1話-13 一緒に
私にできること。
私だけにできること。
うぅ、泣くとすっきりするけど疲れと眠気もやってくる。
しばらくしてやっと泣きやんだ私は、重い頭を悠也にあずけ、無気力状態になった。
「結局のところはさ、その子に取り憑いた悪霊を退治すれば全て解決するんじゃない?」
ぽんっと私の頭を叩いて言ってくる。
ああぁぁぁ。見てもいないからそんな簡単に言っちゃって!!!
「10歳の頃の美咲ちゃんがどうだったかはわからないけど、今は多紀さんに呪術をふきこまれて力をコントロールできる。よほどのことがなければ暴走もないし」
「でも、だからって……」
「救えないって言ったけど、今回は救ったじゃん。お友達」
「あ……それはそうだけど、でも……」
「頑張って救えないもの。頑張らなくて救わないもの。結果は同じでも違うんじゃないかな」
ううぅぅぅ、なんか言い負かされそうな予感。次に出る逃げの言葉がみつからなくて、うーうー唸っている私を面白そうに見ている。
「別にすべてを救うことなんてないさ。世界でおきてる100のものを救えなくても、目の前の10のことを救えればいいじゃん」
くしゃくしゃと私の頭をなでながら何も言えないでいる私を見て笑いながら、
「もし、目の前の助けを救えないと思ったら俺たちを頼ればいい。美咲ちゃんの助けは優先で救ってあげるよ」
「う……」
なんでこの人はこういう恥ずかしいことをさらっといってのけるかなー……。こっちが照れちゃうじゃないの。
最初のころと変わらない軽口だけど、なんか……やっぱりちょっと嬉しいかも。今まで一人だと思ってたから。
誰かを頼る……か。そういうことに関してはまったく考えなかったことかもしれない。
「っていうことなんだけど、立ち聞きしてる皆さんはどう思いますー?」
は!?
立ち聞き?
ばっと勢いよくドアの方に目を向ける。
「う、うわあああ!」
び、びっくりしたー。
扉が半開きになってて、その隙間に3つの顔が!
思わずばっと悠也から離れた。いまさら遅いけど。ついでにベッドから滑り落ちてしまった。
「なんだ、もうちょい面白い展開になるかと思ってたのに」
柳沢さんがニヤニヤと怪しげな笑顔を浮かべながら言ってくる(なにがだー!)
「美咲ちゃん……多紀も、悠也も、智もみんな優しいよ。辛いことは、みんなで一緒に抱えてこ……」
私の手をとり天使のような微笑みを見せる瑠雨ちゃん。この子のほうが私よりよっぽど大人びてる。
「ちょっと……腕見せてみろ」
箕輪……多紀さんが私の腕をそっととる。触れたところが熱をもって、血管に沿うように腕に刻まれた術式が明るく輝いた。
「ふむ……もう通常の状態まで回復してるのか。完治まで2日はかかるところをわずか3時間……やっぱりそうか。ふむ……これは面白いな」
何かを納得したようにうなずく。こっちはさっぱりなんですけどぉ。
「美咲、お前の基本能力は霊力の短期回復だ。さっきも言ったように、霊力は精神力で、消耗すれば回復するのに時間がかかる。けれど、美咲の場合はそれがほぼない。失われても一瞬にして通常の状態に戻ることができる。これは今後すごい武器になる」
ふっ、っと掴んでいた腕を放した。またわけのわからないことを言われたけれど、箕輪さんの鋭い瞳が私の思考をさえぎる。彼は私にしか聞こえないぐらいの小さい声で、でもはっきりと言った。
「きっと、多くの事件を救うことができるさ。自分に定められたこの運命を……退魔師としてここで共に戦ってくれるか?」
「あ……う……」
ふと周りを見回す。みんなが私の答えを待っている。
ここが……ここは私の居場所になれるだろうか。逃げ続けてた数年間。もう逃げなくていい、立ち向かえる。私の後ろにはここのみんながいてくれる。
この先なにが待ち受けてるかわからないけど、この人たちと一緒なら、自分に備わったこのチカラを受け入れることができるのかも。
「よろしく……お願いします」
その後
遺体がある可能性が! ってことで学校が急遽休校に。
そして壁の中に女子生徒の遺体が発見されたとのことだった。
どうやら多紀さんたちが手回しして手配したらしい(ルーツは全く謎なんだけど)
事件の真相は、もはや知る術はないのかもしれない。あの犯人も誰だかわからないし。
でも私は知っている。
彼女は別に人をどうこうしようとしてたわけじゃなかった。
ただ、寂しさや虚しさって感情に押しつぶされたところを悪霊に使われてしまったんだ。
そういえば、私は気を失ってたんだけど、悪霊の部分はそのまま消し飛んだらしい。その後残った篠田裕子そのものの霊体は、無事に還っていったんだとか。
まぁなんにせよ今の私はわからないことだらけだ。そもそもこういうのが非公式とはいえ団体がいたってこと事態驚きだしね~。世界は広いってことでしょうか。
「はぁ~、結局私も巧妙な手口で拉致されてたんだ~。悔しいけど全く覚えてないんだよね。美咲は犯人見た? ってか美咲は大丈夫だったの?」
休校だったでのせっかくだから茜と一緒にファーストフードでご飯食べている。茜はやっぱり教室にいた前後の記憶があいまいで、犯人に眠らされて拉致された(ってことにしたらしい)。ついでに私も眠らされて、放置されたってことらしい。こんな適当なシナリオ作ったの誰よ! ……想像はつくけどさぁ。
「まぁ怪我がなくてなによりだよ。犯人も捕まったらしいし、もう心配いらないじゃん」
「ふ~ん、そんなもんなんだねぇ」
その後は事件についての他愛のない会話をしていると、いつの間にか正午を過ぎてしまった。
「あ……と、ごめん茜。今日これから私用事あるんだ」
「用事? 平日の昼間に? どっかいくのー?」
「ん~……。バイト? みたいな……」
「えー! 美咲バイトなんて始めたんだ。めっずらしー。なになに? どんなバイト? 接客だったら遊びに行くよ!」
「いや、なんていうか……力仕事だったりデスクワークだったり会議だったり推理だったり……人前に出るようなものじゃない……かも」
「なにそれ、めちゃくちゃじゃない。でも、ま、じゃあ今度給料でおごってよね~」
そういって私たちは店を出て、茜は帰宅、私はとある場所へ向かった。
給料? そいや多紀さんってどんぐらい稼いでるんだろ?
『Ray調査事務所』
これが正式名称だったらしい。今初めて知ったわ。
まぁあれだよね……。
「Ray、レイ、霊……ね。とんだ語呂合わせもいいところだわ。ネーミングセンスが」
「なくて失礼」
びくぅ! 突然後ろから低い声が聞こえた。
「うわっ! 多紀さん。いつの間に後ろに」
「買出ししてたら美咲の後ろ姿見えたからな。こっそり後つけてたけど、全然気づかないからお前」
いやいや、こっそりとか趣味悪すぎでしょ。
よく見れば買い物袋2袋も持ってる。言っちゃ悪いがビジュアル的に似合わない。
「買い出しって、何かあるんですか?」
「ん、ま、事務所入ればわかるよ」
そういって先にドアを開けて誘導してくれた。誘導されるがままに事務所へと足を運ぶ。
最初に説明を受けた応接間に全員がそろっていた。
「あれ? 二人一緒だったんか?」
「いや、多紀さんそれはやばいんじゃないんですか。年齢的にはたからみれば援助―」
「それいじょう言うな智、お前が買出しいかないからだろ、もとはといえば」
「俺だって警察やマスコミに色々ねじふせるために走り回ったんだぜ? いわば影の統治者はある意味俺なんだから、こういう時ぐらい優遇よくしてくれよ」
「よく言うぜ、ぐうたらフリーカメラマンが。だいたいカメラもってないカメラマンなんてどこにいるんだよ」
「心のカメラなんだよ俺は。ん……、フリーライターのほうがいいのかな。ま、何もしてないアホ学生よりはまともなことやってるさ」
こんな会話がすぐに飛び交う。
はは……みんな仲がよろしいことで。
半ば呆れつつ苦笑していると、ソファにちょこんと座っていた瑠雨ちゃんがこっちにきて手をひいてくれた。そしてこれまたかっわいい笑顔で。
「ようこそ、美咲ちゃん」
って笑いかけてくれた。
やっと1話が終わりました!
あと補足も書きますけれど、話は終わりです!
たくさんの疑問が残った話かとは思いますが、それは今後全て解決するはずです!
Ray調査事務所のみなさんの活躍を今後楽しみにしてくださいな♪