1話−2 行方不明事件?
「……からして、みなさんには是非……今日という……に……は……を……」
うぅ、眠い。
4月の8日、新学期の朝。お決まりの全校朝礼、しかも長い。
体育館でやってるから気候には影響されないものの、30分立ちっぱはいつまでたっても慣れないもの。
春休み中はみごとにだらけた生活をおくったもんなあ。部活もバイトもないお気楽な私はぐうたらしているうちに休みが終わっちゃった。
しかし、高校にもなって朝礼って……ない学校だって増えてきてるのに。
あーもうだめ、校長の声がどこぞの国の言葉に聞こえてきた……。
いっそのこと立ったまんま寝てしまおうかと思った――――。
ブワッ!
「!」
ブレザーを着ている私の体が一気に鳥肌全開になった。
うわ、何これ……何かが通った感じ……。
氷のような風が服を貫いて通ったってぐらい、目が覚めるような寒さが襲ってきた。
反射的にその通ったはずの「何か」の方向に振り向いてみたけど、異常なし。
むしろ、全員前を向いてる生徒の中、突然振り向いた私を異常な目で周りが見てる(涙
「ちょっと、美咲、どうしたのよびっくりしたじゃん」
すぐ後ろにいた親友、津田茜(通称茜、ってそのまんまだけど)が小声で話しかけてきた。
「あー、うん、気にしないで、気のせいだった」
とまぁあいまいに流しておいて、また校長の外国語……じゃなかった、お話に向き直る。
今の感じ、なんか嫌だな。まさかまた……。
「とまぁ、いまだに全力を尽くしておりますが、生徒のみなさまにも何か知っているものがいたら我々教師か、警察のほうに教えてください。なお、匿名が希望とあれば専用のメールアドレスを配布しますのでそちらのほうに連絡をいれるように」
ん? 何? 警察?
「あたし知ってるよー、この話。春休みに部活で学校きてるとき超話題になってた」
茜がくせっ毛の髪を指でくるくるやりながら耳元で、さも秘密の話のように教えてくれた(って、もう朝礼で話してるのに)そのイタズラっぽい笑みはなんだか嫌な予感がする。
「3年生の美術部部長が校内で突然失踪したって話でしょ。荷物も貴重品も全部教室に置きっぱなしでさ、もっぱら神隠しって噂なんだよね」
「な、なんで神隠しなのよ……拉致とかっていうんじゃないの、普通」
「ふっふっふー、よくぞ聞いてくれました! 実は根拠があるんだなー、その部長って、いなくなる直前に赤い手紙を受け取ってたみたいなの。その手紙ってのがさ、これが昔の話にさかのぼるんだけどさ……」
「あ、パス。その手の話は聞きたくない」
茜のトークを手で遮って、檀上に向き直る。
「なーによー、せっかくいいところなのになぁー。滝川美咲、16歳、少しぐらい怖い話に慣れてくれてもいいのになー」
そのあとも後ろでブツブツ言ってたけど、諦めたらしく携帯をいじりだす(おいおい、没収されても知らないぞ)
まぁ……ね。いわくつきの場所とか話とかそういうのは確かに私は苦手。
でも苦手なのは、ただの怖がりってわけではなくて……いや、確かに人並に怖がりっちゃ怖がりなんだと思うけど、それ以前に根本的な問題が……ね。
やだな、学校で何かあったらどうしようもないな。逃げれないし。ってことはやっぱりさっきのあれは……。
心に引っかかりを持ちながら、いつの間にか朝礼が終わっていた。