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俺、女子高生になりました  作者: アガッタ
第10章 俺、お祭りに行ってきます
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俺、お祭りに行ってきます3 ~先輩たちと合流~

恵理の「仮面ライダー論」は、一向に終わる気配がなかった。彼女は、お面をかぶったまま、一人前の評論家のように熱く語り続けている。私は、ただただ相槌を打つことしかできず、もうへとへとだった。早く誰か来てくれないかな、と心の中で願っていた、その時だった。

「なんじゃ、二人はこんなところで油売っとるんか」

後ろから聞こえてきたのは、聞き慣れた広島弁。振り向くと、そこには咲良先輩と海美先輩が立っていた。二人とも、浴衣姿だ。咲良先輩は、黒地に椿の模様が入った、大人っぽい雰囲気の浴衣。海美先輩は、鮮やかな青色の浴衣で、とてもよく似合っている。

「先輩! やっと来れたんですね!」

恵理が、仮面ライダーのお面をずらして声を上げた。

「やっとじゃないわ。海美の着付けにどれだけ時間がかかったと思っとるんじゃ」

咲良先輩は、眉間にしわを寄せ、うんざりした顔をしている。海美先輩は、咲良先輩に言われていることなど気にも留めず、あっけらかんとした表情で笑っていた。

「咲良が不器用だからだよー。でも、おかげで可愛く着付けられたんだから、感謝しなさい!」

「誰が不器用じゃ! 人の身にもなってほしいもんじゃ!」

咲良先輩は、そう言って海美先輩を怒鳴りつけた。その二人のやりとりに、私たちは思わず苦笑してしまう。

そんな中、私はあることに気がついた。

「あれ、咲良先輩、髪型、いつもと違いますね」

いつものポニーテールは、今日も健在だ。しかし、今日はただ一つにまとめているだけでなく、編み込みが施され、可愛らしい髪飾りもついている。まるで、雑誌から飛び出してきたモデルさんのようだ。

「え、そうか? そんなに見てくれるとはのう……」

私がそう言うと、咲良先輩は急に恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「いつもと違って、すごく可愛いです」

私が素直な気持ちを伝えると、咲良先輩は「ば、馬鹿にすんな!」と顔を真っ赤にして照れ始めた。その反応が、また可愛らしい。普段は強気な咲良先輩の、意外な一面を垣間見ることができて、少し嬉しくなった。


「いやー、やっぱりお祭りって賑やかでいいよね!」

海美先輩が楽しそうに言う。咲良先輩は、そんな海美先輩を呆れた顔で見ている。しかし、その場に麻衣子先輩の姿が見当たらない。

「あれ、麻衣子先輩は?」

私が尋ねると、咲良先輩は眉間にしわを寄せた。

「それがのう、さっきまで一緒にいたんじゃけど、人混みにはぐれてしもうたみたいじゃ」

せっかくみんなで来たのに、はぐれてしまうなんて。私たちは麻衣子先輩を探そうと、あたりを見回した。

その時、人混みの中から、ふらふらと歩いてくる人影を見つけた。

「あ、麻衣子先輩!」

私が声をかけると、麻衣子先輩はゆっくりとこちらに歩いてきた。ダークブルーのショートヘアに、薄紫の涼しげな浴衣。いつもより少しだけアレンジされた髪型が、彼女の顔立ちによく似合っている。しかし、その顔色は、まるで幽霊でも見たかのように青ざめていた。

「麻衣子先輩、どうしたんですか? 顔色が優れませんよ」

私は心配になって尋ねた。麻衣子先輩は、力なく首を振る。

「大丈夫……じゃない。なんか、もう……だめ……」

「大丈夫じゃないじゃん! どこか具合でも悪いん?」

咲良先輩が麻衣子先輩の肩を支える。すると、麻衣子先輩は、かすれた声で言った。

「屋台の……甘い匂いが……」

そう、麻衣子先輩は甘いものが苦手、というよりアレルギーで、どうやら匂いだけでも相当なダメージを受けてしまうらしい。人混みを歩いている間、屋台から漂ってくる甘い匂いを、ずっと嗅いでいたのだろう。

その時、何も知らない海美先輩が、無邪気な笑顔で麻衣子先輩にわたあめを差し出した。

「麻衣子、はい! このわたあめ、すごく美味しいよ!」

麻衣子先輩は、そのわたあめを見た瞬間、ガタガタと震え始め、叫びだした。

「ひぃっ!!」

まるで、目の前に毒蛇でもいるかのように、恐怖でおびえている。

「ちょ、海美! やめんさい!」

咲良先輩は、麻衣子先輩からわたあめを遠ざけ、海美先輩の頭にゲンコツを落とした。

「いてっ! 何するの咲良!」

「何する、じゃない! 麻衣子が甘いもん苦手なのは知っとるじゃろうが!」

「えー、少しぐらいいいじゃん」

「いくない!!」

咲良先輩の怒りのこもった声が、境内に響き渡った。咲良先輩と海美先輩のコントっぽいやり取りに、私は笑ってしまっていた。


麻衣子先輩は、恐怖に震えながら後ずさっていた。わたあめを差し出した海美先輩と、彼女を怒鳴りつける咲良先輩。凍り付いた空気の中、私は持っていたペットボトルの水を、麻衣子先輩に差し出した。

「麻衣子先輩、よかったらこれ、どうぞ」

麻衣子先輩は、震える手でそれを受け取ると、ごくごくと水を飲んだ。水を飲むことで、少しは落ち着いたのだろう。彼女の顔色は、ようやく元の血色に戻り始めた。

「ありがとう、怜奈ちゃん……助かったわ」

麻衣子先輩はそう言って、私に微笑みかけた。よかった、これで一安心だ。

その時、恵理がキョロキョロと辺りを見回し始めた。

「あれ、海美先輩、陸玖くんの姿が見えないけど?」

恵理の言葉に、海美先輩は「ああ、陸玖なら」と、あっけらかんとした顔で答えた。

「写真部の仲間と、地下アイドルの撮影会に行ったわよ。今日の目玉イベントらしいわ」

陸玖がいない。その事実に、私は安堵したような、でも少しだけ肩透かしを食らったような、複雑な気持ちになった。陸玖はいつも、部活中のレオタード姿の私を隠し撮りしようと、体操部の周りをうろついている。そんな彼がいないとなると、変な緊張感から解放されるような、しかし同時に、いつもの光景がないことに、少し寂しさを感じてしまうのだ。

そんな私の微妙な表情を見逃さず、咲良先輩がニヤニヤと笑いながら私の肩を叩いた。

「あらら、怜奈ちゃん。陸玖くんがおらんくて残念なんじゃろ?」

「ち、違いますって! 全然残念じゃないです!」

私は全力で首を横に振った。

「そうか? せっかく浴衣姿になったのに、陸玖くんに見てもらえんくて、悔しいんじゃろ?」

「ち、違いますって! なんでそんなこと言うんですか!」

私はさらに強く否定した。すると、麻衣子先輩が、少し顔色を取り戻した様子で口を開いた。

「陸玖くんは、浴衣姿よりも、いつものレオタード姿の怜奈ちゃんのほうが好きなんじゃない?」

「~~~っ!! な、なにを言ってるんですか! そんなわけないです!」

私の顔は、もう沸騰しそうなほど熱くなっていた。すると、麻衣子先輩は私の胸元をじーっと見つめ、さらに追い打ちをかけてきた。

「それにしても、怜奈ちゃん、ま~た胸が大きくなったんじゃないかしら?」

「え……ええと、その……」

私は恥ずかしさのあまり、言葉を失い、しどろもどろになってしまう。恵理が、そんな私を助けようと、何か言おうとした、その時だった。

「でも、怜奈なら競泳水着が似合いそうよね」

海美先輩が、私の全身を眺めながら、ぽつりとつぶやいた。その一言に、恵理はハッと顔を上げ、大きく頷いた。

「あー、確かに! 海美先輩、それめっちゃわかります!」

「え、え、ちょっと、やめてください!」

もう限界だった。浴衣姿に胸の大きさ、そして競泳水着。恥ずかしさのあまり、私はついに奇声を発してしまった。

「あああああああああああ!」

私の奇声が境内に響き渡り、周りの人々が、こちらを不思議そうに見ていた。私はその場から逃げ出したい衝動に駆られながら、うずくまって顔を覆うしかなかった。

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