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俺、女子高生になりました  作者: アガッタ
第10章 俺、お祭りに行ってきます
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俺、お祭りに行ってきます5 ~現実から幻想へ~

「こらー! 海美! ちょっと、ふざけないでよ!」

卒倒した麻衣子先輩は、咲良先輩に水をかけられてようやく正気を取り戻した。顔色を取り戻した麻衣子先輩は、りんご飴を差し出した海美先輩に、烈火のごとく怒り始めた。

「ごめんごめん! 悪気はなかったんだって!」

海美先輩は、あっけらかんとした顔で謝っている。悪気がないのはわかる。でも、だからといって許せることではない。咲良先輩は、そんな海美先輩を見て、ため息をついた。

「陸玖くんがおらんかったら、糸の切れた風船みたいじゃのう……」

陸玖がいないと、海美先輩はこんなに自由奔放になるのか。姉弟揃って個性豊かなことだ。

その時、麻衣子先輩のスマホから、「ピーピーピー」とアラーム音が鳴り響いた。

「あ、もう7時だ」

麻衣子先輩はスマホの画面を確認し、そう呟いた。

「お母さんが、花火大会の場所取りしてるから、そろそろ行かなきゃ」

どうやら、私たちは麻衣子先輩のお母さんと合流するらしい。麻衣子先輩は、私たちにそう告げると、先導するように歩き始めた。

「ねえ、怜奈、行こうよ!」

恵理が私を急かす。しかし、私は少しだけ、この場から離れたい気分だった。

「ごめん、恵理。私、ちょっとトイレに寄ってから行くわ」

私はそう言って、みんなとは別の方向を指差した。

「わかった。じゃあ、先に行ってるね」

恵理たちは、そう言って人混みの中へと消えていった。

一人になった私は、ホッと息をついた。ハチャメチャで、面白くて、でも少し騒々しすぎた。転生して女子高生になったからと言って、こんなに騒がしい日々が送れるなんて、想像もしていなかった。でも、それが楽しかったのも事実だ。

賑やかな祭りの喧騒を背に、私は一人、公衆便所へと向かった。トイレで用を足すついでに、少しだけ心を落ち着かせたかったのだ。


公衆便所を出ると、急に辺りが不気味なくらい静かになったように感じた。

さっきまでは、賑やかな祭りの喧騒が耳にうるさいほどだったのに、今はまるで耳栓でもしているかのように音が遠い。たくさんの人がおしゃべりをしながら楽しんでいる様子は見えるのに、その声がはっきりと聞き取れないのだ。

「あれ……?」

私はかけている眼鏡のピントを微調整して、辺りを見回した。眼鏡をかけなおしても、状況は変わらない。目の前の人々の動きは、スローモーションのように感じられ、まるで無音の映画を見ているようだ。気味が悪い。

その時、私の足元に、何かがすり寄ってくる感触があった。

「にゃ?」

猫かと思って足元を見ると、そこには小さな狐のような動物が、私をじっと見つめていた。その目は、まるで吸い込まれそうなくらい、澄んだ黄金色をしている。

「お前、こんなところでどうしたんだ?」

私は、その狐の様子を見ようと屈みかけた。すると、狐は小走りに少し離れてから、立ち止まり、私を振り返った。そして、まるで「ついてきて」とでも言うかのように、しっぽを振って、私の顔をじっと見つめている。

「まさか……」

私は、麻衣子先輩が言っていた「神隠し」の伝承を思い出した。異世界に迷い込んだ人々を、狐が禁足地に誘う……そんな話を聞いたことがあるような、ないような。

しかし、不思議と恐怖はなかった。むしろ、好奇心が勝っていた。格闘ゲームの技を現実に使えるようになったこの体で、もし本当に異世界に行けるのなら、どんな冒険が待っているのだろうか。

私は、小さな狐の招待に応えるように、ゆっくりと歩き始めた。狐は、私の歩みに合わせて、楽しそうにしっぽを振りながら、天満宮の奥へと進んでいく。賑やかな祭りの喧騒は、どんどん遠ざかっていった。


小さな狐の後を追って歩いていると、やがて目の前に古びた鳥居が現れた。

その鳥居は、長年の風雨に晒されたのだろう、色はすっかり褪せ、ところどころ苔が生えている。鳥居の向こうは、見通しの悪い草むらが鬱蒼と生い茂っていた。

狐は、躊躇なくその鳥居をくぐり、草むらの中に姿を消した。私も後を追おうと、一歩足を踏み出した。

その瞬間、私はすでに鳥居の中に入り込んでいた。

「あれ……?」

鳥居の色は、さっきまでくすんだ色だったのに、今は眩しいほどの朱色に変わっている。そして、見通しの悪かった草むらは、まるで誰かが手入れをしたかのように、私の背丈ほどに刈り込まれていた。

ここが、麻衣子先輩が言っていた禁足地なのだろうか。

呆然と立ち尽くしていると、目の前に一人の少女がやって来た。

「……え?」

その少女を見て、私は息をのんだ。少女は、私と瓜二つだった。茶色のボブカットに眼鏡、背丈も私と同じくらいだ。違うのは、その浴衣が、私のものより少しだけ、色鮮やかに見えることくらいだろうか。

少女は、私に向かって、優しく微笑んでいる。

「あなたは、一体……?」

私が声をかけようとした、その時だった。少女は、私の言葉を遮るように、くるりと踵を返し、走り去ろうとした。

「待って!」

私は、反射的に少女の後を追いかけた。しかし、少女は見た目によらず素早く、どれだけ私が足を速めても、距離が縮まらない。

「うそだろ、こんなの、ゲームのキャラクター並みの素早さじゃないか!」

私がいくら声をかけても、少女は一度も振り返ることなく、奥へと走り続けていた。私は、ただ、彼女の後を追うしかなかった。


少女を追いかけていると、彼女は突然足を止め、私に振り返った。

「やっと追いついたか……」

私は息を切らしながら、彼女の元へ駆け寄る。しかし、私の言葉に答えることはなく、彼女は静かに微笑むと、素足になって地面に足を埋めた。

「え、何してるんだ?」

私が戸惑っていると、彼女は両腕を広げて大の字になり、目を閉じた。その表情は、とても穏やかで、幸福に満ち溢れているように見えた。

次の瞬間、少女の足元から、太い植物の根っこが這い出てきた。

「なんだこれ……?」

根っこはみるみるうちに少女の足元を覆い尽くし、次いで、その体を這い上がっていく。私は、恐怖を感じながらも、少女に駆け寄り、その根っこを取り払おうとした。

しかし、私の周りに強い突風が吹き荒れ、私は一歩も動くことができない。その間に、根っこは少女の顔まで覆い尽くしてしまった。

「やめろ……!」

私の叫び声は、突風にかき消され、少女に届くことはなかった。根っこは次第に大きくなり、彼女の体を飲み込むように、巨大な樹木へと成長していく。

その樹木は、まるで『となりのトトロ』に出てきたような、あまりにも巨大な樹木だった。その姿は、神々しく、それでいて、どこか悲しげに私を見下ろしているようだった。

私は、呆然と立ち尽くすしかなかった。一体、この樹木は何なんだ。そして、あの少女は……。

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