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私が何をしたというのでしょうか

よろしくお願いします

まずは女の子視点から

初めて会ったのは7歳の時

金の髪に深い青の瞳に目を奪われ

輝くような笑顔に見惚れた…けれど

覚束ないカーテシーを笑われ

お気に入りのワンピースに虫をつけられ

なんて意地悪な子なんだろうと思った


それから年に数回顔を合わせる機会があって

男の子達といる時は楽しそうにしゃべっているのに

私の前では黙ってばかりで

他の女の子達には親切にしているのに

私にはあんまり優しくなくて

きっと彼は私のこと嫌いなんだと思った

それでも時々見せてくれる笑顔が好きで彼と仲良くなりたかった

けれど、ある事があってから

私は彼が来そうな場を避けて

気の合う女の子達との集まりにしか行かなくなった


そうして彼と会わなくなって数年

13歳になる年に入学した学園で

久しぶりに彼の姿を見かけた

学生会の役員として壇上にいる彼と

新入生のひとりとして埋もれている私

侯爵家の嫡男の彼と

古いだけの伯爵家の娘の私

学年も違うし関わることもないだろう

彼は彼で

私は私で

交わることなく歩んでいけばいい

…そう思っていたのだけれど


「エミーリア嬢、だよね?」

入学して初めての試験のために訪た図書室で

お目当ての本を取ろうとしていた私に

声をかけてきたのは彼だった

「…お久しぶりでございます、アドラー様」

制服のスカートを摘んで軽く膝を曲げる

「ああ、いや…学園内だしそんな堅苦しくしなくても…」

「まぁ、上級生の先輩に失礼な事できませんわ」

女の子達ばかりの集まりでもあなたの噂を耳にしない時はなかった

侯爵家嫡男で、絵本の王子様のような容姿、振る舞いは紳士的…なのに未だに婚約者を決めてなくて

美しいけど苛烈だというご令嬢がその立場を狙っているとか

ナタリアも時々嫌がらせを受けているらしい

そんな方に睨まれたら大変だもの

「それでは私は失礼いたします」

借りようとした本を取り、今度は軽く礼をして貸し出しカウンターへ向かう

何か言いたげな顔をしていたけど

いったい何を話すというのだろう

それにしても私のこと覚えていたのね…

そうか『怪我をさせた女の子』だからね


それは私が8歳になったばかりのある日

庭のベンチに座って話している時に

ちょっとした言い争いになって

「意地悪ばかりするマティアス様なんて大嫌いよ!」

と言ったら彼に突き飛ばされて

頭から落ちた私は髪飾りが当たって傷を負った

左のこめかみの少し上には今でもうっすら跡が残っている

髪型を工夫すれば誰にもわからないくらいの跡が

彼のお家での出来事だったのですぐに手当てをしてもらい

ご両親である侯爵ご夫妻からも謝罪されてかえって恐縮したのだけど

『大嫌い』と言った時の彼の傷ついた表情と泣きながら謝る姿に

私だけでなく、彼も傷ついたのだと思い

傷よりも心が痛んだ

きっとまた会えば彼も私も今日を思い出してしまうだろう

それからは彼と会わないように

女の子だけの場にしか行かないことにしたのだった


それからは

すれ違えば互いに会釈を交わし

たまに図書室で一緒になれば

お勧めの本や学園のことを教えてもらったり

顔見知りの上級生と下級生らしい交流をしていたのだけど

彼を狙うご令嬢はその程度のことも気に食わなかったようで

取り囲まれて嫌味を言われたり

すれ違いざまにぶつかってきたり

それでも彼から声をかけられれば無視することもできず…

やがて私を誹る噂が2年生のご令嬢方の間で広まり

昔からの友人以外は遠ざかり

楽しかった学園生活が苦痛となって

私は学園を休むことが多くなった


私が何をしたと言うのだろうか

淡い初恋の相手に意地悪をされて

跡の残る傷を負わされ

そしてまた彼と関わったことで謂れのない誹りを受けて

このままでは大切な家族の瑕疵になってしまう

貴族藉を抜いてもらい平民として生きていくか

教会に入って神に仕えるか

このまま儚くなってしまうほうがいいのか…

そんな詮無いことばかり考えている内に

食事が細くなり

夜は眠れず

無気力な日が続いたある日

一通の手紙が届いた…彼の家から


それは彼の訪いを請う手紙で

誰かに会える状況でない私はお断りして欲しいと父に願った

それでも彼は再び手紙を送ってきた

私を見かけなくなって噂を知ったこと

彼女は処分を受けて学園を離れたこと

対応が遅くなり申し訳なかった

そして、私に話したいことがある…と

私は気力を振り絞って返事を書いた

噂への対応の感謝

彼もまた被害者なので謝らないで欲しい

今はまだ体調が悪く会えないこと

そして…もう私のことなど気にかけないで欲しいと


それから少しずつ、時に逆戻りしながら

家族や友人達に支えられ

普通の生活を送ることができるようになったのは学年が上がる頃だった

それでも元の学園に戻ることはできず

隣国に嫁いだ叔母の好意に甘え留学することにした

私のことを知らない人々の中で淡々と学ぶ日々の間に友人もできて、普通の学生生活を楽しんだ

16歳になり、社交デビューはどうするか迷ったけど結局生国に帰る事にした

可愛がってくれた祖父母が私のデビューを楽しみにしていると聞いたから


帰って来てからは、昔からの友人達と出かけたり、母や祖母とデビュタントの準備をしたりと忙しくしていた

そんなある日懐かしい筆跡の手紙が届いた

留学先から帰国したと聞いたこと

忙しいとは思うが、一度会いたい

そんな感じの内容だった

家族は無理しなくていいと言い

昔からの友人達は私の気持ち次第と言う

「ふたりとも一度キチンと話しをしたほうがいいと思うの。きっとマティアス兄様はエミーリアの本当の気持ちはわかってないし、エミーリアだってマティアス兄様の気持ち知らないでしょう?」

彼の従姉妹でもあるナタリアに言われて考える

この先デビューすればいつまでも避けてはいられないのはわかっている

それなら一度ちゃん向き合って

傷跡のことも噂で傷付いたことも

私はもう気にしていないから

私のことを気にかける必要はないと言わなきゃいけない

そうしないと彼も私も前に進めない…

私は予定がない日をいくつか知らせる手紙を彼に送った
















エミーリアはお互いのために関わらないほうがいいと思ってます

次はマティアス視点です

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