表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺、女子高生になりました  作者: アガッタ
第1章 俺、いじめを成敗します
15/69

いじめ事件14 ~あっけない結末~

昼休み、俺はいつものように食堂へ向かおうと、カバンから弁当を取り出そうとしていた。その瞬間、突然目の前に人影が立ちふさがった。

気がつけば、田岸のヤツが目の前に立っていた。だが、この日は、一緒にいるはずの他の2人の姿はいない。彼女の右手に握られていたのは、鈍い光を放つスタンガンだ。

「あんたのせいよ!」

田岸は狂ったように叫び、右手に握っていた鈍い光を放つスタンガンを、躊躇なく俺の脇腹に当ててきた。

「ぎゃあああああ!!」

体に電気が走るような激痛が走り、俺は思わずうめき声をあげた。体が痺れて、その場に膝をついてしまった。

田岸は、さらに激しく言いがかりをつけてきた。その表情は憎悪に歪み、完全に正気を失っているように見えた。

「あんたのせいで、あたし、ひどい目に遭ったじゃない!」

「あんたのせいで、あいつら2人にバカにされたのよ!」

「あんたのせいで、二人に裏切られた!」

「あんたのせいで、お父さんに見限られた!」

彼女の言葉は、まるで壊れたレコードのように繰り返される。「全部あんたのせいで、何もかもうまくいかなかった!」と、彼女は俺に全ての責任を押し付けようとしている。取り巻きに裏切られ、父親からも見限られたことで、田岸は完全に追い詰められているようだ。

俺はまだ体勢を立て直す間もなく、田岸は再びスタンガンを構え、俺に襲いかかろうとした。

(やられる……!)

激痛を覚悟し、両目を強く閉じたその時だった。

恐る恐る目を開くと、恵理が無言で、田岸のスタンガンが握られてある手首を力強くつかんでいた。

「何よ、あんた!?」

田岸は怒鳴り、スタンガンを恵理に向けた。彼女は、もはやなりふり構っていられない状態だ。恵理は冷静に、田岸の動きを見極めている。


「深雪、そこまで!」

田岸が恵理にまでスタンガンを向けたその時、教室のドアが勢いよく開いた。そこに立っていたのは、グレーのスーツを完璧に着こなし、威厳のある白髪交じりのミセスヘアの女性だった。その佇まいからして、ただ者ではないことは一目瞭然だった。

女性は、一歩教室に足を踏み入れるなり、田岸の頬を平手打ちにした。


パァァァン!!


田岸の頬を叩いた音は小さかったが、一切の容赦がなく、教室の空気が凍りついたように感じられた。田岸は、その女性の姿を見るなり、顔色を失って固まった。彼女の目には、恐怖の色が浮かんでいた。

その女性こそ、田岸の祖母であり、この学園の理事長だった。

田岸は、祖母である理事長に必死で言い訳をしようとした。

「お、おばあ様…これは…浅間のヤツが…」

しかし、理事長は田岸の言葉に一切聞く耳を持たなかった。それどころか、理事長は田岸のこれまでの悪行を、まるで見ていたかのように洗いざらい並べ立て始めた。

「あなたが、浅間さんに対しいじめを繰り返し、いえ、浅間さんだけでなく、多くの生徒を苦しめてきたこと。そして、今回、このような凶器を持ち出し、学園内で暴挙に及んだこと。全て把握しています」

理事長の言葉は、田岸の心を確実に打ち砕いていた。そして、彼女は冷たく言い放った。

「田岸深雪、あなたを本日付けで退学処分とします。そして、我が家から破門とする!」

田岸は愕然とした顔で理事長を見つめた。彼女の顔からは血の気が引き、完全に絶望しているようだった。

田岸は、最後の悪あがきとばかりに、父親の名前を出して食い下がろうとした。

「そんな…パパが…お父さんが黙ってないわ!」

しかし、理事長の返答は、田岸の最後の希望を打ち砕くものだった。

「義信の件は、既に私が警察に告発しました。一連のインサイダー取引の証拠も全て提出済みです。まもなく逮捕される予定です」

俺は息をのんだ。資産家であるあの田岸義信が逮捕される?あの、警察すら手が出せなかったと言われる資産家が?

理事長はさらに続けた。

「加えて、私が大地主としての地位を活かし、この地域の政財界の人間にも、今後一切義信と関わらないように釘を刺しておきました。彼が再起することはないでしょう」

そして、追い打ちをかけるように、理事長は告げた。

「それと、義信の全資産も凍結させました。後日、差し押さえが入ることでしょう。」

田岸は、その場で腰を抜かしてしまった。彼女の表情は、憎しみと絶望に満ちていた。全てを失った田岸は、失意のまま、その場に立ち尽くしていたが、やがてふらふらと教室を立ち去っていった。

俺は、田岸の祖母である理事長の、冷徹かつ圧倒的な力に震えた。彼女は、田岸を、そしてその父をも、たった一人で完膚なきまでに叩きのめしたのだ。この学園でのいじめは、これで終わりを告げるだろう。しかし、俺たちの戦いは、新たな局面を迎えたのかもしれない。


田岸が去った後、理事長は俺の方に向き直った。その表情は、先ほどまでの冷徹さとは打って変わり、どこか申し訳なさそうだった。

「怜奈ちゃん…じゃなく浅間さん、この度は、私の孫がご迷惑をおかけしました。心よりお詫び申し上げます」

理事長は深々と頭を下げた。俺は、突然のことでどう反応していいか分からなかった。謝罪されるようなことをした覚えはないし、むしろ助けられたのは俺の方だ。

「まさか、あなたがここまでの被害を受けているとは…本当に申し訳ありませんでした」

理事長は、まるで俺の被害状況を全て知っているかのように話す。なぜ、この人が俺のことをそんなに詳しく知っているのだろうか? 何よりも「怜奈ちゃん」と口にしてしまっている。この理事長とそんなに親しい間柄だったのだろうか。

俺が困惑していると、理事長は問いかけた。

「怜奈ちゃん、私の顔を見忘れまして?」

暴れん坊将軍のお決まりのフレーズに似たような口調に、俺は首を傾げた。そして、理事長がふわりと後ろ髪を束ねた瞬間、俺は腰を抜かしてその場にへたり込んだ。

「か! か! か! か! か!」

言葉を失ってしまい、つい「か」としか声を発せなかった。そこにいたのは、まさに、俺のマンションの管理人だった。いつも古着を着て、花壇の水やりをしていた、あの年配の女性が、まさかこの学園の理事長だったなんて。俺は呆然とした。恵理もまた、俺と同じように固まってしまっていた。

理事長は、俺が怜奈としていじめられていたこと、そして怜奈が自殺未遂をしたこと、その全てを知っていたのだ。だからこそ、あの時、俺に「思い詰めなさんな」と言い、「何かあったら遠慮なく言いなさいな」と忠告してくれたのか。

理事長は、俺が汚されて捨てた制服やカバン、墨汁で汚されたテキスト、そして壊されたスマホのことまで知っていた。

「深雪たちに汚された制服やカバン、テキストなどは、全て新しいものに弁償させていただきます。」

理事長はそう言いながら、俺の壊れたスマホに目を向けた。

「そして、このスマホも、私が自腹で新しいものを用意させていただきます」

俺は、そこまでしてもらうのは申し訳ないと思い、遠慮しようとした。しかし、理事長は俺の気持ちを見透かしたように言った。

「いいえ。これで深雪の気が済むのです。これは、私の孫が犯した罪に対する償いですから」

理事長の言葉には、有無を言わせぬ強い意志が感じられた。俺は、その言葉を受け入れるしかなかった。田岸の祖母である理事長が、自らの手で田岸を断罪し、その償いをしようとしている。この重みは、俺が拒否できるものではなかった。

こうして、田岸への復讐は、理事長の手によって完遂されたと言えるだろう。なんだか最後はあっけない幕切れだったが、これで一度死んだ怜奈の無念が晴らされるのなら、これもアリなのかもな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ