いじめ事件1 ~新たな現実~
退院して、俺は、怜奈という子の自宅に戻ってきた。マンションの3階にある、ごく普通の家だ。玄関のドアを開けると、懐かしいような、それでいて初めて見るような感覚がした。
「怜奈、ゆっくり休んでね」
母さんの優しい声に送られ、俺は自分の部屋へ向かった。
部屋の壁には、ちいかわのカレンダーが貼られてあった。床には、マンガ雑誌や、読みかけの古典文学、それに数学の参考書が無造作に置かれてあった。机の上には教科書と問題集が山積みにされ、その下には、カラフルに彩られたノートが下敷きにされている。今どきの女の子の部屋にしては、どこか殺風景な感じがした。
色々と詮索してみたかったが、体がどうも気持ち悪い。そういえば、病院ではろくに体を洗えなかった。まずは、シャワーを浴びよう。そう思って、俺はバスルームに向かった。
バスルームに入り、鏡に映る自分を見る。そして、現実を確かめるように、この女子高生の体をあちこちと触った。
(ああ、やっぱり女の子の体だ……)
特に、大きく膨らんだ胸の感触を確かめたときには、本当に転生してしまったんだなと、イヤでも現実を受け入れざるを得なかった。
だが、体を触っているうちに、鈍い痛みを感じた。よく見ると、腕や足、お腹にも、数えきれないほどの青アザができていたのだ。まるで、誰かに殴られたかのような、痛々しいアザが全身を覆っている。
「これは…」
シャワーで体を洗った後、改めて鏡を見ると、アザはさらに鮮明に見えた。それだけではない。腕や足には、切り傷の跡もあった。それも、カッターナイフで切られたような直線的な傷だ。これは、事故でできた傷ではない。誰かに暴力を振るわれた痕だ。
シャワーから上がり、部屋に戻って、怜奈の部屋を整理しようとした。とりあえず、机の周りをキレイにしておこうとしたとき、俺はさらに衝撃的な光景を目にした。
椅子には、ボロボロの制服が置かれていた。よく見たら、引きちぎられたものもあれば、ハサミで切り裂かれてある箇所もあった。机の上には、フレームが折れ曲がったメガネが、そして、机の上に置かれたテキストを見てみると、墨汁で汚された痕跡が残っていた。そして、隅に置かれたカバンには、修正ペンで「死ね」「消えろ」といった悪口がぎっしりと書き込まれていた。
「いじめか……」
俺は全身の血が凍るような感覚に襲われた。これは、明らかに怜奈がひどいいじめを受けていた痕跡だ。
両親は、怜奈が元々あまり口数が多くなかったため、まさかこんなことが起こっていたとは知らなかったという。飛び降りる直前の様子を聞いてみると、「何でもない」としか答えなかったそうだ。ただ、あの時の怜奈の表情は、どこか暗く、笑顔もぎこちなかったそうだ。
夜になり、ベッドに入ろうとしたとき、机の隅に一冊のノートが目に入った。表紙には「日記」と書かれているが、中を開くと、そこには怜奈の絶望と苦しみが綴られていた。
「もう、無理…」「消えたい…」「あいつらの顔も見たくない…」
そして、最後のページには、震えるような文字でこう書かれていた。
「私がいなくなればいいんだ」
これは、紛れもない遺書だ。
俺は、怜奈の痛みと絶望が、まるで自分のことのように感じられた。いじめられて、追い詰められて、死を選ぼうとした怜奈。
(なぜ、こんなひどいことを…。)
俺の中で、静かな怒りがこみ上げてきた。転生して、せっかく手に入れた新しい人生。このまま、怜奈の無念を放置するわけにはいかない。
(絶対に許さねえ…!)
俺は、怜奈の代わりに、必ず復讐してやる。




