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知らなかった想い

再会のお話

途中で視点が変わります

お互い婚約者のいない者同士、ふたりで会う事はまずいだろうという事でナタリアと彼女の婚約者…彼の友人でもあるダニエル様も同席した茶会形式となった

茶会の会場もナタリアの家

あくまでもナタリアとダニエル様がお互いの友人を紹介する、という形になったのだ

お茶の支度が終わって、侍女や侍従達は部屋の外に出る

ナタリアとダニエル様はティーテーブルから少し離れたソファに移動した


「…僕のわがままを聞いてくれてありがとう」

ナタリア達がソファに移動するのを待っていたのだろう、彼が話し始めた

「今さらなんだけど、君には何の瑕疵もないのに、傷つけてしまった事に対して謝罪させて欲しい。本当に申し訳なかった」

そう言って頭を下げる彼…マティアス様

「あの…頭を上げて下さいませ」

内心ため息を吐きながら声をかける

「こちらこそ、私への嫌がらせに対応して頂きありがとうございました」

今度は私が頭を下げる

「あの件でアドラー卿が謝罪なさる必要はございません。あなたも被害者だったんですから」

そう言うと彼は

「いや、僕がちゃんと対応していたら君が被害に遭う事はなかったんだ」

と言って苦笑した

「それに謝りたいのはそれだけじゃないんだ」

カーテシーを笑った事、その後虫を投げつけた事、そして突き飛ばして怪我をさせた事…

「あの頃の僕は素直じゃなかったというか…思った事を口にするのが下手で…本当は君と仲良くなりたかったのに、どう接していいかわからなくて…」

…仲良くなりたかった?素っ気なかったのは嫌いだからじゃなくて、どう接していいかわからなかったから?

「あの日も…君に『大嫌い』と言われてショックだったんだと思う。怒らせたのは僕なのに、勝手だよね」

そう言って肩を竦める様子は私の知らない彼だった

「私は…アドラー卿は私の事嫌いなんだと思っておりました…」

そう言うと彼は愕然とした

男の子達といる時のように楽しそうに見えなかったし、他の女の子には親切にしていたのに私にはあんまり話しかけてくれなかったし…それでも私もあなたと仲良くなりたかった

「私、アドラー卿…いえマティアス様の笑顔が大好きだったんです」

「それ、本当…?」

「こんな事で嘘は言いませんよ」

そう言うと彼は天を仰いだ

「あの頃素直になっていたら、君と仲良くなれていたんだね…本当、できる事なら出会ったあの日に戻りたい…」

そんな事言っても、記憶を持って戻らなければ同じ事の繰り返しになってしまう

「マティアス様、私はもうこめかみの傷もあの時の事も気にしておりません。もう終わりにいたしましょう?」

顔を戻した彼は訝しげな表情をしている

「これ以上私の事でマティアス様がお心を痛める必要はございません。私の中ではもう全部終わった事です。それよりもこれから先をどう生きていくかのほうが大切だと思っております。過去に囚われていては幸せが逃げてしまいますわ」

だから、もう終わり

謝罪も後悔もいらない

生きていれば跡の残る傷を負う事もある

あの頃は負けてしまったけど、今なら対処できる

「私、昔のように大人しくしているだけではダメだと学びました。マティアス様もどうか過去に囚われず、前を向いて歩いてくださいませ」

ふわりと微笑めば、彼も気が抜けたように笑った

「…そうだね、ありがとう」

なんだかお顔が赤いけど、大丈夫かしら?


「お話は終わった?」

話しが途切れたところでナタリアから声がかかる

新しいお茶を入れてもらいましょうねとナタリアがベルを鳴らし、温かいお茶とお菓子が用意された

はぁ…なんだかいっぱい話したから喉が乾いちゃった

美味しいお茶とお菓子をいただきながら当たり障りのない話をして過ごしているうちに迎えの馬車が来た

3人に見送られ馬車に乗ろうとした時、彼が近づいてきて囁いた

「僕もあの頃のままじゃないから…覚悟しておいてね」

えっ、どういう事?

「じゃあまたね。ファーストダンスは父君に譲るけど、その後は僕と踊ってね」

訳がわからないまま彼の手を借りて馬車に乗り込む

…ダンスって、ダンスって、一体どういう事?


◇◆◇


全部終わった事、か

きっとその中には僕の事も含まれているんだろうな…

そう思って諦めようとしたら

彼女が笑ってくれた

その笑顔は昔よりも輝いていて、昔よりも綺麗だった

過去に囚われず、前を向いて歩けって?

そうだね、これから前向きに頑張るよ

それでダメなら諦めよう

まずはデビュタントのセカンドダンスを予約させて?

今日は情け無い僕しか見せられなかったけど

次に会う時は君が好きだ(った)と言ってくれた笑顔で

エスコートしてみせるから


馬車に乗り込む前のやり取りをみていたナタリアとダニエルが

「…マティアス兄様って、あんなだったかしら?」

「女の子にはドライな感じだったのに…あんなマティアス見た事ない」

「…エミーリアには幸せになって欲しいのに…」

「でもマティアスが側にいたら他の奴は寄れないだろう?」

「そうよね…今の世代で婚約者がいない上位貴族って兄様くらいだものね…」

「あの感じだと絶対隣を死守するだろうしね…どのくらい粘れるかな、彼女」

「嫌なら隣国に逃げる手もあるんだけど…絶対追いかけて行くわよね」

そんな話をしていたと聞いたのは、だいぶ後の事だった


僕はエミーリアに言ったように、デビュタントの夜会で父君のバウアー伯の後にダンスを踊った

「…マティアス様、本気でしたの?」

もう私に囚われるなと言ったのに、とでも言いたげな彼女の視線を笑顔で躱わす

「初恋の女の子が手の届くところに帰って来たんだ。()()()()()()()しかないじゃない?」

…良かった、今でもこの笑顔は()()みたいだね

もう、もうと言いながら赤くなっている彼女はとても可愛いかった

婚約者ではない僕達は1曲踊ってダンスフロアを離れた

でも僕は片時も側を離れない

…だって目を離した隙にまた彼女が傷つく事があったらイヤだから

「私、大丈夫だと言いましたよね?」

「いいんだ、僕がエミーリアの側にいたいだけなんだから」

「だからって、レストルームまで付いて来ないでくださいませ!」

すれ違った衛兵が思わずといった感じで吹き出している

「マティアス様は目立つのですぐ見つけられます!ちゃんと戻りますから、フロアに居てくださいね!」

うん、仕方ない

しつこくして嫌われたら元も子もない

おとなしく待つ事にしよう


僕が至らなかったせいで二度も傷つけてしまったけど

今度こそ間違ったりしないから

側にいる事を許して欲しい

ごめんね、エミーリア

僕って案外執着心が強いみたいだ









最初はふたり別々の道を…と思っていたのですが、書いているうちにこうなりました(笑)



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