1話−5 第二の犠牲者?
私のもったこの能力は、実は今に始まったことではない
きっかけは今から12年前のこと…。
いつからだったか。ううん、きっと物心ついた時からこの能力はあったんだと思う。
幽霊が見えるとか、声が聞こえるとか、よくあるただの霊媒体質だけならまだしも、私はどうやらそっちの世界(?)に入る力があるらしい。突然ぽっかりと異質な空間があらわれて、そこを通るとまったく違う場所へいってしまうんだ。
たぶん最初に体験したのは5歳の頃、おばあちゃんのお通夜での出来事だった。
お父さん側のおばあちゃんは、46歳という若さで亡くなってしまった。原因は心臓発作だったらしい。もうあまり覚えてないけれど、物静かであまりしゃべらないおばあちゃんだった気がする。それでも、私はたった一人の孫だったから田舎へ遊びにいくと大層かわいがられたみたいだ。
そう、あの時は私は「死」というものがあまり理解できなかった。お母さんに「もう会えないんだよ」と言われてもいまいちなんのことだかわからなかった。お通夜を始めるまでまだ時間があり、親や親戚はなにやら打ち合わせであわただしくて、私は一人でおばあちゃんの棺おけの側に座ってた。
突如、棺おけが動いたような気がして、立ち上がって様子を見ようとしたら……あの不思議な、目の前の空気が歪む感覚に包まれてしまった。そして気が付いたら全く知らない場所に佇んでいた。
そこは田んぼの続く田舎の風景。明るいはずなのに、太陽が照ってるって感じじゃなかった。空……というか、頭上に色があるってだけな感じ。極端に言うと広い箱の中におさまってるみたいな……そういう閉鎖された空間にいた。
その時は怖いとは思わなかった。ただ「この部屋から動いちゃだめだよ」とお母さんに言われてたから、急いで元の場所にもどらなきゃといろんな所を走り回った。やがて木々に囲まれた間に石段があるのを見つけ、何故かそこを登らなきゃいけないと思って、息を切らしながら駆けあがった。
登りきったそこはそんなに大きくない神社だった。古い鳥居があり、奥に屋敷があった。そしてその中央に一人の女の人が佇んでいた。
それはおばあちゃんだった。
ううん、おばあちゃんなんだけど、正確には私の知っているおばあちゃんではなかった。なんかもっと若い、20歳前後の女性の姿だった。まっ白いワンピースに身を包み、肩までしかなかった髪は腰の辺りまであり、それを高い位置でポニーテールに結わいていた。それが何故おばあちゃんだと思ったのかわからない。
その若いおばあちゃんは振り向いて私に気づくと、私以上に目を丸くして驚いていた。駆け寄ってきて、私の肩を両手で包み込むようにして。「美咲……どうして?」と聞いてきた。
どうしてと聞いた割には、私がここにいる事情はわかっているみたいだった。何かを納得したように、でもやっぱり信じたくないような……そういう目を若いおばあちゃんはしていた。
「おばあちゃん、ママたちがおばあちゃんとはバイバイって言ってたの。きっとおばあちゃんがここにいるの知らないんだよ。みさと一緒に帰ろう」
確か私はそんなような事を言っていた。
それには答えずおばあちゃんは私を強く抱きしめると、
「そうか……美咲、辛い思いをさせるね、ごめんね……。おばあちゃんはそっちには行けないんだよ」とそうつぶやいた。
そして、少し離れると私を真剣に見つめた。何かを決断するかのように。
「ごめんね……。でも、おばあちゃんはずっと美咲のことを見てるからね。守ってあげるから、これから何があろうとも強く、そして恐れずにいきなさい」
その後はおばあちゃんに手をひかれ、田んぼの中央に光輝く丸い穴があり、私にそこにいくようにうながした。
後ろ髪ひかれながらも、若いおばあちゃんが背中を押してくるのでその中に入った。
最後に振り向いたとき、おばあちゃんは私の知ってるおばあちゃんの姿だった。肩までの髪、少し皺が出てきているおばあちゃん。
と、ここまできくとなんだか不思議な体験……死んだおばあちゃんに会えてよかったね、ちゃんちゃんって感じに聞こえるけれど、大変なのはその後だった。
それをきっかけに、私は「呪われてる○○」とか、「いわくつきの○○」とかそういう霊的な場所にいくと(必ずではないけれど)変な場所に飛ばされてしまうのだ。
そのほとんどが、さっき体験したような怖い感じのところ。今ではもう人に話してないから……まず信じてもらえっこないし、オカルト少女みたいに思われるにも嫌だったし。だから自分の推測でしかないけれど、成仏してないものが私をこっちにひきこんでる気がする。ってことはやっぱりあそこはあの世なのかな? でもいつも入ると幽霊は1人とか、心中とかの場合はその人数とか……まぁどっちにしても全国の幽霊が集まっているようではない。そして私もあまり深いところを探る気はない。行ったところでほとんど逃げるようにして出口を見つけてる。助けを求められたり、逆に無差別的な逆恨みの標的にされたりするけれど、運がいいことにその場さえしのげれば、捕まったときもさっきの手のようにとにかくめちゃくちゃに動けば普通の人間と同じように力が緩んで、その隙にまた逃げる…みたいなことを繰り返してる。
普通に生活してれば数年にあるかないかってぐらいの割合だし、そのうちこの力がなくなればいいなって思いながら暮らしてる今日この頃……。ほら、幽霊とかって大人になるうちに感覚がにぶって見えなくなるってよく言うじゃない。私はそれに望みをかけてる。それまではなんとかやりすごしてみせようって思った。
でも――――。
今回ばっかりは学校じゃん! ほとぼりが冷めるまで休むってわけにもいかないし。なんとか引き込まれないようにするしかないよなぁ……。何で私ばっかりこんな目にあわなきゃいけないんだろう。幽霊なんてマンガみたいに綺麗な姿じゃない。どっちかというとアメリカのB級映画にでてくるような、あんなのばっかり! しかもどんだけ離れてもその音や声は頭に、体の内部に直接響いてくる。今回の人魂みたいなやつならすっごいましなほう。それでもちょっと怖いけど。
あぁ、なんか前途多難な予感だよ本当に!!
「あぁ……結局それでも朝がやってくる」
重い足取りで学校まで向かう私。今日一日をどうやりすごそうか考えてる。今日だけでも休もうかとよっぽど考えたけど、それじゃあ負けたような気がするから、覚悟をきめて登校した。それに、何より気になるのは、あそこで起きた出来事そのもの。あの私を掴んだ手だって、よくよく考えてみれば生徒だったよね。袖の部分がうちの制服っぽかったし。あとは赤い紙……何が書いてあるかは読み取れなかったけれど、これが関係してるとしたら、今回の行方不明騒動は普通に警察が動いて解決できる事件とは思えない。しかもこれがわかってるのはおそらく私ぐらいだとしたら、これは責任重大なんじゃない!?
あ、昨日の変な人たちも知ってるのかな。そしたら彼らに情報提供するって手もある。一応除霊ができるとか言ってるんだったら望みを託してもいいでしょう。私には関係ないし。だめだったら霊媒師さんとかお坊さんとかにでも言えばいい。どちらにしろ私には何もできない。
「……とと、結局策が思いつかないまま学校につい……た。って、なにこれ……?」
校門の前にはパトカーと警察がいっぱい。いくら行方不明だからって学校の生徒一人のためにここまで総出でくるの?
あれ? 茜が誰かと話してる。警察ではないけれど、うちの学校の先生や生徒ではない……大学生ぐらいの男の子と、もうちょっと年配の男性だ……って、げげっ、昨日の人たちじゃん。
「あ、美咲、おはよー! ちょっとあんたも付き合ってよ!!」
私を見つけるやいなや手招きでこっちに呼んでくる茜。男性二人もこっちを見てる。昨日と違うのは長身の男の人がいないってことだけだ(あー、名前なんだっけ? 昨日一度いっぺんに聞いたきりだからうろおぼえだっ)
「おはよ、茜。今日は学校どうしちゃったの?」
私の疑問に、茜はちょっと言いにくそうに答える。
「それがさぁ、また一人行方不明が出ちゃったんだって。昨日の放課後なんだけどね、3−Aの学級委員長らしいよ。ますますやばくなってきたって感じじゃない?でさぁ、今回の人は、その直前まで友達と一緒だったみたい。一緒の教室にいてさ、残って絵画の宿題を仕上げてたらしいよ。でも、その友達が窓を閉めるためにちょっと背中向けてる間に、振り向いたらいなくなってたんだって!」
話してるうちに興奮してきたらしく、茜のトークは止まらない。
「それでそれで、その友達は聞いちゃったんだって! その先輩、昨日の朝、机の中に赤い手紙が入ってて…って相談してたらしいよ!」
3−Aの教室
絵画の宿題
赤い手紙
…………。
ウソ……。
昨日の私の行った(連れてかれた)場所は学校であって、あの怖い手が出てきたところは3−Aの教室で、机の上にはパレットと赤い手紙……。
「これが、今回行方不明になった人の写真なんだけど、見憶えあったりするかな?」
んと、名前なんだっけ?あぁそうだ、一番年上の箕輪さんが一枚の写真を私に差し出す。昨日の一件は全く気にしてないみたい。遠慮がちに写真を受け取ると、そこにはストレート髪の、真面目そうな人がうつっていた。きちんと手を前方に重ねて写る姿は清楚な感じが写真越しでも漂ってくる。そんな姿に、違和感を覚えたのはその揃えられた指にはめている指輪だった。
「この指輪……」
食い入るように見る。小さいからはっきりとしないけど、小さい羽の模様があるのがわかる、天使の羽の飾りがついたシルバーの指輪だ。
それを私はつい昨日見たはずだ。あの私のことを掴んだ手にはめられていた指輪だった。
「じゃああの手は先輩の……赤い紙からは逃げられないっていうのは、あっちに引き込まれて出られなくなるってこと……?」
「み、美咲? 何……言ってるの?」
はっ!!! しまった!
私の独り言はばっちり普通の音量でしゃべってたみたいで、茜と、探偵の二人は不思議そうな顔してる。
「君も何か知ってるのかな? 逃げられないってどういう意味?」
箕輪さんが私に声をかけた。うーん、やっぱり事務所の所長にしては若すぎるんじゃないかなぁってそんなことはどうでもいいのか。
「あ……えっとぉ……いやぁ、昨日茜が神隠しとかっていってたじゃない?だからその赤い手紙とやらが何かキーになってるのかなぁとか……思っちゃったり思わなかったりでぇ……」
うわーん、なんか苦しい言い訳だよ。ていうか意味が通じてないしー。
「あぁ、赤い手紙ね、あれも後日談があってー、昨日美咲は帰っちゃったからはなしそびれたんだけど。って、もうチャイム鳴っちゃうじゃん! じゃあ、霊探偵様たち、また何かわかったらお知らせしまーす」
それだけいうとたったか走って行ってしまった。
「あ、あの……失礼します」
ぺこっと頭を下げて私も茜のあとを追いかける。
彼らの隣を通り過ぎる時、瀬戸……とかいったあのちょっと能天気っぽい男の子が私にしか聞こえないぐらい小さい声で。
「悪霊は標的を逃がさない。次は誰かな」
びくぅっ!
この人……。
驚きを隠せない表情で私は瀬戸悠也を見た。彼もまた私の方を見た。大きい目を細め、すべてを見透かしてるようなその笑顔が…怖かった。
この人、一体何を知ってるの?まるで私が昨日体験したことを知っているような…まさか。
指先がかすかに震えた。こっちは何もわからないのにあっちは全てを知ってるみたいで。
私の方から先に目をそらして逃げるようにその場を去った。
やっぱり今日は休めばよかった。きっとこの騒ぎじゃ今日は授業はやらないだろう。明日からほとぼりが冷めるまで休もう。もう関わり合いたくない。
怖い。
私が席につく前に、茜がこっちに飛ぶようにしてやってきた。なんかさっきとはうってかわって顔色が悪い。
「み、美咲……どうしよう」
「何かあったの?」
「つ、つ、つ、机の中……」
それだけ言うと自分の机を指さした。
とはいってもここからじゃよく見えない。茜の席に言って机を覗き込むと。
「…………あ…………っ!!!」
そこには見開きの紙切れ。ゆっくり引き出してみると、その色は赤く、中に黒のインクでこう書かれていた。
『ワタシハココヨ。ハヤクミツケテ』
ここまで読んでくれてありがとうございます。
読みづらいとか話がわからないとかあったらじゃんじゃん言ってくれると嬉しいです♪
なかなか主要メンバーがそろいません。まだまだ先は長いです!