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呪いの強さは大きさに比例しない.1


「ふえっ〜怖かったです」


 鼻をずずっと啜りながら、ティナはお城の敷地内にある騎士団の倉庫へと向かっている。思い出したのかちょっと涙目だ。


「俺も怖かった」

「指輪の呪いが生優しく見えた……リアム、おまえも気をつけた方がいいぞ。これを機に女遊びからは足を洗った方が良い」


 ボブが意味ありげな顔でティナを見る。

 はて、と首を傾げれば、恐る恐るといった風に聞いてきた。


「解呪できる者は呪いをかけることもできると聞いたが本当なのか」

「はいできますよ。むしろかける方が簡単です。今まで複雑な呪いを沢山解いてきましたから、知識は豊富ですし、やるなら未だかつてないほど解呪が困難なものをかけたいですね」


 目指すは師匠でも解けない呪い、と思わず拳を握ればヒッと言う悲鳴が二人分聞こえた。


「それにしても、また人が多くなりました。目玉が怖いのでリアム様、手を繋いでください」

「あ、あぁ。って、ここでか?」


 三人が歩いているのは城の中庭。

 ベンチで昼食を摂る人達がティナをチラチラ見てくる。普段着姿が珍しいだけではない、リアムが女性を連れて歩いているからだ。


「リアム、お前の顔が無駄によいせいだ」

「だとすれば、この状況で手を繋げば余計に目立つだろう」

「いいから、ほら。ティナちゃんが緊張で立ち止まったじゃないか」


 無遠慮に見てくる目玉に耐えきれず、ティナは唇を尖らせ下を向いている。

 すると、すっと手が伸びてきて、握りしめていた手を引っ張ってくれた。そのまま再び歩き出す。


「リアム様、速いです」

「それぐらいは妥協してくれ」


 半ば引っ張られつつ、斜め後から見上げたリアムの耳が赤い。どうしたのかなと、思わないではないけれど、ひとまず手のひらから感じる呪いに安堵し、ティナ達は早歩きで中庭を突っ切った。




 持ち込まれた遺産は、今は使われていない旧騎士倉庫にあった。

 大砲や甲冑、その他諸々を保管していたそこは平屋作りだけれど高さがあり、作りもしっかりしている上に鍵もかかるので仕舞うのにちょうどよかったらしい。


 騎士団が遺産整理を任されているのは、甲冑など重い物が多く力のある騎士が適任と判断されたから。

 

 倉庫に近づくにつれ、顔見知りの騎士が増える。当然向こうも気づき、話しかけようとしては、リアムが手を繋いでいることに驚き立ち止まる。


「……ティナ、ここで手を繋ぐのは逆に目立つと思うのだが」

「今手を離されたら私は逃げます」

「……分かった」


 気まずそうに頬を赤らめ眉間を指で押さえるリアム。

 ヒューとか、おぉ、とか声が飛び交うのがさらにティナの緊張を煽り、握る手に力が入るという悪循環が起きる。

 沢山の、それも屈強な男性の目玉を恐れるティナにとって、今や天使の呪いは暗闇に射す一筋の光明だ。


 しかし、流石に倉庫に入る時には手を離した。リアムにしてみればこれから上司の第三騎士隊長に会うのだ、女性と手を繋いだまま任務報告なんてできやしない。


 倉庫の中にも、もちろん騎士がいた。密度は外以上。

 それが瞬間キャベツ畑に変わる。言うまでもなくティナの仕業だ。

 たまらずリアムが笑い出した。


「次はキャベツか。おい、頭の方が白くなっているのがいるがあれはどうしてだ」

「あの体格は……ほら、年配騎士のあいつだ」

「ああ、では毛がないとああなるのか」


 ははは、と笑いながら、あっちは虫食いだの、あれは形がいびつだの、言いたい放題である。

 しかし、背後から掛けられた声に、ふたりはヒッと笑みを吞み込んだ。


「おい、お前達何を笑っている」

「えっ、そ、の声はレオン隊長! 失礼いたしました。呪いを解く魔法使いを連れて参りました」


 二人はピシッと敬礼をした。

 ひと際大きく立派な体格をしたキャベツがそこにいる。


「そうか、そちらが件の魔女殿か。ここにいるということは王太子殿下の呪いは解けたのだな」

「はい。しかも、二度と浮気はせず政務に取り組むと宣言されておりました」

「うん? ということはあの女癖の悪さとサボり癖も呪いだったのか?」


 いったいどういうことだと眉間に皺を寄せるキャベツが渋い。リアムがかいつまんで説明すると、レオンは目を大きくしてティナを見た。


「これで殿下が心を入れ替え名君になれば、ティナは国をも救ったことになるな」

「まさしく救世主ですね」


 リアムが笑いを堪えながら頷く。

 レオンは、ティナに向かって大きな手を出してきた。戸惑いつつそれを握り返す。


「かなり数があるので時間がかかると理解している。無理のない範囲で進めてくれ」

「はい、ありがとうございます。それでは細長い布を用意していただけますか? まずは呪われている品とそうでないものを分けます。触れば分かりますが、これだけあると一日では難しいと思います」

「分かった。昼めしは誰かに届けさせよう。リアムはティナの補助を頼む。それからボブは医務室から包帯を持ってこい。それを切ったものを布の代わりに使おう」

「承知しました」


 ボブは敬礼すると倉庫から出て行く。レオンもやりかけの仕事があるとかで、遺産の山の向こうへと消えていった。

 

 ティナは改めて倉庫内を見る。遺産は貴金属や甲冑、骨董品と種類も豊富で多岐にわたっている。


「侯爵家の別荘があった森は、コーランド伯爵領のどのあたりですか?」

「領地の北だ。巷では呪われた森と言われているらしい」

「その森なら聞いたことがありますが、そんな場所に城なんてありましたでしょうか」

「密猟者が森で迷い偶然見つけたそうだ。それで別荘の中にあった遺産を内密に隣国に持ち出そうとしたのを国境警備の衛兵が見つけ、絞り上げたら白状したらしい。で、国王が伯爵に正式に発掘を命じた」


 国王命令だったこともあり、遺産の半数近くは国の博物館に保管されることとなったらしい。

 だからこんなに量が多いのかと納得する。


「それにしても、コーランド伯爵はよく文句を言わなかったな」

「文句を言わない代わりにあえて呪いの品ばかりを送りつけてきたのかも知れませんよ」


 リアムの問いにティナが呆れながら答える。

 この国で魔法を使える人間は限られているけれど、それに近い能力を持つ人は少なからずいる。とは言っても勘が鋭い程度で詠唱や魔法陣を描くことはできない。


「コーランド伯爵家には昔から魔力持ちが生まれることが多いですから。誰か呪いを感じられる人がいるのかも知れませんね。その人が呪われた品を王都に送っている可能性はあると思います」

「やけに詳しいんだな」

「……魔法使いは群れませんが、情報共有はしていてそこそこ仲がいいんですよ」


 魔法で手紙のやり取りをするのは日常茶飯事だし、たまには会ってお茶ぐらい飲む。

 一口に魔法使いといっても得意分野はそれぞれだから、手に負えない依頼は助け合って解決することもあるのだ。


 だけれど、ティナはそこまで説明しない。この話題はもう終わりにしたいところだ。


夕方忙しくなりそうなので、この時間に投稿します。

もう一話、夜にできればと思っています。

お読み頂きありがとうございます。興味を持って下さった方、是非ブックマークお願いします!

☆、いいねが増える度に励まされています。ありがとうございます。

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