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ウタ先生と出会って半年が過ぎた。
もう10月も終わる頃だというのに、まだまだ厳しい暑さが続いていた。
練習生仲間で、翔太という奴がいた。
同じ時期に入所し、同い年ということですぐに仲良くなった。
共に笑い、共に汗を流し、切磋琢磨してきた親友とも呼べる奴だった。
そんな翔太が、デビューすることが決まった。
翔太は韓国への留学経験もあり、入所当時から歌もダンスも上手かった。
未経験で、しかも学業の傍らで練習をしている程度の俺と比べたら先にデビューするのは当たり前のことだった。
お前には一番最初に報告したくてさ、と俺に電話をくれた翔太に、俺は必死で明るい声を絞り出した。
「おー、それはおめでとう。自分のことのように嬉しいよ」
「ありがとなー!真人もデビューして、いつか一緒のステージに立とうな」
翔太はいい奴だ。
揶揄うわけでもなく、本気で俺のデビューを待ち望んでくれている。
でも、そんな太陽のような性格が、今の俺には眩しすぎた。
その日の練習は必死だった。いや、いつも必死でやっている。
でも全然上達した気がしない。
こんなんでデビューできるんだろうか。
親に黙って大学を辞めてしまおうか。
金を貯めて韓国へ留学したほうがいいだろうか。
くそ、くそ、くそっ…
答えが出ない疑問が頭からつま先まで駆け巡る。
学業との両立だなんて言うけど、結局全部中途半端になってるんじゃないのか。
デビューができないことを、学校や親や環境のせいにしてしまいそうで自分が更に嫌になった。
ネガティブな感情が渦巻く中、なんとか今日もレッスンへ足を運んだ。
更衣室で着替えてスタジオに向かうと、その途中の廊下にウタ先生と翔太がいた。
「翔太!デビュー決定おめでとう~!よく頑張りましたね!」
「ウタせんせー!あざっす!ウタせんせーのおかげです!」
人懐っこい性格の翔太は、色んなトレーナーにもかなり気に入られていた。
ウタ先生は誰にでも分け隔てなく接するタイプだと思っていたが、翔太とハイタッチしている姿を見て、やっぱり翔太は特別扱いか、と捻くれた思考が沸いて出た。
いや、違う。
ウタ先生はきっと俺のデビューが決まっても同じように喜んで、祝ってくれるだろう。
頭ではそう分かっていても、どうしても楽しそうにしている二人に近付くことはできなくて、気付かれないように来た道を戻り、レッスン開始時間ギリギリまで隠れるように更衣室にいるしかできなかった。