1話−4 幽霊の世界?
謎の霊調査集団から気にかかる話を聞いて憂鬱な気分で帰宅をしていたんだけど…
ううぅぅぅ。さっきの話を完全に否定できない自分が嫌だ!
帰り道を一人でさっさと歩く。まだ明るいとはいえ、春先は一瞬で暗くなる。
行方不明だか神隠しだか知らないけど、あんな話を聞いたらなんかしばらくは学校に長居したくないなぁ。でもまだ何があるって決まってるわけじゃないしさすがに大勢がいる中だったら平気だよね、うん。
もうほとんどの生徒は帰宅してしまったらしく、人通りがまばら。私も早く帰ろうと一層足早になる。
「…………タイ」
「ん?」
今、頭の中に何かがひびいた……ような気がした。
この感じ。なんかいやーな予感……。的中しないうちに離れよう!
どこにともなく、とりあえず真っ直ぐ走る。きっと距離をとればある程度は大丈夫なはず…………。
「カエリタイ、カエリタイ、カエリタイ」
うわ! また聞こえた。しかもさっきより近くで聞こえる。
「ドコ、ハヤク! カエリタイ、タスケテ!」
キィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン。
「う、うわああああ、だめだぁ」
激しい耳鳴りがして、立っていられない。まるで絶叫マシンにのったかのように気持ち悪い感覚が私を襲った。地面が歪む。景色も歪む。自分自身も歪んでしまうような感覚になってくる。
もう、「カエリタイ」じゃないよ! 私だって行きたくない! そっちには行きたくないよーーーー!
「あ……」
ひんやりした空気に気づき、うずくまってる状態から立ち上がる。
「ここは……学校? ってことはやっぱり」
今立っているのは教室? いや、保健室だ。私はさっきまで学校を出て、普通の道路を歩いて帰宅途中だったのに。
ありえないとは思うけど、一種の望みをかけて、窓のほうへかけよりおもいっきし窓全開にしてみる。
「はあ ……ああああぁぁぁ、やっぱりぃ」
見える景色は校庭。これは一見普通に見える。しかし、快晴だったはずの空は今は灰色。太陽が落ちたわけでも雲がかかっているわけでもない。本当に空が……というか、校舎の上が灰色なのだ。そこには「空」ってものがない。変なドームに覆われている感じだ。
そして、校庭から先の景色は……何もない。真っ暗な状態が続いている。
人の気配もない。何の気配もない、ここはただの空間でしかない。
うん、わかってる。私は今いつも生活している世界にはいないんだ。ここはみんなが生きてる世界とは別モノの場所なんだ。
エリアが学校ってことは、この学校か、それに関わる誰かが幽霊となって、もしかはなんらかの事情でこの霊界(なのかはわからない、私が勝手にそう呼んでる)にとらわれてるってことで……。
つまり、ここにはどこかに幽霊がいるわけで、結構怖かったり、かなり怖かったり、とてつもなく怖かったりで……(とりあえず詳しい話は後で!)
「は、早く帰らなきゃ……出口は、えっと……」
入ったということは出ることもできるのは知ってる。問題はその場所だ。それは歩いて見つけるしかないんだけど。何か波長のようなものを感じる。この死んだような世界から、わずかに「生」の気配を放っている場所がある。落ち着いて見れば場所は見つけることができる。
んーと、んーと……保健室から周りを見渡す。もちろん天井や壁なんだけど、それを通して、出口を見つけられる。透視をしてるってわけではないんだけど、なんとなーく、壁を通り越して気配を見ることができる。出口の座標がわかるというか……とりあえず方角さえわかればどこにいけばいいかわかる。幸いここは学校みたいだから、土地勘ってのもあるし。
「あそこは……3年A組の教室……かな」
誰かいるわけじゃないけれど、言葉を発していないと孤独に負けそうな気がする。それぐらいこの空間ってのは静かで、虚無で、空っぽな感じ。でも大声でしゃべると、あらぬモノが出てきそうな感じだからあくまでもしずかーに、しずかーに自分を勇気付ける。
「う、うわぁ!」
曲がり角のところで、この空間には似つかわしくない光の球が私とはち合わせてしまった。後ろに下がろうとして足がもつれてそのまま尻もちをついてしまう。
「あ、あぅあぅ」
人魂!? にしては電球のように明るい光を放ってるけど。でも普通では絶対にありえない物体であることには違いない。
ゆっくりと私の目線の高さまで降りてくる人魂。
「ぎゃああああああ!」
ここでは何が起こるかわからない。手に持ってたカバンでその人魂を追い払った。
まるで余裕って感じで避けて、しばらく頭上に漂っていたけれど、すっと天井へと消えてしまった。
こ、これが今回の原因? あんな人魂一つでこんな異空間をつくれるなんて。でも私を引き込んだ割には何かしようとはしてこなかったな。いつもはすっごい追いかけてきたりしてくるのに。
気をとりなおしてなるべく気配を消して、かつダッシュで教室まで走る。
「あ、あった!」
教室の教卓のところに光が差し込んでる。ここをくぐれば……って。
「これ……荷物? 鞄と画材道具?」
教卓の前の机に生徒の荷物。鞄、パレット、筆、筆箱、教科書っとあれは画集なのかな? あと……赤い紙切れ?
「ま、まさか……。そういえば茜が赤い紙とかなんとか……」
ちょ、ちょっと……あんな意味ありげな物の前を通らなきゃ帰れないわけ!? 勘弁してよ……。
うー、でも目の前が出口だし、変なのが出てくる前にいっそいで通れば!
このままここにいても恐怖が極限まできそうだったから、もう勢いにまかせていっそいで走った!!!
そして、出口の空間に手が触れることができた。
やった! 今回は何事もなくいける!
解決にはならないけど、今はここを逃げるが先決よ!
半分光の中にからだを委ねた瞬間……。
ぐいっ――。
私の右腕を誰かが引き戻した。はっきりとした手の感触。
え、嘘!?
これは、振り向かないとダメ? ダメかな?! ていうかもう反射的に振り向いちゃってるってば!
「い、い、い、いやあああああああああああああ! きゃああああああああああ!」
絶叫マシンに乗ったレベルに叫ぶ私。そこには私をつかんでいる手と、赤い髪を握っている手が、パレットの中から出てきてる(ようするにパレットの中から腕のみが出てる状態)
私をつかんでる手には指輪。天使の羽? みたいな指輪がギラギラ光ってる。
「あああああああ! やあああああああ! はなしてええええええ!」
もうぐっちゃぐちゃに腕を振り回し、その勢いで相手の腕が緩んだ。瞬間に光の中に飛び込む。
「アカイカミ、ニゲラレナイ、ジュンバンニ、ツギハ…………」
そんな声があの空間の中から聞こえた。
!
次の瞬間には、私は道のど真ん中に立ちすくんでいた。何事もなかったかのように人が行き交う。私はあたかも最初からそこに立っていたように周りは気にしていない様子。いつもこんなだからもう気にしない。こっちも何事もないようにとりあえず歩く。
まだ心臓がばくばく言ってるし、叫びすぎて喉も痛い。それに、右腕につかまれたような感触がはっきりと残っている。
それになにより、直前に聞いたセリフがよみがえる。
「赤い紙……逃げられない……順番に……次は……」