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12 相違点

「ところでさ、結局のところ婚約破棄ってどうなったんだ?」


 何事もなく平穏な学園生活を送っていた或る日、フェルが突然そんなことを聞いてきた。


「その話は……初めて貴方と話をしたあの時に、もう聞かないということで終わったのではなかったの?」


 あの時お互いに納得して決着したと思っていたけれど、実際は違ったのだろうか?


 首を傾げる私に、フェルは激しく首を横に振る。


「違うんだって! あん時はさ、俺達まだ親しくなかったから聞くのを遠慮したってだけで、俺としては親しくなったら直ぐにでも聞くつもりだったというか。……で、今はどうなってるんだ?」


 つまり、毎日しつこく私に話しかけてきていたのも、若干の圧をかけながら愛称で呼ぶように言ってきたのも、全ては婚約破棄について知りたかったから、そのために私と仲良くなろうとしていた、ということらしい。


 オリエル公爵家の令息にしては、いやにフレンドリーだと思ったら、そんな思惑を持っていたなんて。


 やっぱりと言うべきか、流石と言うべきなのか。


 それにしてもこの人、どれだけ他人の婚約破棄に興味があるんだろう? 正直そこまでして聞きたい理由が全く思い浮かばないのだけれど。


 こうなってくると、最初に言っていた面白そうだからと言った彼の言葉が、疑わしく思えてくる。


 素直にフェルを信じるのは危険だ──。


 そう思った私は、疑う気持ちを隠そうともせず、真っ直ぐに彼を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。しかしながら当然、彼の問いに素直に答えるつもりはない。


 さて、どうやったらフェルは本音を吐くかしら?


 脳内で様々なパターンを思い描きながら、私はほんの少しだけ、彼との──物理的な──距離を詰めたのだった……。




※※※




 ユリアがフェルディナントを尋問しようとしていた、まさにその時──学園内の庭園にある大きな木の陰から、ミーティアはそっと噴水の方を窺っていた。


 昼休憩の最中であるため、何人もの学生達が木の側を通り掛かるも、皆、彼女の野暮ったい姿に目を逸らし、足早に通り過ぎて行く。が、ミーティアはそれを全く気にする様子はない──というより、その事について内心コッソリとガッツポーズをしていたりする。


 やはり、この姿にしたのは間違いじゃなかった。


 あまり人目に付かないようにするため、ミーティアは学園に入学する前から髪の手入れをわざと怠り、目が悪いわけでもないのにレンズのぶ厚い眼鏡を用意した。


 それらは全て、美しすぎる自分の美貌を隠すため。


 何故そんなことをしたかと言うと、ミーティアはある日突然、異世界転生で生前大好きだった小説の世界の主人公に転生したことを知り、それを理解した瞬間こう思ったのだ。


『これで不幸な悪役令嬢、ユリアを救える……!』と。


 せっかく幸せが約束された主人公に転生できたというのに、悲しいことにミーティアは、心の底からユリア推しだった。


 見た目の印象がキツいだけで性格は気弱ともいえるユリアは、その見た目と高い家格のせいで妬みや嫉みを受け、最終的には冤罪をかけられ、断罪されてしまう。


 恋愛ストーリーとしては、幼い頃からの婚約者であるレスターをユリアは一途に想い続けるのだが、モテる彼は四六時中周囲に女性を侍らせ、最後は主人公を王太子と取り合って戦い、敗れて命を落とすといった、ひたすらユリアの存在を無視したストーリー展開。


 その上、ユリアが囚われた牢内で彼の絶命を知り、泣き叫ぶ描写はオマケ的にさらっと書かれていただけで、その後彼女がどうなったかなどについては、全く触れられていなかった。


 悪役が悪役っぽくあればあるほど、そういった物語が盛り上がることは分かっている。


 かくいうミーティア自身も、悪役が断罪される様を見て、スカッとしたことは何度もあった。

 

 けれどユリアは、ユリアだけは、不思議と主人公よりも感情移入してしまい、悪役ながら幸せになって欲しいと思えた人物であったのだ。


 そして、実際に会ってみて──。


 ユリアは自分が思った通りの人物だったと確信した。ただ、実物は挿絵に比べて綺麗すぎて、勇気を振り絞って話しかけるまでに、一ヶ月以上掛かってしまったのは誤算だったが。


「あとはあの……フェルディナントよね。あんな長ったらしい名前のやつ、登場人物にいなかった筈なんだけど……」


 現実として自分が生きている以上、ここが完全に小説の世界通りでないことは理解できるし、小説内に出て来なかった人物が多数いることだって、もちろん分かる。けれどユリアの隣の席で、異常なほど彼女と接点を持つような人物が、小説内にいなかったなどあり得るのだろうか?


 問題のレスターだって、ちっとも令嬢達を侍らせているようには見えないし……。


 それどころか、寧ろ令嬢達を避けているようにしか見えず、そのせいでミーティアは始め、小説の内容との相違に、首を傾げることになったのだ。


「もしかして、ユリアを悲しませないようにとアタシが姿を偽装したりしたから、内容が変わっちゃった……とか?」


 それはそれで、ユリアが断罪されない未来への道が開けたというのなら、文句はないが。これから先の展開が読めないとなると、立ち回りが難しくなる。


 取り敢えず、これから噴水前で起こる予定のイベント相手が姿を現しますように、とミーティアは祈るしかなかった。










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