いじめ事件10 ~管理人の忠告~
学校からの帰り道、俺はマンションの花壇の前で、水やりをしている管理人に出会った。田岸の祖母が大地主だという恵理の話を思い出し、俺の表情は曇っていたのかもしれない。
「どうしたの、怜奈ちゃん。そう思い詰めなさんな。」
管理人は、俺の顔を見るなり、優しい声でそう言った。彼女は、俺が何か悩んでいることを察したようだ。
「人生は長いんだから、焦る必要はないよ」
「ありがとう、管理人さん。」
管理人は、一呼吸置くや否や、
「そうそう。少しばかり世間話でも付き合ってくれるかしら。」
そういうと管理人は、自分に孫がいることを打ち明けた。
「私にはね、怜奈ちゃんと同じくらい頭のいい、可愛い孫がいるんだよ。」
彼女の孫は、将来は政治家になって、内閣総理大臣として世界を動かしたいと言っているらしい。
「あの子はね、目標のためなら努力を惜しまない、素晴らしい子だよ」
管理人は、孫を誇らしげに語った。しかし、その表情には、どこか複雑なものが混じっていた。
「でもね、最近の政治家は権力闘争に明け暮れているでしょう? あの子が、本当に何を考えているのか、たまに分からなくなるんだ。」
管理人は、冗談めかして言った。
「まさか、他人を貶めてまで、自分がナンバーワンになろうなんて思ってないだろうねぇ」
その言葉を聞いた瞬間、俺の脳裏に、資産家の娘である田岸の姿が浮かんだ。田岸は、怜奈を貶め、自分たちの優位性を保とうとしていた。
管理人は、俺の目を見て、真剣な表情で言った。
「もし、そんなことがあったら、遠慮なく言いなさいね。私は、いつでも怜奈ちゃんの味方だから。」
管理人の言葉は、俺の心に温かく響いた。しかし、同時に、なぜ管理人がそんなことを俺に言うのか、不思議に思った。
なぜ、他人の孫について、俺に「遠慮なく言ってほしい」と言うのだろう。