俺、お姉ちゃんになりました2 ~陸玖の災難~
「そしたら急に『怜奈お姉ちゃん!』って駆け寄ってきて。全然誰だか分かんないでしょ、普通!」
部活の練習中、私は咲良先輩と麻衣子先輩に、先ほどの出来事を話していた。体操部の練習場は、今日も蒸し暑い。床に座り込み、ストレッチをしながら愚痴をこぼす私に、咲良は「へぇー」と相槌を打っている。
「それで、その子が怜奈の従姉妹じゃったんじゃねぇ。世間は狭いもんじゃ」
いや、世間が狭いっていうか、私の記憶が欠落してるだけなんだけど……。
壁際では、陸玖が必死の形相で理沙を追い払おうとしていた。理沙は、陸玖が大切そうに抱えている一眼レフカメラに興味津々で、きらきらした目でレンズを覗き込んだり、小さな指でシャッターを触ろうとしたりしている。
「やめてください! これは僕の命より大事なカメラなんですから!」
「ねえそのカメラカッコいいね! キヤノン? ニコン?」
陸玖の悲鳴にも近い叫びが響くが、理沙は全くひるむ様子がない。むしろ、陸玖が慌てれば慌てるほど面白がっているかのようだ。
おかげで、今日は陸玖が私を隠し撮りするどころではなくなり、私は心置きなく練習に集中できていた。それはそれで非常に助かるのだが、正直なところ、新たな頭痛の種が増えた気分だ。
「まさか、夏休み初日からこんな面倒事に巻き込まれるとは。これから毎日、この子が学校にいるって考えたら、もう胃がキリキリしますよ」
「あらあら、お姉ちゃん、ご苦労様ねぇ」
麻衣子先輩がニヤニヤしながら私をからかう。咲良先輩は、理沙と陸玖の攻防を眺めながら、何かを企んでいるような顔をしていた。
「しかし、その理沙ちゃん、ええ体しとるのぅ。うちの部でスカウトしてみるか?」
「咲良、そういうのを、拉致って言うのよ。」
麻衣子先輩が冷静に突っ込む。咲良先輩は「むぅ」と唇を尖らせた。
「でも、理沙は陸上部の先輩にこの学校を紹介されたって言ってたから、多分陸上部に入ると思いますよ。あの子、結構足速そうだし」
私の言葉に、咲良先輩は少し残念そうな顔をした。
「そっかぁ。残念じゃのぅ」
その時、練習場の入り口から、理沙の大声が響いた。
「お姉ちゃーん! 練習終わった? 私、一緒に帰りたーい!」
陸玖の腕を掴んでいた理沙が、私に向かって手を振っている。陸玖は解放されたことに安堵したのか、床にへたり込んでいた。
「あら~、お姉ちゃん、頑張ってねぇ」
麻衣子先輩がまた、からかい半分で私に声をかける。私は大きくため息をついた。これからどうなることやら、前途多難すぎだ。




