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「真人!」
オーディションが終わり、久しぶりに事務所に来た俺に、ウタ先生が声をかけてくれた。
3ヶ月以上ぶりに見るその姿は変わりなく…いや、以前にも増して、美しく見えた。
「久しぶりですね。オーディションおつかれさまでした」
「お久しぶりです。いやー、本当あっという間でした」
そんな会話をしたのち、ウタ先生は背伸びをしていきなり俺の頭をわしゃわしゃと撫でまわした。
「デビュー決定、おめでとう!」
いたずらっぽく笑ったウタ先生は、実年齢よりずいぶん子供っぽくみえて、俺の心を高鳴らせた。
そう、俺はオーディションに合格し、年内に6人のメンズグループとしてデビューすることになった。
共に笑って、涙して、諦めずに駆け抜けてきたかけがえのないメンバーと共に。
「ありがとうございます。ウタ先生のおかげです」
「私はなにもやってないですよ。真人の努力の結果です」
ああ、やっぱりだ。
翔太のときと同じように、ウタ先生は俺のデビューを喜んでくれた。
嬉しさと少しの申し訳なさで、涙が出そうになった。
「おー、真人~!久しぶり!合格おめでと~!!!」
「うおっ」
翔太のことを思い出してた矢先に本人が現れて、しかもいきなり飛びついてきたのでかなり驚いた。
先にデビューしていた翔太は今やアリーナツアーを回るくらい人気なグループのメンバーだ。
翔太は俺のデビューが決まってから、自分のことのように喜んで、すぐに電話をくれた。
その時、実は翔太のデビューが決まった時、心から喜べなかったんだ、と謝罪すると、
「そんなこと気付かなかったから気にするな。今は自分のことで喜んどけよ!」とあっけらかんと言ってくれた。
「あ、ウタ先生おはよーございまっす!」
「おはよう。翔太はいつも元気ですねえ」
俺たちのやりとりを優しい目線で見ていたウタ先生が、今度はぐっと大人びて見えた。
そんなウタ先生を見て、翔太は思い出したように言った。
「そいえば、ウタ先生もおめでとうございます!」
「ん?あ、ウタ先生誕生日なんですか?おめでとうございます」
ウタ先生のことを好きになっておきながら、そういえば誕生日すら知らないことに気付いた。
くそ、ちゃんとリサーチしておけばよかった。
「あはは、ありがとうございます。でも誕生日じゃないですよ」
ウタ先生は伏し目がちに、照れたような顔をして言った。
「今度、結婚するんです」