25 変化した筋書き
やってしまった……。
ユリアに「どうして知ってるの?」と尋ねられた時、ミーティアは自分がやらかしてしまったことに、漸く気付いた。
現状学園内では、ユリアとレスターの婚約は秘匿されている。それこそ、オリエル公爵家のフェルディナントでさえ、知らないほどに。
それなのにミーティアは、ユリアを心配するあまり、ポロッとそのことを漏らしてしまったのだ。
直接的なことを言ったわけではない。けれど内容は確実にレスターのことを指していて、それに応じたユリアの口から『レスター』という名前が溢れてしまえば、もう誤魔化しようなどなかった。
まさか、転生する前に小説で読んだことがあったから──なんて言うわけにはいかないし、言ったところで絶対に信じてもらえないだろうから、そんな愚かなことを言うつもりはない。それにもし自分が逆の立場だったとしても、そんなことを言う相手は確実に『頭がおかしい人』と認識し、距離をとるだろう。
となるとここは、なんて言うのが正解なんだろう……?
悩みに悩んだ末、ミーティアは昨日のユリアと王太子とのやり取りを、利用することにした。
「実は……あたし昨日、ユリアと王太子殿下の話を盗み聞きしちゃって……」
「ええっ⁉︎」
「お、おい。それってまずいんじゃねぇの?」
慌てる二人を他所に、ミーティアはペロリと舌を出す。
「でも見つからなかったから……多分セーフじゃない?」
本当に見つからなかったかどうかについては自信がない。けれど声を掛けられなかったから、勝手に大丈夫だろうと思っている。
昨日、四阿から飛び出して行ったユリアを追いかけていたミーティアは、一時ユリアを見失いはしたものの、そこで焦ることなく冷静に小説内の展開を思い出し、校舎の陰へと彼女を探しに行った。するとそこで、展開通りにユリアと会話する王太子の姿を見つけたのだ。
ただ、話の内容はかなり小説とはかけ離れていて、首を傾げることになったけれど。
本来ならユリアはあそこで王太子に、ヒロインへ対する態度について責められるはずだった。なのに実際に聞いた会話は、王太子がユリアの味方になるというもので。しかも、レスターとの婚約破棄の手伝いまですると言っていたのだ。
会話の内容が変わってしまった原因として、ヒロインであるミーティアが、ユリアと仲良くしているせいも多分にあるに違いない。もちろん、ミーティアが自分の容姿を偽っていることも、無関係ではないと思う。
だけど、それでも、だからといって王太子が見ず知らずの令嬢に、あそこまで協力的になる意味が分からない。
元々知り合いであったとか、家の力が強いとか、そういった理由でもあれば納得もできるのだけれど、ユリアと王太子はほとんど面識がない上に、恩を売ったところでユリアの家は、見返りなど微々たるものしか期待できないような家なのだ。
なのに、どうして……?
いくら小説内の展開が変わったとはいえ、あそこまで変わるものだろうか? そもそも小説内の王太子は攻撃的な性格をしていて、あんな風に女性の頭を撫でるような人間ではなかったのに。
あれではまるで別人じゃないの……。
そう考えた瞬間、ミーティアは全身に悪寒が走るのを感じた。
もし、転生者が自分だけではなかったとしたら? ここにこうして自分がヒロインとして存在している以上、同じような境遇の人がいないとは限らない。その可能性を、今の今まで考えたこともなかった。
小説通りの行動をしている人は、おそらく転生者じゃないと思うけど……。
とはいえ、ヒロインである自分が行動を変えたことで、小説内の展開にも影響が出たらしく、色々なところで正規の展開とは違う出来事が起き始めている。
ユリアとレスターの婚約破棄についてもそうだ。
本来なら最後の最後でユリアはレスターに婚約破棄を突きつけられるのに、今回は何故かユリアの方からレスターに見切りをつけ、婚約破棄しようと動いている。
小説内では、どれだけレスターに冷遇され、蔑ろにされようとも、彼が命を落としたと聞くその瞬間まで、一途にレスターのことを想い続けていた筈なのに。
フェルと二人、楽し気に話すユリアを見ながら、ミーティアは考える。
たとえ小説内の筋書きが大幅に変わっていたとしても、それがユリアにとって良い未来に向かっているなら問題ない。
だけど──。
そこでミーティアは、ユリアの横にいるフェルディナントへ視線を移した。
この男は、信用ならない。
ついさっき、ユリアがミーティアに疑いを持った瞬間、明らかに彼の雰囲気がいつもとは違うものになった。
表情はいつも通りであったものの、纏う空気がこちらを威圧するような、喉笛に狙いを定められているような、そんな不穏な空気を感じて。
まさか、あいつも転生者……?
けれどそれを確かめる術はない。
そもそも小説内に登場していなかった時点で、彼の行動は小説の筋書きによるものなのか、自分の意思で勝手に動いているものなのか、見分けることなんてできないのだから。




