修理
「よし!!来た時より美しく…とは流石に行かなかったけど」
「凄い手際ですね・・・騎士の人って騎士団に入る前にも何かされてたんですか?」
「騎士団に入る前は剣士の冒険者として各地を回ってたんだ。けど最初は中々クエストだけでは稼げないから色んな仕事を掛け持ちしてね。まぁ器用貧乏って感じだけど」
「二人共、お疲れさまー」
「クラリスさん」
丁度クラリスさんが差し入れを持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
「アネットの分は無いよー」
「がーん、そ、そんな・・・わ、私も頑張ったのにぃ」
「冗談に決まってるでしょ、ほらっ」
「わーい、ありがとうクラリス!」
(そういえばこの二人はお互い呼び捨てなんだな‥‥)
まぁ同居相手全員が姉妹という訳では無いんだろうけど・・・・。
「でもクラリスさん達無理されてませんか?」
「ほへ?」
「いきなりどうしたんですか騎士の人?」
「あ、いや・・・その、結構色々貰ってしまったりしてるから…お金的な」
「あー大丈夫大丈夫、あたし達それなりに稼いでるから」
「そ、そうなんですね・・・・」
じゃあさっきのエールさんの反応は一体?
「そういえばリンシアちゃんは?」
「リンシアなら町の方に買物に行ったよ。かなりの大喰らいが居ることもあって毎回食い物の消費がヤバいからねぇ…」
「アハハ、ゴメンなさい・・・」
(やっぱり結構アネットさんが大喰らいなんだな)
「ヴェスパーさんいますか―!!ねぇ誰かいるのー!!大変なのー!!!」
「ニエルちゃんの声?珍しいですね」
「もしかして同居人の人?」
「違うよ、少し離れた集落に住んでる女の子だけど・・・どうしたんだろ」
アネットさんのいう通りニエルちゃんはリンシアちゃんと同い年位の女の子だ。
「どうしたんですかニエルちゃん?」
「大変なの!!ウェリスパード王国の残党が召還したグラーフデーモンがこの辺りをうろついてるって・・・・」
「グラーフデーモンって!!上級冒険者クラスが相手にするような強敵じゃない!!」
(ウェリスパード王国・・・まさかまだ過去に固執してるのか?)
ウェリスパード王国とはかつて魔王に乗っ取られてレギュリス王国と戦った国だ。
その戦争は僕が生まれた頃から既にあって、最終的に今から3年前・・・ウェリスパード王国の王族の滅亡と魔王率いる魔王軍の壊滅を以て終結した。
しかし、その残党は今尚レギュリス王国や同盟国周辺で地下活動を続けているという。
僕も騎士団を追い出されるまでは時たま残党と戦っていたのだけど‥‥
「ボクたち買い物の帰りにそれを聞いて・・・・丁度リンシアの家の近くまで来たから伝えようと思ったんだ」
「君は?」
「ボクはニエルの幼なじみのノア・ウェーニス・・・もしかしてダイタロス宮廷騎士団のアロウ・ルクセルさんですか?」
どうやらニエルちゃんに同行してる少年・・・ノア君は僕を知ってくれてるらしい。
「うん、そうだよ。まぁもと・・・・」
「お願いします!!グラーフデーモンを退治してください!!」
「な、なに言ってんのノア君!!グラーフデーモンは上級冒険者でも赤銀功章持ちがパーティーを組まないと満足に戦う事は無理だって…」
クラリスさんの言う通りだ。だけど・・・・
「そういえばリンシアちゃんはどこなのー?」
「「「あっ・・・」」」
そういえば彼女は買い物に・・・・
「クラリスさん、リンシアちゃんは一人ですか?」
「い、一応アロウ君が壁を修理してる最中に帰ってきた子が荷物持ちで同行したけど・・・」
「あの人魔術は天下一品でも武術はからきしですよクラリスちゃん!」
(グラーフデーモンは魔術に強い耐性を持っている・・・・)
仮にそうじゃなくたって二人だけじゃ危険だ。
けど、それならこの家だって・・・・
ばさっ
「ん、これは・・・」
綺麗なフォームで飛んできた愛剣を僕はキャッチする。
「もし自信があるようでしたら行って下さる?ボーイさん」
「エールさん‥‥」
彼女が持ってきてくれたようだ。
「この場で最も実力があるのは間違いなく貴方ですの」
「・・・・・分かった!ニエルちゃんとノア君も今から集落に戻るのは危険だからここに居てくれ」
「じゃあ私同行します!!」
「アネットさん?」
「流石に食べて寝てばかりじゃまずいので・・・私も」
「・・・・分かった」
「私達の事は心配ご無用ですの」
「伊達にこんな所に長年暮らしてる訳じゃないからねー」
これでも僕も長年戦場に身を置いてきたから分かる。
この子たちも決して弱くはないんだと。
「・・・・・じゃあ行ってくる!!」
ババっ
(無事でいてくれ!!)
剣を構えて僕はアネットさん・・・いやアネットとともにリンシアちゃん達の元へ向かった・・・。
(続く)