俺、部活はじめます3 ~0πの謎~
「ふぅ……」
今日の練習は、想像以上にハードだった。慣れないレオタード姿で跳んだり跳ねたり、開脚したり……。肉体的にも精神的にも、もうヘトヘトだ。気がつけば、時計の針はとっくに5時を回っていた。疲労困憊の体を引きずって、俺は更衣室へと向かった。
すると、更衣室の入り口で、まさかの人物と遭遇した。
「あ、怜奈! お疲れ!」
そこにいたのは、なんと競泳水着姿の恵理だった。そういえば、さっきまで床に倒れこんでいたのを思い出して、ついつい口走ってしまった。
「なんじゃ、われ生きとったんか。」
「人を勝手に殺すな!」
不意に俺の口から広島弁が出てしまった。咲良先輩の訛りが移ってしまったようだ。
そんなことよりも、まさか水泳部だったとは! 恵理は、俺のレオタード姿を見て目を輝かせている。
「体操部、すごく似合ってるじゃん! なんだか、すごく生き生きしてるように見える!」
恵理の言葉に、俺は思わず苦笑いした。正直、生き生きしているどころか、気分はゲッソリしていて、今すぐにでも倒れ込みたいほどだ。しかし、それ以上に俺の目を引いたのは、恵理の競泳水着姿だった。ピッチリとした水着は、体操のレオタードとはまた違った生々しさがある。
「恵理ってさ、その格好で恥ずかしくないの?」
思わず、素朴な疑問をぶつけてみた。すると恵理は、にこやかに答えた。
「全然! むしろ、この素晴らしいプロポーションを見てほしいくらい! 今の私の体、最高に大好きだし!」
恵理は、自信満々に胸を張ってみせる。そんな恵理を見て、俺は正直、羨ましいと思った。恥ずかしいとか、そういう感情抜きに、自分の体をこれだけ肯定できる恵理が、少し眩しかった。
その時、恵理は俺の胸元に視線を移し、ぶつぶつと何かを呟き始めた。
「うーん、でも怜奈ちゃんよりも0πが小さいのは納得いかないなぁ……」
0π? なんだそれは。
「ねぇ恵理、『0π』って何?」
俺が尋ねると、恵理はにっこり笑って、何の躊躇もなく俺の胸に触れてきた。
「∴0π=豊満。QED!」
恵理が口にした数式交じりの言葉と、胸に感じる恵理の手のひらの感触に、俺の羞恥心は限界を突破した。
「な、何すんだよ、恵理ぃ!!!」
思わず大声で叫んでしまった。部活の疲れも吹き飛ぶほどの羞恥心と怒り。俺の第二の人生は、どうやら前世では経験しなかったような、新たな感情の嵐の中に放り込まれることになりそうだ。
帰宅後、俺は一目散に風呂に入って、リフレッシュすることにした。だが、リフレッシュどころか、今日の出来事を思い出すたびに、顔を真っ赤にしていた。
「はぁ〜……」
湯船につかりながら、何度もため息をつく。レオタード、開脚、咲良先輩のいじわるな言葉、そして恵理の「0π」発言……。考えれば考えるほど、羞恥心で頭がいっぱいになる。
特に、恵理に胸を触られた時の感触が忘れられない。自分の胸に目をやると、転生した直後よりも、なんだか少し大きくなったような気がする。まさか、成長期ってやつか? でも、こんなに恥ずかしい思いをするくらいなら、いっそぺったんこでも良かったのに……。いや、これはこれで、また別の悩みが生まれるのだろうか。
「なんで恵理は、あんなに自信満々なんだ?」
恵理の「今の私の体、最高に大好きだし!」という言葉が頭の中で繰り返される。どうすれば、あんな風に自分の体に自信を持てるのだろう。恥ずかしいなんて思わずに、堂々とできるのだろうか。
風呂から上がり、洗面台の鏡に映る自分の裸体を見て、俺はハッと息をのんだ。意外と、悪くない。むしろ、結構キレイな体をしているように見える。前世のおっさん体型とは大違いだ。つい見惚れてしまい、気がつけば、鏡の前でセクシーポーズを取っていた。
その瞬間だった。
ガチャッ!
「怜奈〜、お風呂空いた?」
突然、母が扉を開けた。その瞬間、デュオのザ・ワールドがかかったように、時間と空間が一気に止まった感じがした。そして時が動き出すと、思わず悲鳴を上げてしまった。
「ひぎいぃぁやぁあっ!!!」
俺はロケットのような勢いで浴室を飛び出し、自分の部屋へと駆け込んだ。
ガチャン! と扉を閉め、ベッドに転がり込む。もう、これ以上ないほどの羞恥心が俺を襲う。顔が熱くて、心臓がバクバクいっている。今夜は、きっと眠れない。いや、恥ずかしすぎてまた死んでしまう。モームリ……。




