はじめてのショッピング1 ~休日のお着換え地獄~
「怜奈、ねぇ怜奈! 今日お出かけ行こっ!」
休日の朝、まだ夢うつつだった私の耳に、甲高い声が飛び込んできた。スマホの画面を見ると、恵理からのメッセージが何件も届いている。そう、俺、浅間怜奈は、とある事故で人生の幕を閉じたはずのしがないサラリーマンだったのだが、気が付けば女子高校生として第二の人生を歩んでいた。そして河合恵理は、同じく前世の記憶を持つ転生仲間だ。ベランダから足を滑らせて墜落死したと聞いたときは、思わず合掌してしまったものだ。
「どこ行くの?」
と返すと、すぐに「んー、決めてないけど、とりあえず駅前集合ね!」と返事が来た。相変わらずフリーダムな恵理だ。まあ、休日暇だし良いか。
適当なTシャツにジーンズのスカートを合わせて、玄関を出る。駅前には既に恵理が立っていた。栗色のセミロングヘアーが風になびいていて、相変わらず可愛い。
「怜奈! 遅いよ~」
恵理は腕をぶんぶん振りながら私に駆け寄ってきた。
「ごめんごめん、ちょっと寝坊した」
そう言って笑いかけた瞬間、恵理の笑顔が固まった。そして、次の瞬間には、目を丸くして俺をまじまじと見つめてくる。
「怜奈、その格好……マジ?」
「え? いつも通りだけど?」
俺の地味目な服装を見て、恵理は深いため息をついた。
「怜奈さぁ、せっかく女の子なんだから、もっと可愛い服着なよ! そんなんじゃ、まるで私服がだめなイモオタ男じゃん!」
「イモオタ……?」
「芋虫オタク! まったくもう。」
図星すぎて何も言えない。前世では毎日スーツだったし、私服なんてTシャツとジーンズで十分だと思っていた。それがまさか、転生しても響くとは……。
「よし! 怜奈、決定! 今日は私のプロデュースで、怜奈を大変身させちゃう! 覚悟しとけよ!」
恵理は俺の腕を掴んで、駅ビルの中にあるアパレルショップにずんずん進んでいく。おいおい、どこに行くんだよ。俺の行きつけのゲーセンはあっちなんだけど。ああ、愛しのギース様、ベガ総帥、ルガール社長、どうか助けて、くださるわけないか……。
気が付くと、かわいい洋服がずらりと並んでいるアパレルショップのエリアに入っていた。
「怜奈にはね、これとか絶対似合うよ!」
「え、これ? 肩丸出しじゃん……」
恵理が差し出してきたのは、淡いピンク色のオフショルダーブラウスだった。そして、その下にはベージュのミニスカート。イヤだ! いくらなんでも露出度が高すぎる。こんなの、前世の俺だったら絶対選ばない。というか、選べない。
「大丈夫ダイジョーブ! 試着してみてよ!」
半ば強引に試着室に押し込まれ、言われるがままに袖を通す。肩がはだけて、普段着慣れない感覚にソワソワする。スカートも短すぎて、なんだか落ち着かない。うう、これは何の拷問なんだよ。
恐る恐る試着室から出ると、恵理がキラキラした目で俺を見つめていた。
「キャー! 怜奈、めっちゃ可愛い! やっぱ私の目に狂いはなかった!」
恵理は手を叩いて喜んでいる。そして、俺の周りをぐるぐる回りながら、満足そうに頷く。
「ね、似合うでしょ? せっかくの女子高生なんだから、楽しまないと!」
そんな恵理の姿を見て、俺はふとある疑念を抱いてしまった。
(こいつ、まさか俺を…着せ替え人形にして楽しんでないか……?)
前世の記憶がフラッシュバックする。そういえば、恵理は、転生してから可愛いものに夢中になってしまって、流行りのメイクやファッションとかアクセサリーとかに敏感になってしまってたな。そんな恵理に、俺は振り回されているのか……。
俺の顔が引きつっているのには気づかず、恵理は満面の笑みで言った。
「よーし! 次は、怜奈に似合う靴とバッグを探しに、アマゾンの奥地へと入り込むのだ!」
せめてネットショップのサーフィン程度にしてくれよ……。俺の受難は、まだまだ続きそうだ。