俺、部活はじめます Ex1 ~陸玖の正体~
ここでは、恵理視点で物語が進みます。
水泳部の練習中、私は久しぶりに心の底から泳ぐ喜びを感じていた。盗撮事件もひと段落して、学校全体が少しずつ日常を取り戻そうとしている。私もこの穏やかな時間がずっと続いてほしいと願いながら、得意のバタフライで50メートルを泳ぎ切った。
プールサイドに上がると、私より1年上の先輩である海美先輩が笑顔で迎えてくれた。黒のショートヘアがよく似合う、身長170cmと少し高めの先輩だ。胸の大きさは怜奈と同じか、もしかしたら少し小さいくらいだろうか。
「恵理、今のタイム、自己新記録更新よ! おめでとう!」
海美先輩の言葉に、私は思わずガッツポーズをした。
「やったー! ありがとうございます、海美先輩!」
休憩中、海美先輩は私に怜奈と体操部の様子について尋ねてきた。
「ねぇ、恵理。体操部の方、最近どう? 怜奈ちゃんも元気にしてる?」
「はい、海美先輩。体操部も少しずつ日常を取り戻し始めていますよ。里亜先輩も来週からマネージャーとして復帰する予定ですし」
私は里亜先輩の回復を喜びながら答えた。だけど、怜奈の様子を思い出し、少し口ごもってしまう。
「ただ……怜奈は、ちょっと精神的に参っちゃってるみたいなんです」
「あら、どうして?」
「それが、陸玖くんの撮影に付き合わされるようになっちゃって。この間、更衣室で着替えようとしたら、真っ白に燃え尽きてゲッソリとしちゃった怜奈を見かけちゃったんですよ」
私がそう説明すると、海美先輩はなぜか
「へえ、陸玖もなかなかやるじゃない」
と感心したような表情を見せた。その反応に、私は少しばかり面食らった。
「なんで陸玖くんに感心するんですか、海美先輩?」
私の問いに、海美先輩はにやりと笑って言った。
「だって、実は私、陸玖の姉なんだもの」
「ええっ!?」
思わず大きな声を出してしまった。まさか、あの陸玖くんのお姉さんが海美先輩だったなんて! 確かに、言われてみれば、どことなく目元が似ているような気もする。
これはチャンスだ、と思った私は、海美先輩にすがるような気持ちで頼み込んだ。
「海美先輩! お願いします、弟の陸玖くんを何とかしてください! このままじゃ、本当に怜奈が灰になっちゃいます!」
私の必死の訴えに、海美先輩はクスリと笑って、快諾してくれた。
「分かったわ。伊達に15年間あいつの姉をしてきたわけじゃないし。怜奈ちゃんのためにも、私がなんとかしてあげる。期待してて」
海美先輩の言葉に、私は胸を撫で下ろした。海美先輩なら、きっと陸玖くんをピシャリと止めてくれるかもしれない。
海美先輩が「何とかしてあげる」と言ってくれたけれど、それから数日間、特に何も変わった様子はなかった。海美先輩、本当に何とかしてくれているのかな……?
その日の部活の練習が終わり、私はいつものように更衣室に入った。怜奈もすでに着替えようとしているところだった。ん? 今日は、レオタードの上にレギンスを履いていないな。
「怜奈、今日はレギンス履いていないの?」
私が尋ねると、怜奈はため息をついた。
「うん。なんか、レギンスの上だと太ももが滑りやすくて、平均台の練習の時とか危ないんだよね。だから、もう脱いで練習することにしたの」
転生おじさんのくせに、安全意識は高いな、と私は心の中でクスリと笑った。
「そういえばさ、最近陸玖のヤツを見かけないんだけど、どうしたの?」
怜奈の言葉に、私はドキッとした。海美先輩の「何とかする」という言葉を信じて、私は陸玖くんの監視を少し緩めていたのだ。まさか、海美先輩が本当に陸玖くんをどうにかしてくれたのだろうか?
「あ、陸玖くんね……実は、うちの水泳部の海美先輩の弟なんだよ」
私は意を決して、怜奈ちゃんに海美先輩と陸玖くんの関係を明かした。怜奈の顔が、みるみるうちに驚愕の表情に変わっていく。
「ええっ!? あいつが? あの陸玖が、あんたんところの先輩の弟!? マジかよ!?」
怜奈は目を丸くして、信じられない、といった様子だ。無理もない。海美先輩は凛とした美人系で、陸玖くんは……ちょっと変わったオタク系だもんね。
「そうなの。だから私、海美先輩に陸玖くんのこと、何とかしてくれないかって頼んだんだよ」
私がそう告げると、怜奈はさらに信じられないという表情で私を見た。
「ウソダ。ジョウダンダヨネ、エリ? ジョウダンダトイッテクレ……」
怜奈は首を横に等周期で振り続け、全然信じてくれない様子だった。まあ、無理もないか。海美先輩の口約束だけで、あの陸玖くんの情熱が収まるなんて、私もまだ半信半疑なんだから。




