俺、料理を手伝います6 ~悲劇の食卓~
陸玖と理沙のゲームの音を背中に、私は恵理と共に海美先輩の料理と格闘していた。しかし、私たちの奮闘は報われるどころか、事態は悪化する一方だった。
「ねえ、恵理。海美先輩って、本当に料理できないんだね」
私がそう言うと、恵理は力なく頷いた。
「うん……まさか、ここまですごいとは、私も思ってなかった……」
私たちの目の前には、完成したばかりのカレーライスとサラダがテーブルに並べられていた。しかし、その見た目はとてもカレーライスとサラダとは言えなかった。カレーは水分が少なく、まるで粘土のようだったし、サラダはドレッシングをかけすぎて、もはや何かのスープと化していた。
「あー、そうだ! 卵焼きも作ろうと思ってたのに、卵がないわ!」
海美先輩が、冷蔵庫を開けてそう叫んだ。
「先輩、さっきゆで卵を作るのに、全部使っちゃいましたよ?」
恵理が呆れたように答えると、海美先輩は「あら、そうだったかしら?」ととぼけてしまった。
私は、電子レンジの中に何かあるような気がして、ふと目を向けた。すると、そこには、たくさんの卵が入れられていた。
「ま、まずい……!」
私の表情は、これ以上ないほど真っ青になった。転生前の知識が、私の脳裏をよぎる。電子レンジで卵を温めてはいけない。絶対に。
私が海美先輩に声をかけようとした、その瞬間。
ドォーン!!
電子レンジは、耳をつんざくような大爆発音と共に、その扉を大きく開けた。
爆風は、キッチンからリビングにまで及んだ。そして、テーブルの上に置かれてあったカレーライスとサラダは、全て空中に舞い上がり、床に散らばってしまった。
「あああああ! 私のカレーがぁぁぁぁ!!」
海美先輩は、床に散らばったカレーを見て、悲鳴を上げた。私も恵理も、何が起きたのか理解できず、ただただ立ち尽くすしかなかった。
耳をつんざくような爆発音に、陸玖と理沙が慌ててキッチンに駆け込んできた。
「何が起きたんだ!?」
陸玖の焦った声が響く。キッチンは、爆発によって飛び散ったカレーのルーや野菜のかけらで、ひどい有様になっていた。壁や天井には、黄色いシミが点々と広がっている。床は、もはや足の踏み場もない。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」
海美先輩は、床に散らばった料理を見て、その場にうずくまって泣き出してしまった。彼女の肩が小刻みに震えている。
「姉さん、大丈夫だよ。気にしないで」
陸玖が駆け寄り、海美先輩の肩を抱きしめる。陸玖の優しい声に、私の胸は再び締め付けられるような気持ちになった。
「本当に、ごめん。みんなのために夕飯を作ろうと思ったのに……」
海美先輩は、泣きながらそう言った。その言葉に、私は何も言えなかった。海美先輩は、本当に私たちのためを思って料理を作ろうとしてくれたのだ。ただ、そのやり方が間違っていただけで……。
「とりあえず、みんなで片付けようか」
陸玖の言葉で、私たちはキッチンの後片付けを始めた。食器の破片を拾い、床を拭き、壁のシミを落とす。しかし、いくら拭いても、カレーのシミはなかなか落ちない。
「本当に、ごめんね。こんなことになってしまって」
陸玖が私と恵理、そして理沙に頭を下げた。
「気にしないで、陸玖。私たちが勝手に手伝いを申し出たんだから」
「そうそう! 料理は失敗して当たり前だよ!」
私と恵理は、明るく陸玖を励ました。
その時、恵理が海美先輩のところに駆け寄った。海美先輩は、相変わらずしょんぼりとした様子で、床を拭いている。
「先輩、大丈夫ですよ! 料理は、失敗から学ぶものですから!」
恵理の言葉に、海美先輩は顔を上げた。
「でも、私……みんなより年上なのに、こんなダメなところを見せちゃって……」
そう言うと、海美先輩はまた泣き出してしまった。その姿は、まるで小さな子供のようだ。
「そんなことないですよ! 人間誰しも、ダメなところはありますから!」
恵理の言葉に、海美先輩は少しだけ顔を上げた。
「それに、先輩は水泳部のエースで、みんなの憧れじゃないですか! 私たちだって、先輩にはたくさん助けられてるんですよ!」
恵理の言葉に、海美先輩は「ありがとう……」と、涙を流しながらも、微笑んだ。
私たちは、再び片付けを始めた。陸玖も、理沙も、海美先輩も、みんなで協力して、ひたすら汚れたキッチンを拭いていく。
片付けが終わったのは、夜の9時を過ぎていた。




