんだ……」

怜奈が語る、前世での話。学生時代は、どんなに難しいレポート課題でも難なくこなすことができた。しかし、筆記試験ではありえないような計算ミスをやらかし、単位を落としたことがあるという。社会人になってからも、大切なプレゼンでうまく話せなかったり、商談中に水をこぼしてしまったりと、普段なら絶対にやらないような凡ミスを連発してしまったそうだ。

「どうして、本番になると、本来の力が出せないんだろう……」

怜奈の目から、また涙が溢れ始めた。その悔しさと情けなさが、痛いほど伝わってきた。

「そんなに思い詰めなくていいよ」

私はそう言って、怜奈の頭を優しく撫でた。そして、私自身の話もすることにした。

「実はね、私も前回の大会、全然ダメだったんだ。レースが始まった途端、手足が思うように動かなくなって、このまま溺れてしまうんじゃないかって思ったくらいだった」

怜奈は、驚いたような顔で私を見つめた。

「なんとか泳ぎ切ったけど、結果は最下位。もう、めちゃくちゃ悔しくて。その後、こっそり隠れて泣いたんだよ」

そう話すと、怜奈は目を丸くして、信じられないという表情で私を見ていた。

「ねえ、怜奈。私たち、前世で頑張りすぎて、色々なものを背負いすぎていたのかもしれない」

私は、怜奈の目をまっすぐに見つめて、続けた。

「だから、完璧な自分を目指さなくてもいいんじゃないかな。時には、失敗したり、挫折したりすることも、大事な経験になるんだって開き直ってみるのもいいと思う」

私だって、転生前の人生では失敗ばかりだった。だからこそ、今世では失敗を恐れず、色々なことに挑戦してみたかった。

「せっかく転生したんだからさ、前世で失敗できなかったことを、失敗してみるのもいいかもしれないね」

私の言葉を聞いた怜奈は、何も言わずに立ち上がり、私に抱きついてきた。彼女の腕の力が、少しずつ強くなる。

「恵理……ありがとう。私、頑張ってみるよ」

彼女の声は、もう震えていなかった。私の心の中にも、温かい光が灯った。

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