79 友人として
「ユリア……!」
私が手を振り払わなかったことで、勘違いしたのだろう。レスターが表情を綻ばせ、嬉しそうな声をあげる。
けれど、実際はそうじゃない。私は彼を受け入れたわけではなく、再考の余地はあるかもしれないと思っただけだ。
さっきの彼の、本音を飾らない言葉によって、私自身も頑なになりすぎていたことに気が付いたから。
勘違いしていそうなレスターに、私はさっきより近付くと、彼が一言一句聞き漏らすことのないよう、はっきりと告げた。
「勘違いしないでね。私はまだ貴方に言われたことを自分なりに考えてみようと思っただけで、受け入れると言ったわけじゃないの。これまでの様々な出来事に関して、私にも悪いところがあったと思えたから、考える時間が欲しいだけ」
「そ、そうか……」
私の言ったことに、明らかにしゅん、とするレスター。
気持ちは分からないでもないけれど、そんな風にあからさまに落ち込むのはやめて欲しい。いくら婚約解消したとはいえ、長い付き合いの幼馴染が目の前で落ち込んでいたら、どうしても胸が痛んでしまう。
けれど私は、彼を励ますような言葉は口にせず、逆に釘を刺すように指を一本ピン、と立てた。
「とにかく約束は約束だから、長期休暇が終わるギリギリまで、貴方は治療に専念して。もしもそれより前に私に会いにきたり、治療を断念したりしたら──」
「し、しない! 絶対に約束は守る!」
焦ったように、私の言葉を遮るレスター。
ここまで言ったからには、きっと彼は約束を守ってくれるに違いない。
ただそうなると、私も今後どうするかを、もう一度考え直さなければいけない。
そこでチラリとフェル達の方に視線をやって、私は思わずぷっと吹き出した。
いつの間にやら、フェルに絡んだ令嬢はその場からいなくなっていて、代わりにミーティアがパルマーク様に絡まれていたから。
「あれって、どういうことなのかしらね……?」
私に熱烈ともいえる告白をして、ほぼ毎日情熱的な手紙を送ってきてくれていたのに、美少女顔負けなミーティアの素顔を見た途端、目をハートにして彼女に夢中になるだなんて。
もしかして騎士という人種は、惚れっぽいものだったりするのだろうか?
そう思って三人を眺めていると、それに気付いたレスターが若干申し訳なさそうに、私を見上げながらこう口にした。
「パルマークは……その、ちょっと惚れっぽいところがあって……。そもそもユリアを好きになったのも、教室から僕達を眺める姿を見て……って言ってたし。だからなんか……ごめん」
「や、やだ。なんでレスターが謝るの? パルマーク様がミーティアのことを好きになっても、私は別にかまわないわよ?」
フェルはもの凄くかまうと思うけど──。
「だけどユリア、パルマークと良い感じになってたんじゃ……」
レスターのその科白に、私は思わず咳き込んだ。
パルマーク様は優しかったし、大人っぽいところもあって、心が揺さぶられなかったと言えば、嘘になる。
けれどきっと、そういう好きではなかったと思う。彼に対する気持ちは、レスターに対するものとは明らかに違っていた。
抱きしめられた時はときめいたけど、その時限りで他の時は平気だったし。なにより、レスターと離れている時より会いたいという気持ちが湧いてこなかった。
だから違ったんだ。パルマーク様への私の気持ちは、恋ではなかった。
「友人として、良い感じだったと思う……」
「友人として、か。そうか……」
レスターが、ホッとしたように呟く。彼にとってパルマーク様は親友だから、私と彼との関係が気になっていたのかもしれない。
「ユリア……一ヶ月後、楽しみにしていてくれよな」
そう言って私の指に口づけると、レスターはパルマーク様を引き取りに、フェル達の方へと移動していった。
そんな彼の後ろ姿を見ながら、私は思う。
他国へ来てたった二週間で、大きく変わったレスター。これからの一ヶ月で、彼はどうなるんだろう。そして私は、どうしたいんだろう?
彼が変わっても、変わらなくても、婚約解消のまま貫く? それとも、彼が変われば再婚約を視野に入れる?
どうしたいかは、まだ分からない。これからゆっくり時間をかけて考えていくつもりだ。
一ヶ月経った時、私はどんな答えをだしているのだろうか……。




