数字
私の優秀さは、数字が証明してくれている…。
茶渡地穂。由緒正しき茶渡家の令嬢。彼女は、自分という存在に絶対的な自信を持っていた。なぜなら、数字がそれを語ってくれているからだ。
家の資産も、テストの点数も、そして自らのプロポーションも…。どれをとっても、他人に引けを取るようなものなどない。すべて可視化され、はっきりとしている。そう、思っていたのに…。
「十璃様が…私を選ばなかった…?」
茶渡と同じく名門の家柄である十璃家の息子が結婚相手を探しているとのことで、何人かの娘が花嫁候補になるべく見合いを申し込んだ。地穂もそのうちの一人である。相手には自分の数字を伝えたうえ、待ち合わせの時間や場所も計算して見合いに臨んだ。その後も何回か会う機会をもらえた。他の見合い相手もリサーチしたが、総合的数値で自分を上回る者などいなかった。それなのに…。
悔しさのあまり、地穂は家を飛び出した。どこで計算ミスした?自分のリサーチ不足…?考えても最適解が浮かばず、ひたすらに走り続けた。
だが、途中であるものが目に入り、足を止めた。見合い相手であった十璃だ。歳が近そうな女と一緒にいる。…あれが、彼が選んだ女…?ぱっとしない外見で、富豪らの集まるパーティーなどでも見たことがない。この女は論外、と思っていたのが、まさか…。
「…茶渡さん?」
十璃がこちらに気付き、声をかける。突然のことに、どう対処すればいいのか分からない。口から漏れ出たのは、やりきれない感情だった。
「…なぜです…」
「え?」
「なぜ、その女を選んだのです?!私自身にしろ、私の家にしろ…何もかも、私の方が数値的に秀でているはずです!それなのになぜ…私を選んでくださらなかったのですか?!」
興奮状態で訴えかける地穂に、驚きの表情を見せる十璃。彼女の言葉が途切れると、どこか哀しげな表情になって答えた。
「茶渡さん…。人間の価値は、数字で測れるようなものじゃないよ…」
「え…?」
思いもよらぬ言葉に、地穂は目を丸くする。
「確かに、彼女の家より、茶渡家の方が資産も多いし、歴史も古いかもしれない…。彼女より、貴女の方が優秀な成績を残しているかもしれない。だけど、僕はそんなものにとらわれない…彼女自身の人としての魅力に惹かれたんだ。だから、貴女を選ぶことはできない。ごめんね」
そう言って、彼は正式に婚約者となった娘と共に去って行った。
地穂は、その場にペタンと座り込んだ。…ずっと、数字を唯一絶対のものと信じてきた。ちゃんと数字が出ている、だから大丈夫…。そんな考えは、一瞬にして崩された。
人間の価値は、数字では測れない…?ではどうすればいいの?数字にとらわれない、私自身の魅力って…?
「そんなものない…分からないわ……」
――――――
「あら雨!ずっとお空が暗いと思っていたけれど、やっぱり地球さん悲しんでいたのね…。こんなに泣いて、可哀相に…」
傘も差さずに、地穂は空を見上げて語り始めた。
「いやだから…そんなんじゃないし…。ってか今日降水確率70%ってテレビで言ってたじゃん…」
戦士仲間の紫月音緒が、その様子を呆れ顔で見ている。
「それは、テレビの向こうの人が考えたお話でしょう?実際の地球さんの悲しみを私達が予測することなんてできないわ!音緒ちゃんは、他の人から、あなたはもうすぐ泣きます!とか言われたらどう思う?それを信じるなんて…」
「あーーわかった。わかったから落ち着いて!あと折り畳み貸すから差して!」
「あら、ありがとう、音緒ちゃん」
早口で話し続ける地穂に、いつものことながらたじろぐ音緒。落ち着いたところで一息つき、声をかける。
「しっかし本当に地穂は数字とかそういうの信じないよね…それでよくやっていけるわ…いや、やっていけてるのかわかんないけど…」
「……だって、」
地穂はニコリと笑って答えた。
「そんなもの、意味がないでしょう?」