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全部僕のせい

素直になれないお年頃にやらかした男の子

そんな彼の視点です

彼女と初めて会ったのは8歳の時

父の仕事関係で招いた伯爵家の女の子 

薄茶の髪の大人しそうな女の子

7歳だというその子のカーテシーは

まだグラグラと覚束なくてクスっと笑ってしまった

彼女はちょっと悲しそうな顔をしてた

「さっきはごめんね」

そう謝りたくて彼女を探す

僕の従姉妹と一緒にいたので声をかける

何が面白かったんだか満面の笑みで振り向いた彼女に一瞬見惚れた

ああ、可愛いな…

でも僕の顔を見ると笑顔が消えてしまい、なんだか悔しくて足元の石にしがみついていたダンゴムシを彼女に投げつけてその場を離れた

…従姉妹からその話を聞いた母からはもちろん怒られた


その後も時々彼女と顔を合わせる機会があったけど

僕といるとあんまり喋らないし

仲良くなりたいのに上手くいかなくて

イライラしていたある日

…彼女に怪我をさせてしまった

ふたりでベンチに座って

珍しく話が弾んで

すごく楽しかったのに

僕の言い方が悪かったのか彼女が怒って

僕のこと大嫌いと言って…

カッとなった僕は彼女を突き飛ばしてた

地面に倒れた彼女が起き上がると左のこめかみの辺りから血が流れていて

慌てて大人を呼びに行って

手当てのために室内に運ばれる彼女に

「ごめんね、ごめんね」

と言うしかなくて

両親からたっぷりと叱られ後、跡が残ってしまうかもしれないと聞いて

…もう彼女と会えないかもしれないと思った


その後やっぱり彼女は僕の行くような場には顔を出さなくなり

嫌われたままじゃイヤだと思ったけど

会いに行って謝る勇気もなく

もう誰も傷付けないように

感情と行動をコントロールするすべを学び

いつかまた会えたらちゃんと謝って仲良くして欲しいと言うんだと思いながら過ごしていった


紳士的に振る舞えるようになった僕は、女の子達には魅力的に見えたようで

気の早い家からは縁談の話が来ていたみたいだけど、彼女より心を惹かれる子はいなくて

社交の場では一定の距離をおき、家に届いた釣書は送り返してもらった

…そのせいで彼女が再び傷付くなんて考えてもいなかった


学園入学してからは、家を通しての縁談だけでなく学園内で近付いてくる女の子もいて多少持て余していた

2年生になって学生会の役員になった僕は壇上から彼女の姿を探したけど、顔の判別まではつかなくて見つけられなかった

ちょっと残念だったけど同じ学園に通っているのだからそのうち会えるだろうと思っていた

その日は案外すぐに訪れて、試験前に図書室に行ったら彼女を見かけた

声をかけたら丁寧な挨拶を返されて困らせたかなと思ったけど

廊下やランチルームで会えば笑顔で会釈してくれたし、図書室で一緒になれば試験のことや本のことなんかを少し話したり…上級生と下級生としては普通だと思っていた


だから気づかなかった

彼女に何が起きているのかを

なんだか元気がないなと思っていたのに

理由を聞かなかった僕はなんてバカなんだろう

彼女に関する噂は主に2年生の女の子の間で囁かれていて、だんだんと1年生に広まっていったらしい

彼女と親しい友人達…従姉妹のナタリア達には巧妙に隠されて伝わったようで、ナタリアも彼女が休みがちになってから知ったそうだ

呼び出し、すれ違いざまにぶつかる、悪意ある噂、級友から避けられる毎日…

なんで彼女がと思っていたら、首謀者はわりとすぐにわかった

一時期もう諦めて離れたと思っていた女の子がまた擦り寄ってきたんだ

ナタリア達もいろいろと聞き回って情報を集めてくれた

僕は放置していた女の子関係のトラブルと彼女が巻き込まれてしまったことを両親に報告して対応をお願いした

「なんて陰湿な…ああ、またあの子を傷つけてしまったのね」

父は眉間に皺を寄せ、母はハンカチを握りしめた

もちろん僕の対応の不味さを指摘され叱責されたけど、それ以上に両親は彼女に対する陰湿な虐めに怒り、すぐに動いてくれた

その結果首謀者は学園を去った

こんなことなら早く両親に相談していれば彼女は傷付かずに済んだのに…

彼女に会って謝りたくて会えないか手紙を書いたけど、会える体調でないことを理由に彼女の父君から断りの返事が返ってきた

両親には時を待つよう言われたけど、彼女を苦しめた奴はもういないこと、対応が遅れたことの謝罪、そして会って話したいことを知って欲しくて手紙を書いた

彼女からの返事は

…もう私のことなど気にかけないで、という穏やかな拒絶だった

まだ心も体も疲弊しているのがすぐわかる乱れた筆跡に、僕は会いたい気持ちを無理強いしないことに決めた 


ナタリア達は彼女と手紙で交流したり、体調が良い時は少しの間会ったりしていたらしい

1年生の後半は正式に休学して体調回復に努めることならなったそうだ

僕の最後学年には戻ってくるかと期待していたけど

結局親戚の伝手を使って隣国に留学することになったとナタリアから聞いた僕はがっくりと肩を落とした

「卒業してこっちのデビュタントに出るならまだ望みはあるかもよ」

「もし帰ってきたら教えて」

そして2年の月日が流れ、ナタリアから知らせが入った

「彼女、いまさらなんでって感じだったけど…一度キチンと話しをしたほうがいいとは言っておいたわ」

ありがとう、ナタリア!

僕は会って話しがしたいと彼女に手紙を書いた

数日後、彼女から予定のない日が書かれた返事が届いた


もし初めて会った日に戻れたなら

カーテシーを笑ったりしない

虫を投げたりしない

突き飛ばしてケガなんてさせない

ちゃんと周りに目を配って

君を傷つけるような事させない

そうしたら君は笑ってくれるだろうか



そんなの無理だってわかっているけど…











会うことだけは決まりましたが、ふたりの関係はどうなるのか…まだ決めかねてます

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