終末預言
夕方近く、イェースズと使徒たちは城門を出た。
「オリーブ山に登ろう」
イェースズがそう言いだしたので、使徒たちもそれに従った。丘を登りながら、ナタナエルが恐る恐るイェースズに尋ねた。
「さっき先生は神殿が破壊されるなんておっしゃっていましたけど、それはあの神殿がただの形だけのものとなって、つまり形骸化してしまうということのたとえで言われたんですよね」
ナタナエルはその発言の重大さに、恐れをなしているようだった。だから自分の希望的観測を、恐々とした態度で尋ねたのだろう。だがイェースズはそれにはうなっただけで、しばらく何かを考えているようなそぶりで黙って歩いていた。
イェースズの霊眼には、この神殿が物質的に本当に破壊されるであろう光景が写っていた。しかもそれは、そんな遠い未来のことではないようだった。
そればかりではなく、イェースズの霊眼には故郷のカペナウムやコラジン、ベツサイダまでもが無人の廃墟となってしまう未来の姿が映っている。
やがてイェースズは、ナタナエルの方を見た。その時は、もういつもの笑顔だった。
「そうだよ。もののたとえだ。本来は黄金神殿であったソロモンの神殿が破壊されて以来、天地創造の神様をお祭り申し上げるところが地上のどこにもなくなってしまった。あの神殿も、破壊される」
しかしこの時イェースズは、神殿というのが自分自身の肉体をも指すという意味合いをも暗に含めていたが、そこまで察することのできる人物は残念ながら十二人の中にはいなかった。
「でも、先生」
と、ピリポが口をはさんだ。
「祭司や律法学者がまじめに真剣にあの神殿で祈っているなら、心がこもっていて形式だけとは言えないんじゃないですか?」
「私が言っている形式とは、霊的な意味が伴っていないということだよ。心のレベルなら、心を込めて祈ればイワシの頭だって神殿になる。でも、そんなものに霊的意味があるかい?」
オリーブ山は小高い丘だから、すぐに山頂に着く。しかも独立した丘ではなく、エルサレムを取り囲む丘陵と連なっている。山頂に立って振り返ると、手前の神殿をはじめ、エルサレム市街が一望できる。
「あらためてここから全体を見ると、城壁といい神殿といい見事な石ですね。それを積み上げてあれだけの神殿を造ったとは、形式とはいえたいしたものだ」
と、アンドレが感嘆の声を上げた。
ガリラヤ出身者の多いこの集団では、故郷にいたならめったに見ることのできない巨大な人造物なのだ。ほかの使徒たちも振り向いて、眼下に展開される壮大なパノラマに息をのんだ。
折りしもその向こうに夕日が沈みかけていて、町全体が赤く燃えているように見えた。イェースズは一つ、ため息をついた。
「あの神殿も、全部破壊されてしまうんだ。一つの石も残らないくらいにね」
あまりイェースズが同じことを言うので、さすがにそれが比喩ではないのかということを使徒たちも感じはじめたようで、
「先生! 誰が神殿を破壊するんですか? ローマですか」
と、シモンが血相を変え、語気を荒くしてイェースズに詰め寄るように言った。イェースズは笑顔の中にも、幾分翳りを見せた顔を神殿から離さずに答えた。
「ローマかもしれない。しかし、実際には神様が破壊される。正統と称して神殿を奉じている聖職者たちが目覚めない限り、神殿に象徴されるような伽藍宗教は、神様はことごとくつぶしてしまおうというのがそのみ意なのだ。へたをしたら全人類のほとんどが滅んでしまうような終末の世へと、神様は持っていかれるかもしれない」
「え?」
と、何人かが声を上げた。イェースズは、使徒たちの方を見た。それは、いつにない厳しい表情だった。そんなイェースズの顔を、ペトロが恐々のぞきこんだ。
「先生、そんな終末の世が来るんですか」
イェースズはうなずいた。
「このままでは、避けられないだろう」
「いつですか?」
「じゃあ、そのことについて少し話すから、、みんな集まってきてくれ」
イェースズはそう言うと、木々の葉のちょっと下の広場に移動し、その周りを使徒たちは円座となって座った。
「聖書によると、これまで全人類が滅びたようなことはあったかい?」
「ノアの洪水ですね」
と、ナタナエルが答える。彼らの知識はその程度だ。しかしイェースズは、人類史上そのような天変地異が過去に幾度となく起こっていることを知っている。だからイェースズは、厳かに口を開いた。
「これからも、同じような天変地異がある」
「でも先生」
と、トマスが口をはさんだ。
「ノアの洪水の後、神様はノアに、『もう二度とこのようなことはしない』とおっしゃったのではなかったでしたっけ?」
「聖書は、正確に読みなさい。その時の神様のみ言葉は、『もう二度と洪水によって人々を滅ぼすようなことはしない』とおっしゃっているではないか」
「では、今度は洪水じゃないんですね? どんな前兆がありますか?」
ヤコブが身を乗り出した。イェースズが口を開くと、ほかの使徒たちもまた、身を乗り出して聞き入った。
「その時が来たら、多くのものが自分こそは救世主だと名乗りだすだろうね。世界全体を巻き込むような戦争も、また激しくなる。そして食料不足が深刻になって、前にも言ったように終末の世には多くの人が一斉に地上に転生してくるから、人口は今の数百倍になる。それに大地震や火山の噴火もあるが、もっと恐ろしい浄化の火が霊的次元で魂を巻き込んでいく。そして浄化の霊的な炎による火の洗礼によって、地上は焼き尽くされる。そのへんのことは『エゼキエルの書』にも書いてある。もっとも今の学者さんたちは相当なこじつけをして、わけの分からない解説をつけているけどね」
使徒たちは、目を見開いてイェースズの話を聞いていた。やがて日が没した。周りには彼らのほかは誰もいない。
「その時にはね、私の教えも福音として全世界に広まっているだろうね。ただ、私がいなくなったあとにこの教えがどのように広まっていくか、そこが気にかかる。それはもう、あなた方に託するよりほかにない」
イェースズの言葉に、熱が入ってきた。
「先生。先生はどこかへ行っておしまいになられるのですか?」
と、またトマスが聞いた。
「分からない。だけども私が去ったなら、もう誰も私のもとへは来られないんだよ」
「先生、どこに行っておしまいになられるんですか」
トマスの問いは、叫びに近いような声になっていた。
「今はまだそのことは、あなた方には言えない。でも万が一本当に私がいなくなったら、あなた方一人一人が私の代理人となって教えを広めていかないといけないんだよ。それも、全世界にだ。一人一人が、その自覚をしっかりと持ってくれよ。そうでないと、モーセの教えが今は形骸化して神様のお邪魔にすらなっているけど、それと同じになってしまうだろう? それはモーセが悪いんじゃなくて、それを受け継いだ人々が悪かった。私の教えは、そんなふうになってほしくないんだ」
「でも私たちがいくらがんばっても、終末は来るんでしょう?」
若いエレアザルの目は、しっかりと師を見据えていた。
「『ダニエルの書』のダニエルの預言にも、『荒らすべき、憎むべき者が聖所に立ち入ります』とある。私の教えの後継者がこのような『荒らすべき者』になってしまったら、神様は『定められた絶滅がその荒らすものの上に降りかかる』という状態に持っていかれるだろうね。自分は世を救うものだなどと称して、実は目的が金儲けや自分が権力を持つためだったとしたら、神様は一気に火の洗礼の大峠へと持っていかれる。もう、女のお腹の胎児にまで悪影響を及ぼすような、想像を絶する恐ろしい世の中になる。それが冬でないといいね。ただその時にだね、私の教えを正しく受け継いで、しっかりとした魂の自覚ができる人がいたとしたら、そのために神様は火の洗礼を少しでも短く、少しでも軽くして下さる」
また一つ、イェースズはため息をついた。宵闇がどんどんと、あたりを包み始めていた。
「その時には、私の名によって多くの教会が全世界に建てられているだろう」
それは単なる予測ではなく、はっきりとイェースズの霊眼に見えたことだった。
「そして私について書かれた書物を、教えの材料にしている。しかしモーセの律法を教えの材料にしている今の会堂と同じで、その教会が人々を惑わすなどということになっていないといいがな。私がいなくなった後、救世主を名乗る人が現れたとしても、軽々しくは信じちゃいけないよ。真の救世主は、その業で見分けられる。真の救世主が現れた時は、私もまた人々のもとに戻ってくるよ」
「え? いなくなるとか戻ってくるとか、どういうことなんですか?」
ヤコブが、怪訝な顔をイェースズに向けた。
「戻ってくるというのはだね、多くの聖雄聖者といっしょに、終末の世には私も聖霊となって再臨するってことだよ。火の洗礼期も終わりに近づくと、太陽や月、そして星にも異変が起こる。その頃の世界は、戦乱に明け暮れるような状況になっている。この破壊された後のエルサレムの神殿の丘に異教徒異民族の寺院が建ち、多くの軍隊がエルサレムを包囲するようなことがあったらいよいよだと思った方がいい。だけどもう、戦争なんかしている場合ではなくなってくる。魚の時代も終わって水瓶を抱えた人が天の曲がり角を横切る時に、救世主の光は東方の空に輝くんだ」
「先生、そんなことが起こるのはいつですか?」
と、ペトロが詰め寄った。イェースズは穏やかに言った。
「いつかは必ず来ることだけど、それがいつであるかは私にも分からないし、またいつなのかということには私は関心はないね。それが何年の何月何日だと言ったところで、何になる? それは、神様だけがご存じなんだ。ただ、いつそうなってもいいように、準備だけはしておくべきだね。ノアの時だって、誰もがあんな大洪水が起こるなんて夢にも思わずに、人々は安穏と暮らしていた。ソドムとゴモラのロトの時もそうだ。町が滅ぼされると聞かされても、ロトの妻は物質的な執着が断ち切れずに、結局は滅んだだろ。ロトの妻のことは、忘れないようにした方がいいね。だから、いつも目を覚ましていることだ」
「え? 寝ちゃいけないんですか?」
小ユダが頓狂な声を挙げた。イェースズは優しく笑った。
「夜になっても寝てはいけないということではない。霊的に、という話だ。霊的に目を覚ましていれば、盗人が夜中に来ても分かる。いいかい、真に真に言っておくけど、その『時』は盗人のようにやってくるよ。いちじくの枝が柔らかくなって葉が出れば夏も近いということが分かるように、霊的に覚醒していれば終末の世も天の時の到来も必ず察知できるはずだ」
イェースズはそこまで言ってから、自分の心の中で「いちじく」という言葉を反芻した。
――イ・チ・ジ・ク
東の霊の元つ国の言葉が、彼の頭に蘇った。「イチジク」――「位置」「地軸」、そんな言葉も次々に頭に浮かんできた。
「先生」
ヤコブの一声で、イェースズは我に戻った。
「どうしてそんな恐ろしいことが起こるんですか? 神様がそんなことを人類にするなんて。やはり人類は神様に裁かれてしまうんですか?」
イェースズはしばらく無言で考えた後、固唾を飲んで師の言葉を待つ使徒たちに言った。
「神様にも大いなるご計画があるんだ。これ以上のことは、今はまだあなた方には言えない。言うことは許されていない」
あたりはもうだいぶ暗くなってきていることもあり、イェースズの声の小ささもあって、使徒たちはその輪を小さくした。
「やがて天の時が来るから、目を覚まして警戒していなさいということだけは、伝えなければならないだろうね。それは、ヨハネ師もかねがね人々に説いていたことだからね。人々に悔い改めを説いていたヨハネ師も、ある程度は来るべき時についてご存じだったんだな」
「でも、人々にいきなり言っても、理解しますかねえ?」
と、小ヤコブが首をかしげた。
「人々には、このたとえ話で話してあげるといい」
イェースズはかがめていた身を起こし、ひそひそ声もやめて普通の口調に戻った。
「ある家の主人が下僕の一人を召使いの長とするなら、やはり忠実な下僕を選ぶだろうけど、ではどんな下僕が忠実な下僕だろうか」
「きちんと仕事をする下僕でしょう」
と、アンドレが言った。イェースズは微笑んでうなずいた。
「そうだね。しかも、いつ主人が不意に帰ってきたとしても、いつもきちんと仕事をしているところが主人の目に入れば幸いだ。ところが主人の帰りが遅いことをいいことに仲間と博打を打ったり、飲み食いをして大騒ぎしていたら、突然主人が帰ってきてそんな様子を見て、その召使いを罰するだろう。それから慌てて取り繕っても遅いよね。それと同じだよ。いつ、予期しない思いがけない時に主人が帰ってきても大丈夫な状態にしておくのが、よい下僕だろ」
もうかなり暗くなっており、本格的に夜に突入していた。小ヤコブが、ランプを取り出し、火をつけてイェースズのそばに置いた。ランプはパッと、使徒たちの顔を明るく照らした。
「おお、準備がいいなあ」
イェースズが感嘆の声を上げた。小ヤコブは、はにかんで笑った。
「そういえば、こういう話もあるよ」
イェースズはランプの炎を見つめながら、また話を続けた。
「婚礼の時に十人の娘が手にランプを持って、花婿を迎えに行ったんだ。そしたら花婿の到着が遅れてね、十人とも道端で居眠りをしてしまった。そして夜中に『さあ、花婿が来たぞ』ってことで立ち上がってみたら、みんなランプをつけっぱなしで寝てしまったものだから、十人ともランプの油が切れていたんだ。でもその中で半分の五人の娘はちゃんと予備の油を持っていたんだけど、あとの五人はそんな準備はしていなかった。そこで予備の油がある五人に分けてくれって頼んだんだけど、そんな余裕はないから町まで買いに行きなさいなんて言われて、仕方がないから油を買いに行ったんだ。そうこうしているうちに花婿が来て、油の予備を準備していた賢い五人の娘に迎えられて花婿は式場に入って、婚礼が始まった。で、さっきの油を買いに行った五人の娘があとからやっと式場に着いた時はすでに門は固く閉ざされていて、開けてくれって頼んだけど中は宴たけなわで、やっと出てきた主人は『おまえたちなんかどうでもいい』って言って開けてくれなかったんだ。これと同じように、世の終末はいつ来るか分からないけれど、いつ来てもいいように準備だけはしておくことが大切だ」
「はあ、なるほど」
と、ペトロがうなずいた。
「これなら、人々にも分かりやすい」
「でもね」
イェースズは笑いながら、ランプに照らされた十二人の顔を見た。
「今は夜の世、水の統治の世で、人々にははっきりと告げられないから、こういうたとえ話で話すしかないけど、あなた方も人々に告げるだけでなく、自分自身もちゃんと準備するようにね。とかく人々に告げる立場の人は、自分自身が疎かになりやすい。あなた方は今の世の人々よりもより多く神理を語られているし、極秘の教えまで明かされている。主人の不在時に同じように仕事をサボっていた下僕でも、主人の心を知らないで遊んでいたものと、主人の心を知っていながらそれでも遊んでいたものとは、どっちが重く罰せられるか考えてみたらいい。神理を聞いて実践しないものは、神理を聞かされていないものよりも救われるのは難しいよ。自分が実践していないことを上手に受け売りして人々に伝えても、波動が伝わらないから人々を改心させることはできない」
「でも、先生。それなら、知らなかった方がよかったってことになりませんか?」
トマスの問いに、イェースズはまた少し笑った。
「それは違う。例えば人を殺すのはいけないと知っていて殺すのと、いけないんだということを知らないで殺すのとでは、知っていて殺した方が普通は重く罰せられるよね。でも、よく考えて見てごらん。人を殺すのはいけないことだと知らないで平気で人を殺す方が、恐いと思うだろう?」
使徒たちは感心してうなずき合った。
「あなた方は人々よりより多く与えられているんだから、やはり幸福だよ。それだけ御神縁が深い証拠だ。でも、多く与えられたら多く要求されるということも、覚えておかないといけない。厳しいことを言うようだけどね、もし人々が救われなかったら、神理を告げられたのに伝えなかったあなた方の責任だよ」
ひえーっというようなしぐさで、小ユダが首をすくめた。それを見て何人かが笑い、その笑いの中にイェースズもいた。
「いつも言うように、人が神様に祈るように、神様にも人々に対する祈りがある。それを汲み取ることだね。あなた方はみんな神の子で、一人一人が神様にとってかけがえのない存在だ。だから、より多くの恵みを与えられている。でも、『ああ、与えられた。ありがたい』で終わっていいのかな?」
「やはり、感謝で報いていかないといけないでしょう」
と、エレアザルが言った。
「さすがだ、エレアザル。では、今度はあなた方のために一つのたとえ話をしよう。ある主人が三人の下僕に財産を預けて、旅に出た。一人は五タラント、一人は二タラント、そしてもう一人は一タラントだった。そして主人が旅から帰ってくると、三人の下僕はこのように言った。まず、五タラント預かったものは、それを元手にさらに五タラントもうけましたって。二タラント預かった人も、やはりその二タラントを元手にもう二タラントもうけたって。ところが一タラント預かったものは、いくら増やすための商売だからと言って、そこに主人から預かっているお金をつぎ込むなんて言語道断だと思ったとかで、その一タラントをなくさないように土に埋めていたということだった。つまり、自分がいちばん主人に忠実だと思っていたようだけど、ところがそれを聞いた主人は怒ってね、『なんて、怠け者だ。それならせめて銀行に預けておけば利子もついただろうに』と、その男の財産を全部取り上げてしまったんだよ」
使徒たちは皆、驚いたように怪訝な顔をした。イェースズはかまわず話し続けた。
「いいかい、与えられただけでそのままにしておいたら、それは与えられっぱなしということで神盗人になってしまう。このタラントは、才能のことだと考えてもいい。神様から頂いた才能を十分に活用してそれを倍にしてお返しするくらいでなくちゃ、与えられているものも取り上げられてしまうよ。何のために与えたのかってことでね。神様は絶対他力だ。そのお方を無視して、与えられた力を自分の力だと慢心して神様を蔑ろにするのもよくないけど、逆に与えられた自力を生かすこともなしに神様という他力にただただ頼っているだけなのも考えものだね。絶対なる他力に創られ、生かされ育まれているということを十分に認識した上で、その他力によって与えられた自力で精進するというのがコツなんじゃないかなと思う」
「先生、一つお聞きしてもいいですか?」
ヤコブが、小さく手を挙げた。
「いいよ。なんだい?」
「私たちはその終末の時までに、どうやって与えられた恵みを倍にしていけばいいんですか?」
「前に律法学者と話していた時にも出たけれど、律法の中でいちばん大事な掟は心をこめて神様を愛することと、自分と同じく神の子であるすべての隣人を愛すること、この二つだってことになったよね。これだよ。世の終わり、火の洗礼を乗り越えて救われる人と救われない人を左右に分けた時、神様は救われる人々にはこうおっしゃるだろう。『あなた方は私が飢えている時には食べさせてくれて、のどが渇いている時には水をくれた。旅をしている時には宿を貸してくれて、寒さに凍えている時には着る物をくれた』ってね。でも、いくらなんでも神様に食べ物を与えるなんて、そんなことをしたなんて覚えがある人はいないだろう? そこで神様は、こうおっしゃるだろうね。『あなた方が飢えている人、のどが渇く人、旅人、寒さに震える人にしてあげた善徳は、すべて私にしてくれたことと同じだよ。なぜなら、そういった人たちもみんな私の大事な子供なんだから』って」
使徒の何人かは、まだ小首をかしげていた。
「いいかい。まだよく分からない人がいるようだけど、すべての人類は、神の子なんだ。その神の子であるすべての人を愛さなかったとしたら、その創り主である神様をも愛していないということになるじゃないか。だから、すべての隣人を愛さなければいけない。本当は見ず知らずの人をも含めて、全世界全人類を愛さなければいけないんだけど、せめてもということで自分のいちばん身近な隣人を愛しなさいって、神様はそうおっしゃっている。つまり、愛するってことは、救わせて頂くってことだよ。これは、宇宙の大法則だ。決して道徳とか倫理ではない。利他愛の想念で生きる時、天国はあなた方の中にある。同じ親神様の子で、だから自分にとっては兄弟に当たるすべての人を愛さないのなら、神の子を愛さないということで、すなわち神様がお喜びにならない。人類の愛和一体ということは、このように霊的に重大な意味がある。火の洗礼を乗り越えられない人っていうのは、利他愛を隣人に与えず、自分さえよければいいという自己中心の自利愛に生きた人だ。そういった人々には、神様はこうおっしゃるだろう。『あなた方は私が飢えている時も食べさせてくれなかったし、着物も与えてくれなかった。自分の利得以外のことは何もしなかったではないか』ってね。みんな一人一人、どんなに神様に愛され、その大愛の中で生かされているかってことについて考えてごらん。そんなに与えられている自分だから、今度は与える側に回ろうと思うのは、それこそ究極の人のミチじゃないかな」
夜もかなり更けていた。これからベタニヤに帰るには、道は遠すぎる。だからといってここでの野宿は、風が冷たい。
「この世は終わる。でも、私が伝えた教えは決して滅びることはない。祈ろう」
と、イェースズは言った。朝まで祈り続けよと言うのだ。使徒たちはそれに従った。




