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俺、女子高生になりました  作者: アガッタ
第6章 俺、勉強を教えます
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俺、勉強を教えます8 ~怜奈の直前講義~

翌日。期末試験直前のため、全ての部活動が休止になった。私にとっては、陸玖の勉強に集中できる絶好のチャンスだ。放課後、私は恵理と陸玖を呼び出し、私たちのクラスの教室へ向かった。

誰もいない教室は、妙に広く感じられる。私は教壇に立ち、黒板の前に立った。

「よし、じゃあ今日は数学から始めましょうか」

私がそう言うと、恵理と陸玖は、まるで授業を受ける生徒のように席に着いた。陸玖の顔には、昨日までの不安そうな表情はもうない。どこか期待に満ちた、真剣な眼差しで私を見上げている。

数学なら、私にも教える自信があった。前世から得意だった科目だし、何より論理的に物事を考えるのが好きだ。

「まずは、三角比の基礎からね」

私は黒板に大きな直角三角形を描き、各辺の名称や角度との関係を、ゼロから丁寧に説明し始めた。

「サイン、コサイン、タンジェントって、聞いたことはある?」

私が問いかけると、陸玖は「なんとなく……」と歯切れ悪く答えた。恵理はこくりと頷いている。

私は、それぞれの記号が何を意味するのか、図を使いながら視覚的に分かりやすく解説した。角度が変わると、辺の比率がどう変化するのか、具体的な数字を当てはめて見せた。前世の教師の教え方を反面教師に、一方的に話すのではなく、彼らが理解しているかを確認しながら進める。

恵理と陸玖は、私の解説に夢中になっているようだった。特に陸玖は、目を輝かせながら黒板を見つめている。彼の「写真や画像で覚える」という特性を活かすため、私は敢えて色チョークを使い、重要な箇所を強調したり、図を多用したりした。まるで、彼の目の前に、数学の概念が「見える」ように語りかける。

彼らの顔つきが、だんだんと真剣になっていく。特に陸玖は、時折「なるほど!」「そういうことか!」と声を上げ、前のめりになって私の説明を聞いていた。彼の瞳には、数学の数式が「絵」として映っているのかもしれない。

熱中しているうちに、あっという間に時間が過ぎていた。ふと時計を見ると、針はもう5時を過ぎている。外は薄暗くなり始めていた。

「今日はここまでね」

私が言うと、恵理と陸玖はハッと顔を上げた。

「え、もうこんな時間!?」

陸玖が驚いたように声を出す。

「すごいよ、怜奈! 私、数学って苦手だけど、怜奈の解説、すごく分かりやすかった!」

恵理が興奮気味に言った。そして、陸玖も続く。

「僕もです! 怜奈さんの解説、すごく面白くて、全然飽きなかったです! 数学って、こんなに面白いんですね!」

陸玖の目は、本当に輝いていた。まるで、新しい世界を発見した子供のようだ。二人の心からの感謝の言葉に、私は少しだけ胸が温かくなった。


陸玖の数学への食いつきように、私は少し手応えを感じた。この調子でいけば、もしかしたら補習を回避できるかもしれない。翌日からも、私たちは放課後の教室で、陸玖のための勉強会を開くことになった。

私が数学を、恵理が英語と古文を担当する。私は陸玖の「目で見て覚える」特性を最大限に活かすため、黒板に大きく図やグラフを描き、概念を視覚的に捉えさせることを意識した。複雑な計算も、流れを図解することで、陸玖は驚くほど早く理解していく。

恵理もまた、陸玖の「考えるのが苦手」という点に寄り添い、英語や古文の文法を、まるでパズルのピースを当てはめるかのように丁寧に教えていた。特に、前世の経験からくる豊富な語彙力と知識で、彼の苦手な語彙をカバーしているのはさすがだった。

陸玖の集中力は、私たちが思っていた以上だった。興味を持てば、彼は驚くほどの吸収力を見せる。彼の真剣な眼差しを見ていると、教える私たちも自然と熱が入った。

そんな私たちの解説講義が評判になったのか、いつの間にか、他の生徒たちも教室に集まるようになっていた。最初は廊下から様子を伺っていた生徒たちが、一人、また一人と教室に入ってきて、空いている席に座り始める。普段の授業では居眠りしているような生徒も、なぜか真剣な顔で私たちの説明を聞いている。

「ねえ、怜奈ちゃんの数学、すごく分かりやすいって評判だよ」

「恵理先輩の英語、マジで神ってる」

そんな声が、休憩時間になるとあちこちから聞こえてくるようになった。まさか、陸玖のために始めた勉強会が、こんなことになるとは思わなかった。

そして、しまいには、普段は鬼の形相で生徒を早く帰らせようとする教育指導の大門先生ですら、私たちの教室を覗きに来たかと思えば、早く帰るように促すどころか、そのまま解説講義に参加してしまっていた。腕を組み、真剣な顔で黒板を見つめる大門先生の姿は、正直なところかなりシュールだった。

「ふむ……なるほど……」

と、時折唸り声を上げる大門先生の存在は、私たちにさらなる緊張感と、そして謎の達成感を与えた。陸玖の補習回避という目標が、いつの間にか、放課後の教室を巻き込んだ一大プロジェクトになっていたのだ。

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