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11 ボサボサ髪の令嬢

 私がレスターを追いかける──オリエル公爵令息にはストーカー呼ばわりされた──のを止めてから、一ヶ月が経った。


 顔を見なくなったところで恋心が簡単に消えるわけではないから、私は今も密やかにレスターのことを想い続けている。


 一度だけお父様に、さり気なくレスターとの婚約破棄についてお伺いを立ててみたけれど、「マリッジブルーには、まだ早いぞ」と、相手にしてもらえなかった。


 確かにそれはそうだろう。どこをどうとっても完璧なレスターは、婿として迎え入れるのに申し分ない人材だ。加えて親同士の仲が良好となれば、金銭的な旨みこそないものの、両家にとってはこれ以上ない良縁なのだから。


 ただ、そこに当人同士の意思がないという、大きな問題を抱えてはいるが。


 本当は、それこそが大切であると思うのに、私達の場合、意思を無視されるのはレスター一人だけなのだから、尚更質が悪い。


 いっそ私もレスターと同じく、政略結婚を親に押し付けられた被害者であったなら、彼と協力し合って婚約解消する手立てを考え、もっと積極的にお父様へと働きかけることができただろうに。


 けれど私の本心は、今も婚約破棄は嫌だと無駄な抵抗を続けているから、レスターのために婚約を破棄しなければ──と思いつつ、未だこれといった行動に移せないでいるのが現状だ。未練がましくも、もう一度彼と直接話しがしたい、やっぱり彼の真意を確かめてから婚約破棄をしたいだなんて、言い訳ばかりを繰り返して。


 レスターとの婚約を破棄すると決意したくせに、どうしても彼の手を離す勇気が出ない私は、以前あんなにも催したかったお茶会や食事会が開催されないことにすら、今は安堵してしまっている。


 直接レスターと会ってしまえば、私達の婚約について話をされるかもしれない。


 学園で気になる女性ができたからと、正面から告げられるかもしれない。


 そんな不安に怯えているから。


 レスターのために、婚約を破棄してあげたい。でも私は、レスターのことがまだ好きで──。


 どっち付かずなままの自分の気持ちに、どうしたら区切りをつけられるのかと、頭を抱え込む。すると、不意に頭上から声を掛けられた。


「ユリア、大丈夫? 頭が痛いの?」


 聞き覚えのある声に顔を上げれば、最近仲良くなったミーティアが、心配そうに私のことを見下ろしていて。


 彼女はすぐにしゃがんで私と目線の高さを合わせると、よしよしと優しく頭を撫でてくれた。


「痛いの痛いの、飛んでけ~」

「ふふ、なぁに? それ」


 ミーティアはたまに、よく分からないことを口にする。


 それは彼女の生まれが関係しているそうなのだが、何故かそれについては詳しく話したくないようで、いつも笑顔で誤魔化されてしまう。私も本人が話したがらないことを無理に聞き出すつもりはないし、気にしないようにしているけれど、若干一名──そういった気遣いのできない人が隣の席に座っていた。


「なにそれ、なにそれ! それやると何がどうなるんだ? 教えてくれ!」


 オリエル公爵令息──もとい『フェル』が、遠慮する様子もなく、グイグイ首を突っ込んでくる。


 彼の強引さにはもう慣れた──呼び方も強制された──けれど、その場の空気だけは……もう少し読んでほしいと思う。


 どう見たって今の私は落ち込んでいるように見えるだろうし、ミーティアだって、フェルからの質問に、いつも嫌そうな──と言うより、最近は呆れたような顔を向けているのに。


「今のは別に、何がどうなるわけでもないよ。ただユリアの痛みがどっかに飛んでいったら良いな~っていう程度の、軽いお呪いみたいなもの!」

「へぇ~。お呪い……成る程な」


 面倒くさそうにしながらも、毎回フェルからの質問に律儀に答えるミーティアは、凄いと思う。私だったら絶対適当な返事をして、軽くあしらってしまうだろうから。


 それとも、彼女の家は男爵家だから、家格を気にして無下にできないだけなんだろうか。


 ミーティアの見た目はとても特殊で、一言で言えば平民のような……ううん、平民だってもう少しお洒落に気を遣ってると思えるほどに野暮ったい。


 腰まで伸びた薄ピンク色の髪は艶がなく、それを二つに分けて三つ編みにしているのだけど、結んでいるのか、わざと絡ませているのか分からないほどにボサボサで、全く手入れをされている様子がないのだ。その上目が悪いのか、顔には見たことがない程に分厚いレンズの入った眼鏡を掛けているため、瞳の色すらも分からないといった有り様で。


 学園に通うのだってそれなりにお金がかかるし、彼女の生家であるファンティス男爵家がお金に困っているという話は聞いたことがないけれど、実際はどうなんだろう?


 気になって、以前遠回しに彼女の家の経済状況に探りを入れてみたら、「目立つのを避けるために好きでやっているの」と事もなげに言われてしまった。


 ある意味では逆に目立っているような気がしないでもないけれど、一度見た後は大抵の人が目を逸らすようになるから……彼女の言っていることは、あながち間違いではない……のかな?


 ただ、どうして目立ちたくないのかは──やっぱり教えてもらえなかったけれど。









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ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


いいね! やブックマークなど、本当に励みになってます!


これで主要人物は出揃いましたので、ここからどう動いていくか、楽しみにしていて下さい。



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