俺、先輩とお出かけします1 ~部活後のアイス~
「くっそー、なんでできないんだよ!」
体育館に響き渡る声の主は、何を隠そう私、怜奈だ。土曜日の今日、体操部の練習で私は段違い平行棒と格闘していた。前世はしがないサラリーマンだった私が、まさか女子高生に転生してまでこんな苦行を味わうことになろうとは。しかも、段違い平行棒は大の苦手。逆上がりすら満足にできないのだから、我ながら情けない。
「怜奈、もう少し腕を意識して!」
「そうそう、重心はそこ!」
隣には、根気強く指導してくれる麻衣子先輩と里亜先輩がつきっきりだ。二人がかりで私の身体を支え、時には無理やり持ち上げられ、何度も何度も逆上がりの練習を繰り返した。汗が目に入ってしみる。正直、何度も心が折れかけた。
それでも、前世の経験からか、一度コツを掴めば意外と身体は動くものらしい。麻衣子先輩と里亜先輩の的確な指導のおかげで、ついに私は自力で逆上がりを成功させた。
「できた……!」
歓声をあげると、麻衣子先輩と里亜先輩も目を丸くしていた。
「怜奈ちゃん、すごいじゃない! あんなに苦手だったのに、短期間でここまでできるようになるなんて」
と、麻衣子先輩が驚いた声をあげる。里亜先輩も
「本当にね。運動神経も良いのね、怜奈ちゃん」
と感心した様子だ。
褒められて悪い気はしない。むしろ、身体が自由に動くってこんなに楽しいことだったのかと、転生してから改めて実感している。
練習が終わり、へとへとになった私は、体育館の出口で咲良先輩に声をかけられた。
「麻衣子、怜奈、一緒に帰ろうや!」
咲良先輩はいつも元気いっぱいで、その広島弁が可愛らしい。しかし、麻衣子先輩は申し訳なさそうに首を横に振った。
「ごめん、咲良。私、この後予備校があるから」
「えー、そうなん? 毎日大変じゃね」
咲良先輩が残念そうな顔をする。麻衣子先輩は、大学でも体操を続けたいと思っているらしいが、それ以外にも勉強したいことがあるから、一般入試で受験するつもりだと以前話していた。すごいなと素直に思う。
「私もごめんね、咲良ちゃん。この後、病院で診察があるの」
里亜先輩も、例の病気から快方に向かっているものの、まだ完治したとはいえず、今も定期的に病院の診察を受けているそうだ。里亜先輩もそう言って、早々に体育館を後にした。結局、残ったのは私と咲良先輩だけだった。
「じゃあ、怜奈、私と帰ろうや!」
咲良先輩はニッと笑って私の肩をポンと叩いた。
「はい!」
私たちは連れ立って、駅前のアイスクリームショップに立ち寄った。咲良先輩が「お疲れさん!」と、私の好きなチョコミントのアイスをおごってくれた。
練習後のアイスクリームは格別だ。ひんやりと甘いバニラが、火照った身体に染み渡る。
「あー、生き返るわー!」
思わず漏らした私の言葉に、咲良先輩は「じゃろー?」と嬉しそうに笑った。
「咲良先輩、このアイス、麻衣子先輩にもおすすめしたらどうですか? 練習で疲れてるでしょうし」
私がそう言うと、咲良先輩は
「んー、それはやめといた方がええかもねぇ」
と少し困った顔をした。
「麻衣子、甘いもん苦手なんよ」
「えっ、そうなんですか!?」
意外だった。あんなに華奢なのに、甘いものが苦手とは。見た目と中身のギャップに、少し驚いた。
「そういえば、麻衣子先輩は予備校に通ってますけど、咲良先輩は大丈夫なんですか?」
何気なく尋ねると、咲良先輩は少し考えてから答えた。
「私は通信教育で勉強しとるんよ。体育大学に行きたいんじゃけど、麻衣子たちとは受験対策が全然違うから、そこがなかなか大変でなぁ」
なるほど、みんなそれぞれ、将来の進路のために一生懸命なんだな。前世の私も、就職活動で苦労したことを思い出す。年齢は違えど、悩みは共通している部分もあるのかもしれない。改めて、みんな将来のために頑張っているんだなと、身が引き締まる思いがした。
「怜奈と仲良くなれて、うれしいわ! そうじゃ、今度の休日、麻衣子と三人でどっか出かけん?」
咲良先輩が満面の笑みで誘ってくれた。断る理由なんてない。
「はい、喜んで!」
私の返事に、咲良先輩はさらに笑顔を輝かせた。新しい人生、まだまだ楽しいことがたくさんありそうだ。




