俺、先輩とお出かけします6 ~麻衣子先輩壊れる~
鹿鳴館の出口では、何やら黄色い羊羹が配られていた。目測で15センチくらいはありそうな、ずっしりとしたサイズだ。
「まさか、洋館とかけて羊羹をお持ち帰り?」
私は思わず、羊羹と洋館をかけたダジャレを思いつき、咲良先輩と顔を見合わせて吹き出してしまった。我ながらくだらないが、こういう些細なことで笑い合えるのは楽しい。
笑いが収まって、ふと麻衣子先輩に目をやると、彼女はまたしても絶望の表情を浮かべていた。そりゃそうか、甘いものを「呪物」とまで呼んでいる麻衣子先輩にとって、こんな巨大な羊羹はまさに悪夢だろう。
「麻衣子先輩、大丈夫ですか?」
声をかける間もなく、麻衣子先輩の表情は次第に虚無へと変わっていく。そして、まるで夢遊病者のように、無意識に羊羹に手を伸ばそうとした。
「麻衣子! これ以上はアカン! 私が食べるけぇ!」
咲良先輩が慌てて麻衣子先輩の手を掴み、羊羹から遠ざけようとする。
「麻衣子先輩、これは今すぐに食べるものじゃありませんよ! 持ち帰って、少しずつ…」
私もなんとか説得しようと試みるが、麻衣子先輩は私たちの制止を振り切り、羊羹を掴み取ってしまった。そして、まるで儀式でもするかのように、無言で羊羹の包装を解き、目を閉じながら一口、また一口と食べ始めたのだ。
その光景を見た私と咲良先輩は、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。言葉を失い、ただ涙を流しながら、麻衣子先輩の壮絶な戦いを見守った。麻衣子先輩の表情は、一口食べるごとにやつれていく。
そして、ついに羊羹が完食された時、麻衣子先輩は完全に魂が抜けたような虚ろな目をして、その場に崩れ落ちた。まるで、悪霊退散の儀式を終えたかのような、疲労困憊の顔だった。
「麻衣子先輩、生きてますか…?」
私は恐る恐る声をかけた。まさか、たかが羊羹でここまでダメージを受けるとは。麻衣子先輩の甘いもの嫌いは、私の想像をはるかに超えるものだったようだ。
麻衣子先輩が完全に腑抜けになってしまったので、私はあたりを見回して自販機を探した。せめてお口直しでもしないと、このままでは本当におかしくなってしまう。幸い、すぐに自販機が見つかった。これで一安心……と思ったのも束の間、自販機の表示を見て私は愕然とした。
水も、お茶も、売り切れ。
残されているのは、甘いミルクティーとジュースだけ。これでは麻衣子先輩には毒にしかならない。どうしようかと考えていると、麻衣子先輩が無意識のうちに自販機へと向かっていた。まさか、と嫌な予感がした瞬間、麻衣子先輩は迷うことなくあるボタンを押した。出てきたのは、お汁粉。
「麻衣子先輩、ダメです!」
「麻衣子、やめときんさい!」
私と咲良先輩の制止も虚しく、麻衣子先輩はプルタブを開けると、ゴクゴクと一気に飲み干してしまった。
完飲後、麻衣子先輩は虚ろな瞳で、ただ一言、ぽつりと呟いた。
「アマイノ、ダアイスキ……」
その言葉に、私と咲良先輩は愕然としながら顔を見合わせた。まさか、麻衣子先輩は完全に壊れてしまったのだろうか。




