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俺、女子高生になりました  作者: アガッタ
第9章 俺、料理を手伝います
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俺、料理を手伝います4 ~修羅場~

リビングのソファで、私は理沙と格闘ゲームをしていた。陸玖のお気に入りの『餓狼伝説』だ。まさかあいつがこんなものを持っていたなんて。

しかし、例のごとく、私は理沙に完敗してしまった。私の家に初めて来たときも、理沙をフルボッコするはずが、返り討ちにされたほど、理沙の格ゲー魂は私よりもはるかに強いのかもしれない。

キッチンからは、恵理の悲鳴にも似た声が聞こえてくる。

「きゃーっ! 怜奈、助けてー!」

恵理が私を呼んでいる。海美先輩の暴走は、もう誰にも止められないのだろう。私はコントローラーを置き、理沙に言った。

「理沙、ごめん。ちょっと恵理たちの手伝いに行ってくる」

しかし、理沙は

「やだ! もっとお姉ちゃんと遊びたい!」

と、私の腕にしがみついて離そうとしない。その瞬間、私の横から陸玖が声をかけた。

「理沙ちゃん、よかったら僕とやらない? 怜奈は恵理たちを手伝ってあげてよ」

陸玖は、私と理沙の間に割って入った。理沙は陸玖の言葉に目を輝かせた。

「うん! やるやる!」

理沙は満面の笑みでコントローラーを握り直し、陸玖と対戦を始めた。

「陸玖、ありがとう」

私は心の中で感謝しながら、陸玖に手を合わせて、キッチンへと向かっていった。陸玖と理沙は、もう私のことなど忘れてしまったかのように、ゲームに夢中になっている。二人の楽しそうな笑い声を聞きながら、私は恵理のいるキッチンへと足を踏み入れた。


陸玖と理沙に背を向け、キッチンに入った私を待ち受けていたのは、まさに地獄絵図だった。

まな板の上には、原型を留めていない野菜の残骸が散らばっている。きゅうりは潰れ、トマトは原型を留めず、ジャガイモはなぜか黒ずんでいた。

「怜奈ぁ! 助けてぇ!」

恵理が私に駆け寄り、半泣きで助けを求めてきた。彼女の指差す先には、ボウルに入った得体の知れない液体。

「これはね、サラダのドレッシングなの」

海美先輩の言葉に、私は恐る恐るそのボウルに顔を近づけてみた。ドロリとした濃い茶色の液体からは、醤油とソース、そして何か別の甘い匂いが混じり合って、なんとも言えない奇妙な香りがした。

「これ、海美先輩が作ったんですか?」

私が聞くと、海美先輩は自信満々に頷いた。視界の端には、恵理も頷いていた。ただ、恵理の頷きははどこか力ない様子だった。私は意を決して、スプーンにその液体を少量乗せ、口に運んだ。その瞬間、私の舌の上で、甘味、酸味、塩味が爆発した。そして、それを追いかけるように、鼻の奥から抜ける不快な匂い。あまりの不味さに、私の胃は拒否反応を示した。

「うっ……」

私が言葉を失い、その場にうずくまると、恵理は何も言わずに私にコップ一杯の水と、太田胃散を手渡してくれた。恵理も同じような経験をしたのだろう。彼女の優しさが心に沁みる。

私は、涙ながらに太田胃散を服用した。陸玖と理沙の楽しそうなゲームの音が聞こえてくる。

「これが…料理だと…?」

私は、二人の笑い声が聞こえるリビングを恨めしそうに眺めた。


私は太田胃散を飲み干し、胃の奥からこみ上げる不快感をなんとか鎮めた。隣では恵理が、虚ろな目でまな板の上の無残な野菜を眺めている。キッチンの空気は、料理の香ばしい匂いと、海美先輩の迷走からくる異様な雰囲気が混ざり合っていた。

「ねえ、恵理。海美先輩って、いつもああなの?」

私は小声で尋ねた。体操部の練習中、陸玖の盗撮を邪魔する理沙と遊んでいた私には、海美先輩の普段の様子を知る術がない。

「うーん……そうだねぇ」

恵理は少し考え込むように首を傾げた。

「水泳部でも、海美先輩は結構飄々としてるかな。いつもニコニコしてて、何を考えているのかわからないことが多いかも」

水泳部ではエースで、チームを引っ張る存在だと陸玖から聞いていた。しかし、その実態は料理と同じように、とんでもないことをしでかしてしまう危うい存在なのかもしれない。

「練習でも、いきなり『今日は水と友達になる特訓をしよう!』とか言い出して、みんなでプールの底に座って瞑想し始めた時は、さすがにびっくりしたよ。しかも、それが結構効果あったりするんだよね……」

恵理は遠い目をしながら語った。私は思わず、転生前のサラリーマン時代に、会社の研修で見た謎の自己啓発セミナーを思い出していた。海美先輩は、その研修の講師にそっくりだ。

「きっと、家庭でもああなんだよ。自分がこうだと思ったら、周りが見えなくなって、何を考えているのか分からずに行動しちゃうタイプなのかも」

恵理の推察に、私は深く頷いた。もしそれが本当なら、陸玖は毎日こんな姉さんと一緒に暮らしているのか。僕が前世で、会社の同僚が作ったクソみたいな企画書に毎日頭を悩ませていたのと同じように、陸玖もまた、海美先輩の暴走に毎日頭を悩ませているのだろう。

陸玖の家に来る前は、彼のことをただの盗撮魔としか思っていなかった。しかし、今では、少しだけ同情してしまう。陸玖の苦労を思うと、なぜか胸が締め付けられるような気持ちになった。

「……陸玖、大変だね」

私は思わず、独り言のようにつぶやいた。リビングから聞こえてくる、理沙と陸玖の楽しそうなゲームの音。陸玖も、理沙とゲームをすることで、少しでも現実から逃避したかったのかもしれない。

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