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俺、女子高生になりました  作者: アガッタ
第10章 俺、お祭りに行ってきます
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俺、お祭りに行ってきます2 ~元男、浴衣デビュー~

「怜奈! こっちこっち!」

駅の改札を出ると、恵理が手を振って私を呼んでいた。彼女は、栗色の髪をアップにして、淡い水色の浴衣に身を包んでいる。可憐な花が散りばめられたその姿は、まさしく清純派そのもの。前世では、まさか同僚とこんな風に夏祭りに行くなんて、想像もしていなかった。

「お待たせ、恵理。いやー、やっぱり浴衣って慣れないな」

私は、ぎこちない足取りで恵理のもとへ向かう。私の浴衣は、恵理が選んでくれたものだ。白地に紺色の朝顔が描かれた、少し落ち着いた色合いのもの。最初は「俺には似合わないだろ」と抵抗したものの、恵理に「着てみたら絶対似合うって!」と押し切られたのだ。着慣れない浴衣に、何度か裾を踏みそうになりながら歩く。

「もう! そんなに緊張しなくても大丈夫だよ! めっちゃ似合ってるって!」

恵理は満面の笑みを浮かべ、くるくるとその場で回ってみせた。

「それにしても、理沙ちゃんの姿が見えないけど、もしかして一緒じゃないの?」

恵理の言葉に、私はハッとした。そういえば、従姉妹の理沙は今日、別の夏祭りに行くと言っていたっけ。

「あー、理沙は今日、中学の友達と別の夏祭りに行くらしいんだ。ごめん、言い忘れてた」

「そっかー、残念。理沙ちゃんとも一緒に来れたら楽しかったのにな」

恵理は少し残念そうに肩を落とした。彼女は本当に、かわいらしいものが好きなんだな。

その時、ポケットに入れていたスマホが「ピコン」と音を立てた。LINEの通知音だ。画面を見ると、麻衣子先輩からのメッセージだった。

『怜奈、ごめん! 海美の着付けに咲良が苦戦してて、まだ出発できそうにないから、先に行ってて! 後で合流するね!』

海美先輩のことだから、きっと着付けの途中で何かに気を取られたりしたのだろう。その光景を想像して、私は思わず笑ってしまった。

「だってさ。私たちだけで先に行こうか」

私はスマホの画面を恵理に見せた。恵理は「りょーかい!」と元気に返事をする。

「さーて、怜奈、行こうか! 天満宮、初めてだよね?」

「うん。なんか、楽しみになってきた」

私たちは、浴衣の裾を気にしながら、天満宮へと向かう道を歩き始めた。祭りの賑わいが少しずつ聞こえてきて、私の心も高鳴っていく。新しい人生で初めて迎える夏祭り。一体、どんな景色が待っているんだろう。


駅を出て天満宮へと向かう道は、既に祭りの熱気で賑わっていた。たくさんの人が行き交い、そのほとんどが浴衣姿の女性だった。色とりどりの華やかな浴衣が、まるで花畑のように目に映る。たまに甚平姿の男性も見かけるけれど、みんな顔が楽しそうで、これから始まる祭りを心待ちにしているのが伝わってきた。

「すごい人だね。こんなにたくさんの人が集まるんだ」

「ね! あー、見て見て、あの子の浴衣もかわいい!」

恵理は上機嫌で、行き交う人々の浴衣を眺めてははしゃいでいる。その様子を見ていると、私も自然と笑顔になった。

しかし、歩くにつれて、体の異変に気づき始めた。

「ん……うぐぅ」

なんだか、みぞおちのあたりが締め付けられるように苦しい。浴衣の帯だ。着付けてもらったときは、こんなにきついと思わなかったのに、歩いているうちにどんどん体に食い込んでくる。

「怜奈、どうしたの? 顔色悪そうだけど?」

恵理が心配そうに私を覗き込んできた。

「いや、ちょっと、帯が……」

私は息も絶え絶えに、お腹のあたりをさする。このままでは、せっかくの夏祭りが台無しになってしまう。私は我慢できなくなり、思わず「ポンポン」と、狸が腹鼓を打つように帯を叩き始めた。


ポンポコポン……ポンポコポン……


すると、恵理は私の姿を見て、突然吹き出した。

「ふふっ……あはははは! 何それ、狸みたい!」

腹を抱えて大爆笑する恵理に、私は少しだけムッとした。

「笑うなよ! きついんだって!」

「ごめんごめん! でも、すごく面白くて……ふふっ。はい、ちょっとかがんで」

恵理は笑いながら私の後ろに回り込み、帯に手をかけた。

「ちょっと緩めるね。はい、これでどう?」

恵理が帯を少し緩めてくれたおかげで、締め付けられていた体が解放される。私は大きく息を吸い込み、吐き出した。

「あー、助かった……ありがとう、恵理」

「どういたしまして! これで心置きなく、夏祭りを楽しめるね!」

恵理の言葉に、私はようやく心の底から安堵した。これでようやく、私もこの夏祭りを楽しむ準備ができたようだ。


「いやー、やっぱり屋台っていいな」

天満宮の境内には、たくさんの屋台が並んでいた。お好み焼きの香ばしい匂い、焼きそばを炒める音、金魚すくいの店先で真剣な顔をしている子どもたち。私は浴衣の帯を緩めてもらったおかげで、ようやく夏祭りの雰囲気を心から満喫していた。

「見て! あそこ、金魚すくいだよ!」

「射的もある! あれ、意外と面白そう!」

私たちは、はしゃぐ子どものように屋台を見て回った。生まれて初めての夏祭りは、新鮮な驚きと発見に満ちていた。そして、私は、恵理がふと足を止めたことに気づいた。

「どうしたの、恵理?」

恵理の視線の先には、色とりどりのキャラクターのお面がずらりと並んだ屋台があった。プリキュアやセーラームーン、そして、たくさんのヒーローたちのお面。

「恵理、あれ、欲しいの?」

私がそう尋ねると、恵理はこくりと頷いた。

「かわいいやつ、買ってもいいんだよ?」

私はそう言って、恵理に好きなものを選ばせた。しかし、恵理が手に取ったのは、私の予想を裏切るものだった。

「これにする!」

恵理が手にしていたのは、仮面ライダーのお面だった。

「え、仮面ライダー?」

私は思わず聞き返してしまった。てっきり、かわいいキャラクターのお面を選ぶと思っていたからだ。恵理は、私が不思議そうな顔をしているのを見て、にっこり笑う。

「怜奈、私、仮面ライダーが大好きなんだ。特に、最初の仮面ライダーが最高なんだよ!」

恵理はそう言って、私に満面の笑みを向けた。そして、店のおじさんからお面を受け取ると、そのまま顔につけて、嬉しそうにくるくると回り始めた。

「この力強い造形! 風をはらむマフラー! 最高のデザインじゃないか!」

恵理はもう止まらない。まるでスイッチが入ったかのように、仮面ライダーに対する熱い想いを語り始めた。

「特に、あの変身ポーズ! 変身ベルトに風を受けて、エネルギーを充填する……あれがたまらないんだよ! 最近のライダーも好きだけど、やっぱり原点ってのは特別だよね!」

「え、えーと、そうなんだ」

私は、恵理の熱弁に、相槌を打つことしかできない。恵理の話は、敵組織であるショッカーの怪人の生態や、変身ベルトの機能、そして仮面ライダーの改造人間の悲哀にまで及んだ。そのマニアックな知識に、私はついていけず、次第に頭がぼーっとしてくる。

「……というわけで、仮面ライダーは最高なんだよ!」

恵理の熱い語りが一段落した頃には、私はもうへとへとだった。初めての夏祭りは、まさかこんな形で疲労困憊になるとは思ってもみなかった。

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