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一人芝居シリーズ

王の資格

作者: 公社
掲載日:2026/08/08

中世ヨーロッパの王侯貴族の価値観をベースにした話なので、違和感を覚える方もいるでしょうが、この話の世界はそういう場所だと思ってください。

 兄上、そんなに血相を変えてどうなさいましたか。


 王太子? ああ、本日閣議にて、私が王太子となることが正式に決議されたそうですね。


 兄を差し置いて弟が王太子になるのはおかしい? それはもう、兄上のなされたことの結果です。王が決めた婚約を勝手に破棄し、違う女性を妃とするなどど言われては、王太子にはなれませんよ。


 何故って、兄上には王たる資格が足りません。具体的に言えば、その血筋の正当性とでも言うべきでしょうか。


 王の「血筋」は、社会の秩序と権力を保つための絶対的な基準だと考えられております。それが正しいかどうか議論の余地はあるでしょうが、今この時点でそれを疎かにすれば、王として認めないと言い出す者が国内にも他国にも現れることだけは間違いありません。


 国王の長男で、なおかつ正妃の子ならば継承する資格は十分にあるだろうと? ありません。あるけど弱いんですよ。兄上の場合は、母君の妃殿下が大変優秀なお方なれど、残念ながら五代遡っても王家の血は受け継いでおりません。


 分かってます。然程特筆した血筋ではない伯爵家の令嬢が嫁いだのは、当時王弟という立場にあった我らの父上ですからな。


 先代の国王ご夫妻と王子殿下が流行り病で相次いで亡くなったため、父上が急遽即位すると共に妃殿下というお立場になられましたが、国内の一貴族なら十分な血筋であるそれは、王妃としては足りないと見なされてしまいました。

 

 父上は問題ありません。ですがその子はどうでしょう。母となる者が王家の血筋を受け継いでおらぬとなれば、必然的にその正当性は薄くなりますし、そのような出自の者は王として推戴できないと騒ぐ貴族も出てきます。


 故にそうならぬよう、各国の王は高貴な血筋を持つ他国の王族やそれに準じる立場の貴族から自身の妃を選んで自身の地位を固めると共に、次代にもその血統を継がせるのです。


 そこで父上も隣国の姫を側妃に迎えました。本来なら正妃として迎える御方ですが、当時他国との紛争を抱えて同盟強化を模索していた隣国が、我が国の事情も鑑みて側妃で構わないと了承され、それで嫁いでこられたのが私の母上というわけです。


 そうですね。王族としての血筋を父上のみから引く兄上と、側妃の子ながらも両親から王族の血を引く私なら、血筋の正当性で言えば私のほうが上です。


 されど勘違いなされては困ります。父上は最初から私を後継者と考えていたわけではありません。むしろ兄上をとお考えだったかと。


 先程申したではありませんか。「各国の王は高貴な血筋を持つ他国の王族やそれに準じる立場の貴族から自身の妃を選んで自身の地位を固める」と。自身の血筋だけでは弱いのならば、妃となる方の血筋で強化すればよいのです。


 兄上にとってのそれが、かの公爵家のご令嬢だったのです。その方を婚約者に据えられた意味がお分かりではなかったのですか?


 我が国の王族の血も引き、なおかつ何代か遡れば他国の王族貴族も血縁に持つ、我が国の中では王家に限りなく近い血筋。そしてなおかつ国内で最も力を持つ貴族ですから、血筋の正当性も国内の貴族たちをまとめ上げるための後ろ盾としても十分。兄上が後継の第一候補と考えられていたからこその人選ではないのでしょうか。


 それを自ら捨ててしまったのですから、王になりたくないと言っているも同然ではありませんか。


 ああ、行ってしまわれた。私に言ってもどうしようもないから、次は父上や大臣たちに訴える気ですかね。


 たしかに私は血筋による正当性という観点で話をしました。ですがそれ以前に、そのような基本的なことすら理解していなかった時点で、兄上を王太子にする選択肢は消えたと思いますよ。


 それでも己の意思により降りたことにしておけば、これからも王族として暮らす未来はあったでしょうが、抗議して自らの浅慮をさらけ出してしまえば、それすら叶わなくなります。


 ……と言っても、本人がもう行ってしまった以上どうしようもありませんが。


 それに、僕も王太子として学ぶことが増えますからね。これまでも万が一を考えて教育は受けましたが、まさか本当にその役目が回ってくるとは思いませんでしたから、これから大変になるでしょう。


 なので、兄上のお相手はもう出来ません。平民に落とされるか、一代限りの爵位を与えられるかは分かりませんが、後はご自身でなんとかなさって下さいね。

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― 新着の感想 ―
兄上は馬鹿だなぁ、本当に馬鹿だなぁ
やっちまったのはしょうがないとして、もうちょっと聞く耳を持つか、「どうすればいい?」と相談する頭があればねぇ…なむなむ 娘に瑕疵をつけられた公爵家をどう宥めるかが喫緊の仕事になりそうですね。
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