呪いの強さは大きさに比例しない.2
本日二話目です
「では、あちらの端から順に見て行きます」
弾む声でスキップしながら倉庫の右奥へと向かうと、嬉々として遺産を手にしていく。
「これはいいですね。あっ、こちらも! これなんてなかなかどうして」
わぁ、とかきゃぁ、とか嬌声を上げながらティナがうっとりと瞳を潤ませる。なんだろう、蕩けるような顔が妙に色っぽい。そうしているうちに籠に包帯を沢山入れたボブが戻ってきた。
「……ボブ、俺がティナに遺産を手渡すから、お前は印を付けてくれ」
「ふーん。俺にはあの顔、見せたくないってか。お前、一晩中あの顔を眺めていたのか、面構えがいいってだけで人生ずるいだろ」
眺めていたのは寝顔。天使のようにすやすや、寝息が髭をくすぐるのをじれじれしながら動けずにいた。なんて、ことは言えないので、リアムは無言を返事とした。
ボブはチェッと舌打ちひとつ。そのあとは黙々と印を付けていく。
お昼を随分過ぎたところで、やっとレオンが差し入れを持ってきてくれた。朝が早かった三人の腹が、それを受け取りながらぐうっとなる。遅かったじゃないかという抗議の声である。
レオンの後には複数の騎士。選別が終わり、呪われていないと分かった遺産は城の地下倉庫に保管され、倉庫は解呪の作業場になるらしい。
三人は、運び出し作業の邪魔にならぬよう倉庫の外に出る。
近くにある大木の下に木箱をひっくり返して机にし、焼きたてのパンと、ベーコンとじゃがいもの串刺し、珈琲を並べる。
少し伸びた草の上に座ろうとしたら、リアムがティナのためにハンカチを敷いてくれた。
「汚れてしまいます。自分のがありますから」
「それだとティナのハンカチが汚れるだろう、いいから座れ」
いいのかな、と思いつつ腰を下ろすティナ。それをニヤニヤ見ながら、場所を移動しようとするボブをリアムが引き止める。
「いやいや、どう考えてもお邪魔虫だろう」
「虫がいるのですか? 魔法でピッてしますよ?」
「ティナちゃん、発言が怖いんだけど」
「ビッ、の方がよいでしょうか?」
ティナが指先から小さな稲妻を出すと、二人はひっっと身を仰反らせた。
「そんなこともできるんだな」
「大した威力はありませんが。得意なのはやはり解呪です」
山で育ったので、害虫、害獣の類はしょっちゅう出てきた。それらを退治したり、捕まえたりぐらいならできる。結局ボブも腰をおろし三人は食事を始めた。
「そういえば、今、遺産に関わっている第三騎士団の方々は、普段何をしているのですか?」
「俺もボブも町の警邏を主に担当している。あとは来賓が来るときなんかは護衛の応援に駆り出されるし、高価な物の輸送の護衛なんかもしている。ま、下っ端のなんでも屋だ」
「だから遺産の担当なんかになったんだろうな」
ははは、と乾いた笑いをしつつ、リアムは串刺しを頬張る。
「それにしても、思ったより遺産が多いな」
「それに、呪われた品の割合も高いです」
「コーランド伯爵家が代々魔力に準ずる力があるなど初耳だ。ボブ、お前の家は俺と違ってずっと貴族なんだから何か知っているんじゃないか?」
ボブは、ベーコンを咥え串から抜くとモグモグと咀嚼しながら宙を見る。
「そう言えば曽祖母が、コーランド伯爵家の娘の占いはよく当たるって生前言っていたような」
「それはあり得そうですね。それに今まで森の調査が行われなかったのは、そこから嫌な気配を感じていたからかも知れません」
話しながら、ティナはポテトに塩とブラックペッパーを沢山振る。
ティナの魔力量で緻密な作業を続けるのはかなりの集中力が必要。魔力切れは起こさないけれど、精神力には限界がある。要するにちょっと眠い。
(睡眠不足にこれだけ大量の選別はきついわね)
込み上げる欠伸を噛み殺しつつ、ポテトを頬張る。お腹が膨れたせいか、さらに睡魔が勢いを増した。しまった、悪循環だ。
そんなティナの様子を見たリアムが気遣わしげに声をかける。
「大分疲れているようだが、残りは明日にするか? 無理はしなくていい」
「ありがとうございます。そうですね、残りの選別は明日以降でもいいですか?」
「もちろんだ。顔色が悪い、温かい飲み物を用意しよう」
立ちあがろうとするリアムをティナが制する。
半分残っていた珈琲に視線を落とすと、冷めたはずのカップから湯気が立ち上った。
「凄いな」
「お二人とも温めますか? これぐらい疲れていても平気です」
ティナは二人のカップにサッと視線を走らせ、同じように温め直した。
「ありがとう。では、これを飲んだら送っていくよ」
「私もそうしたいのですが、そういうわけにもいかないのです」
ティナがカップを両手で包み、はぁ、とため息を一つつく。
「続きの作業は明日するんじゃないのか?」
「選別はそうします。でも、今日中に解呪しなきゃいけない遺産が一つあります。あれは物騒ですから死人が出るまえにやっちゃいましょう」
死人と聞いて二人の顔が分かりやすく青ざめた。ティナがニコニコと選別していくものだから、どれも大した呪いではないと高を括っていたのだ。
「俺、その呪いの品触っているよな」
「俺は印をつけたはず」
二人は自分の両手を広げてまじまじと見るが、もちろんいつもと変わらない。
「ちなみに品は何だ」
「剣です。この国ではあまり見ない緩く弧を描いた、錆びたものですが覚えていますか?」
「ああ、柳葉刀か。確かにあれは不気味だった。見るだけでもこうぞわぞわと……」
「の隣にあった兎の置物です」
「……」
ぶるっと震えて、両手で自分の腕をさすっていたリアムは、そっと手を離し膝に乗せた。
ちょっと思い出してみるも、そんなものあったかな、と覚えがない。ボブを見れば同じように首を傾げている。
「今回は解呪するんだよな。トニーから聞いたが、天使像は呪いが可愛いから持って帰るんだろう」
「天使像とあれは別物です。あんな恐ろしいもの私だってお断りですよ。何か勘違いされているようですが、私だって人を害する呪いは容赦しません」
「黒猫は困っていたぞ」
「うっ、それは。天使像は言えば分かる子ですから」
「その違いは何なんだ」
呆れ顔のリアムに対し、ティナは全然違うと熱弁を振るうも、その熱意が伝わることはもちろんない。
ティナがコーヒーを飲み終わったのを確認して、リアムが「そろそろ行くか」と声を掛けた。
「ちょっと待て、俺はまだ飲んでいる」
「男で猫舌は可愛くないぞ」
「熱すぎましたか。すみません、冷やします」
ティナの申し出に、ボブは大丈夫だと頭上で手を振り、眉根を寄せながら残りを喉に流し込んだ。
久しぶりの投稿はなんだか緊張します。楽しんでくださっていたら良いなぁ、という気持ちと不安が入り混じりドキドキです。
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