第2話
時は過ぎ、レオン追放から5年
3年前に魔王討伐のため、聖剣デュランダを授かったローランとその幼馴染、聖杖を携えたユーティアはオリアン王国を軸とする連合軍に召集された。そして、数多くの戦場へ赴き、そのたびに伝説的な戦果を挙げた。今では、ローランは人類の希望『聖剣の勇者』で、ユーティアは神緑の聖女様だ。そして、俺はというと………
「今日もいい天気だな」
不格好な麦わら帽子を被り、鍬を片手に村の端にある畑へと足を運ぶ。ローランからの追放宣言後、ソロでもできる依頼を受けようとしたが現実はそううまくいかない。依頼はあっても人一人暮らしていくにはあまりにも少なすぎる金額しか得ることはできず、早々に諦めて故郷の村へ帰ってきた。
「パパ様、私も一緒に行く」
フサフサの二本の尻尾を靡かせ近寄ってきたのはコハク。この辺りでは珍しい名前の獣人だ。獣人の中でも妖狐と呼ばれるとても珍しい種族らしい。東方に浮かぶ島国に住んでいたがその珍しさ故か、一人になった瞬間人さらいに捕まりこちらへ売り飛ばされたらしい。ローランからもらった大量の金貨はこの子を買い取った時に全てを使い果たした。でも、この決断に後悔は微塵もない。俺がこの子と出会った当初はボロボロの布を纏っただけで、純白の髪は薄汚れて灰色がかっていた。その時は、ただ助けたかっただけだった。でも、今は少し違う。この世界に絶望したような。希望なんてない。そんな目をしていた。そして、何よりその生い立ちだ。コハクは妖狐だが、厳密には妖狐の母と人間の父から産まれた半人半獣なのだ。それ故か、獣人としての特徴も半分のみで他の獣人族からも忌み嫌われていた。その姿を自分に重ねてしまったのだ。
「おう、一緒に行こうな」
「ッ♪」
今でこそこんな風に懐いてくれているが、この子を買って1か月間はとてもひどかった。今まで彼女を扱っていた奴隷商の扱い方が悪かったせいで、人間は自分を傷つける敵だと心の底から根付いたソレは簡単には払拭できなかった。だから、時間をかけてゆっくりと触れ合うことで、ようやくこのように懐いて売れることが出来た
「おぉ、おはよう。レオン君、コハクちゃん。毎日レオン君のお手伝いするなんてコハクちゃんは偉いわね」
「………」
「すいません。まだ、他の人には慣れないみたいで……」
「いいのよ、ゆっくりでいいからね」
この朗らかな雰囲気を纏った老婆は、ムー婆さんという。本名はわからないが俺たちが子どもだった時からとてもよくしてくれている人だ。この人にはミライのことについて詳しく話しており、レオンがフォローするまでもなくそそくさと去っていった
「まだ、他の人は怖い?」
レオンはしゃがみ込み視線の高さをコハクに合わせる。その問いにコハクはゆっくりと視線を地面へ落とす。
「そっか……徐々に慣れていこうね」
そういうと、立ち上がりまた畑へと歩き出した。その後は、何事もなくいつも通り畑仕事をして日が暮れるころには家へ帰る。
「コハク。シチュー出来たぞ」
「やったー。早く食べる!!」
ご飯を済ませ、畑仕事で流した汗を濡らした手ぬぐいで拭き、コハクと一緒にベッドで寝る。そんな日常が今はとても幸せだ。
そんな日々がこれからも続くと思っていた。
しかし、それは突然訪れる