俺、お祭りに行ってきます4 ~天満宮の言い伝え~
「ご、ごめんって、怜奈!」
「調子に乗ってごめんね……」
恵理たちが、からかいすぎたことに気づき、私に謝り始めた。恵理は、私の顔を覗き込み、心底申し訳なさそうな顔をしている。
「怜奈ちゃんが可愛すぎるから、つい……」
咲良先輩や海美先輩も、申し訳なさそうにしている。私は、そんな恵理たちに、ちょっとだけ拗ねたような態度をとった。
「もう……みんなでからかいすぎです……」
すると、遠くの方から、「きゃー!」という叫び声が聞こえてきた。同時に、こちらに向かって一人の男性が走ってくる。男性は、明らかに様子がおかしい。彼の腕には、見覚えのないバッグが握られていた。
「ひったくりだ!」
誰かがそう叫んだ。男性は、私たちの横を走り抜けようとしていた。その時、私の脳裏に、あるコマンドが閃いた。
《236+P》
無意識のうちに、私は右手を突き出し、その男性に向かって叫んでいた。
「波動拳!」
手のひらから、青白い光の球が放たれる。その光の球は、驚くべき速さで男性に迫り、彼の腹部に直撃した。
「うぐっ……」
男性は、まるで漫画のように吹き飛ばされ、そのまま地面に倒れ込み、気絶してしまった。
「え……?」
周りの人たちは、その光景を呆然と見つめていた。私は、倒れている男性から落ちたバッグを拾い上げ、先ほど叫び声をあげていた女性に渡した。
「あの、これ……」
女性は、呆然としながらもそれを受け取ると、私に深々と頭を下げ、その場を去って行った。
「ふぅ」
心地よいため息を着いた時だった。私のこめかみに、硬い拳が突きつけられた。そして次の瞬間、私のこめかみはぐりぐりと押し付けられた。硬い拳の持ち主は、恵理だ。
「いだだだだだだぁっ!」
「こら! 怜奈! 人助けはすればいいってもんじゃない!」
「ひったくり犯を成敗したんだから、いいじゃん!」
私は痛みに耐えながら、そう反論した。
「いくない! 人前でこんな大技を披露するなんて、淑女たる者、恥を知りなさーいっ!!」
恵理の説教に、こめかみドリル攻撃。恵理は私に反論する余地すら与えてくれなかった。人助けをしたのに、この仕打ちはひどすぎる……。
「いてててて……恵理、もう勘弁してくれよ」
恵理が私のこめかみをぐりぐりと押し付ける。私は痛みに耐えながら、そう懇願した。
「うるさい! これくらい、当然の罰でしょ!」
恵理の容赦ないお仕置きに、私は涙目になっていた。すると、海美先輩がそんな私たちに割って入った。
「恵理ちゃん、そのくらいにしてあげなよ。人助けをしたんだから、そんなに罰が当たるようなことじゃないわよ」
海美先輩の言葉に、恵理は不満そうにしながらも、ようやく私から手を離してくれた。
「ったく、海美先輩がそういうなら、これくらいにしといてやる」
私は、解放されたこめかみをさすりながら、ほっと息をついた。
その時、麻衣子先輩が何か思い出したように口を開いた。
「罰当たりで思い出したけど、この天満宮には、神隠しの言い伝えがあるの知ってる?」
麻衣子先輩の言葉に、私たちは顔を見合わせた。
「神隠し? そんな話、聞いたことないよ」
海美先輩が首を傾げる。
「境内の奥に、しめ縄が張られた禁足地があるらしいの。そこに立ち入ると、異世界に入り込んでしまうって」
「え、マジ?」
私は思わず前のめりになってしまう。まるで、ゲームの世界みたいだ。しかし、麻衣子先輩は深刻な表情で続けた。
「それだけじゃないわ。もし、運良く現実の世界に戻って来られたとしても、中で起こった出来事を誰かに話すと、今度こそ本当に神隠しに遭ってしまうって……」
その話を聞いた咲良先輩と海美先輩は、顔を青ざめさせた。
「え、えらい怖い話じゃのう。麻衣子ちゃん、そんな話、どこで聞いたん?」
「前に、天満宮の神主さんの話を聞いたことがあるの。本当かどうかは知らないけど……」
そんな話を聞いても、恵理は私の方を睨みつけた。
「でも、怜奈なら神隠しに遭うより先に、神社で波動拳出した罰が当たるんじゃないの?」
「いやいや、それとこれとは別だろ! それに、神隠しなんてただの伝説だろ?」
私はそう否定したが、心の中では、少しだけ気になっていた。ゲームの世界に、本当に迷い込んでしまうのだろうか。もし、ゲームの世界だとしたら、一体どんな敵と戦うことになるのだろうか。私の胸は、好奇心と、少しの不安で高鳴っていた。
恵理にこめかみをぐりぐりされ、麻衣子先輩から神隠しの伝承を聞かされた後も、私たちは引き続き夏祭りを楽しんでいた。
「わぁ! 広島焼きじゃ!」
咲良先輩が、一軒の屋台を見つけて目を輝かせた。本場広島の味が楽しめるのか、と興奮した様子で屋台のおじさんに話しかける。
「すみません、大将! 6枚お願いします!」
6枚? 私たちは5人なのに、どうして6枚も頼むのだろうか。そう思っていると、屋台のおじさんが焼き立ての広島焼きを5人分、私たちに手渡してくれた。
「ほい、どうぞ。あと1枚は今焼くから、ちょっと待っとってくれ」
私たちは、アツアツの広島焼きにかぶりついた。香ばしいソースとキャベツの甘みが口いっぱいに広がり、思わず「うまっ!」と声を上げてしまう。
「はい、怜奈ちゃん」
美味しそうに広島焼きを食べていると、咲良先輩が私に、焼き立ての広島焼きをもう一枚手渡してきた。
「え、でも私、もう一枚もらっちゃいましたよ?」
「いいんよ。いつも部活で頑張っとる怜奈ちゃんへのサービスじゃけえ」
咲良先輩はそう言って、私に微笑んだ。遠慮しようとする私に、咲良先輩はさらにひと言付け加えた。
「それに、あんたの胸がもっと発育するように、サービスじゃ!」
その言葉に、私は羞恥心がぶり返し、とっさに自分の胸を隠そうとした。
「も、もう! なんでそんなこと言うんですか!」
私が顔を真っ赤にしていると、そんな私たちを見ていた海美先輩が、ニヤニヤしながら麻衣子先輩に話しかけた。
「じゃあ、麻衣子にはこれをサービスしてあげる!」
海美先輩が麻衣子先輩に差し出したのは、彼女の顔よりも大きいのではないかというほどの、巨大なりんご飴だった。
「ひいぃっ!」
麻衣子先輩は、その巨大なりんご飴を見た途端、悲鳴にも似た奇声を発し、その場に卒倒してしまった。
「ぎゃあああああ! 麻衣子ー!」
咲良先輩が慌てて麻衣子先輩に駆け寄る。私たちも、突然の出来事に呆然と立ち尽くすしかなかった。
こんなハチャメチャな夏祭り、想像もしていなかった。転生して、女子高生になったからと言って、こんなに騒がしい日々が送れるなんて、誰が予想できただろうか。




