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アイデス  作者: MAI_★
12/14

1話−12 過去のトラウマ

 逃げてる…・・・? 私が・・・…?


「……………………」

「……………………」

「……………………」



「あっ」


 しばらく沈黙の状態が続いた後、ようやく事態に気がついた瀬戸悠也がやっと手を離してくれて私は解放された。とたんに体が一気に軽くなり呼吸も楽になった。


「そうだよな、金縛りだからな、あれじゃあしゃべれなかったわけだ♪♪ うっかりうっかり」


「あんた……馬鹿じゃないの……」


 う〜、まだ体がつってるような感じがする。思いっきり睨みつけたのに、瀬戸悠也はまた優しいにっこり顔を私に向ける。


 一瞬シリアスな感じになったけど、一気に壊れたなこれ。でもまぁ逃がしてくれる雰囲気はなさそう。なんか怒らせたら怖いタイプだなこの人は。下手に逆らわないほうがよさそう。


 仕方がないのでベッドに並んで座る。


 確かに……今の私は誰が見たってただの弱虫にしか見えないんだろうな。せっかく人を助けることができる才能をもってるのに。


 でも、それだけじゃあだめだよ。だめなんだよ。


「確かに俺らの能力ってのはレアだから周りからの理解はないし、人一倍怖い思いをする可能性があるからいやだ〜っ! てなるのはわからないでもないけど、逆を言えばきちんとチカラを身につけて、それなりに経験を積めば耐性もできるし、意思に反して冥界へ引っ張られるってこともないんだぜ? 俺も昔は悪霊に負けて冥界の中に無理やり連れてかれたことあっけど、今は逆にこっちへ引き出すこともできるようになったし、うん」


「違うの」


「ん?」


「そうじゃない、そうじゃないのよ」


 私は特殊なチカラを持ってるから悪霊と出会ってしまうのはわかる。それはいいの。いや、決してよくはないけど、受け入れることはできる。怖いのはそこじゃない、私じゃなくて、私の周りの人が……。


「わかった、理由を言う。言ったら納得して帰してもえらる?」

「それは内容による」

「言わなかったら?」

「言うまで帰さない、逃がさない。ついでに寝かさない」


 ふ、ふざけてるのか真面目なのかこいつは……。

 はぁ、でもしかたない、誰にも話したことはなかったけれど、この人になら話しても大丈夫かな。一応強いらしいし。


 ベッドの上で体育座りをして膝に額をつける。たぶん話してるうちに泣きそうになるだろうから、少しでもわかりづらくする。


「私だって昔は、これは自分に与えられた使命なのかなって思ったこともあったよ。怖かったけど、影の救世主みたいに思えば少しワクワクした時もあった。幽霊と話できるなんてかっこいい! ってね。でもそれはとんだ自意識過剰だった……。……10歳の時だった、お化けが出るっていう墓地にクラスのみんなと行ったことがあったの。私はノリノリで、怖いけど好奇心が勝ったの。みんなも一緒だったし、やっぱりその年ごろってそういうのに興味もつじゃない。それに、何かあったら私がなんとかできるって思ったんだ。そしたら自分もマンガの主役みたいな感じになるかもって」


「うん」


 時折相槌をうつぐらいで瀬戸悠也は黙って私の話を聞いてくれている。


 あの時……。


 真っ暗な墓地の中、懐中電灯一つで、みんな電車ごっこみたいに一列に前の人の肩をつかんで歩いていた。私は真ん中らへんにいた。

 墓地に入った瞬間に空気が変わったような気がしたけれど、私はそれを気のせいにしてしまった。たぶん墓地の入口が丸ごと冥界の入口だったんだ。暗闇と同化して気付かなかったんだ。


 少し歩くと、墓石だらけの風景のはずが、黒い闇一色に染まった。そして足もとがぐらりと揺れ、いろんな物が一気に倒れてきた。

 みんなパニックになっちゃって滅茶苦茶な方向へ走り出した。10mも歩いてなかったのに何故か道路にたどりつけなくて。何とか状況をつかんだ私は必死で出口を探してみた。幸いにすぐ近くで見つけることができた。だから、必死で叫んでみんなをそこに誘導させた。その間もたくさんの人魂みたいなのがぶつかってきた。まるで風船を密着させて割られたみたいな痛みが体中に走った。


 倒し方なんて知らなかった。ただ自分が盾になることでみんなを守ることしか……。


「危ない霊がたくさんいるってことはわかってたはずなのに、あの時の私は何もわかってなかったの。自分がいれば大丈夫って……何が大丈夫だったんだか」


 その後なんとかみんなを出口に押し込んだ後、見渡すと友達が一人まだ墓地の中にいたの……クラスの男の子で、一番背が小さくて気弱な子だったの。泣いて助けを呼んでたから私はそこまで走って行ったよ。あと一人ならきっとなんとかなるかと思った。でも、その子の前に大きな悪霊が立ちふさがってたの……。


「大きな? どんな感じだ?」


 ふうっと一息ついて顔をあげる。あの時の情景は忘れられない。今でも瑠雨ちゃんのかわいらしいこの部屋からフラッシュバックのように網膜が違う場所を映し出すようだ。思えば、私が変わったのはあの瞬間だったんだよね。昔からお化けの類は確かに苦手だったんだけどさ、苦手でというレベルでなくなったのはあの時だった。


「よく覚えてない。ただ、黒かったってことだけ覚えてる。人の形をしてたような、でも何の形も持ってなかったような気もする。今思えばあれが冥界を作った主だったんだと思う。かなわないって一目みてわかった。本当の意味で『殺られる』ってわかった」


「それで逃げてその男の子は行方不明になっちゃったとか?」


 そういう事例はよくあるって感じで悠也が聞いてくる。だけどそれに私は首を振った。


(すぐる)くん! 早くこっちにきて!』


『く、苦しいよ! 動けないんだよ! 僕死んじゃうよ』


『ちょっと待ってて! 必ず助けるから!』


 ヤツを見ないようにして一気に駆け抜ける私。でも、私は一瞬で卓くんと同じように床に突っ伏した。まるで見えない力で押されてるみたいに圧迫されて、骨が折れるかと思った。


『う、うぅ。私は負けないもん!』

 腕を震わせながら背中を上げる。それをみたヤツは私を……。


 自分の一部の黒い塊を私にぶつけた。それはぶつかるにとどまらず私の胸を貫いた。

 心臓をギュっと握りつぶされた感じだ。卓くんの絶望に見開かれた目がとても印象に残ってる。


『滝川! もういい! 早く逃げろ!』

 

 動けなかった。視界が真っ黒い空を見上げてる。意識と体が分離してしまったかのように私はぴくりとも動けなかった。


『早く! 早く逃げろ!』


 ヤツの気配が頭のすぐ先で感じる。

 あ、私きっと殺されちゃうんだ。


 ごめん、助けてあげれなくてごめん。

 私は……無力だ。


「……それで? その後どうなった? 今ここにいるってことは難を逃れたんだろ?」


「……わからないの。気がついた時は朝だった。自分の家で、部屋で寝ていた。本当よ。翌日は誰もこの話をしなかった。卓くんは学校にきてなかった……。どうなったのか確認するのか怖くて私はそのまま放置した。でも、3日後にきたのよ、別人のようになって」



「別人?」


「前と変わってほとんどしゃべらなくなって、誰にも話しかけなくなって、いつも一人でいるようになっちゃったの」


ガタッ!


「……!? 美咲ちゃん、どうした?」


 私は両手で耳をふさいで、目も閉じた。

 当時のことを鮮やかに思い出し、震えだしてしまった。そう、これで終わりじゃなかった。


 震えながら涙声になり、話の結末を告げる。


「彼はすぐに転校した。そして最後の挨拶の時、一人一人に握手する時があって、その子が私と握手するとき……あの時以来初めてお互い正面向き合った。爪が食い込むぐらい強く手を握られて、耳元でこういってきたの」




『ツギハ……コロス』




「あれは……あれは……墓地にいたヤツと同じだった。同じ感じがしたの。取り憑かれたなんていうのじゃない。あの子そのものがもう……」



「…………」



 さすがにどう声かければいいかわからないんだろう。しばらく長い沈黙が続いた。


「私……私には何もできなかった。友達すら救うことができなかった。こんなチカラ何の役にもたたない! それに……」


 涙が太ももの上で握りしめていた拳の上に落ちる。ポロポロと止まらない。


 隣にいる自信に満ちて怖いものなんか何もないオーラを放ってる瀬戸悠也の方を見る。彼のことを初めてまともに見た。その表情からは何もわからない。微笑んでいるようにも呆れているようにも心配しているようにも見える。


「私、怖いの。次会ったら絶対に殺されちゃう。でも彼を救えなかったから当然の報いなのかもしれないって。でもやっぱり死にたくは……ないよ」


 毎日びくびくしなきゃいけない。まるで時効をまつ犯罪者のようだ。でもそれでもまだ生きていれるだけまし。


「だから、私はもう極力関わりたくないの。頑張っても救えないことだってある。このまま一生逃げ続けるっていうのも得策ではないけど、今の私はこれしかできないの。あれ以来その子はみていないしどこにいったかもわからないけど、幽霊退治系で目立てばきっと気づかれるから」


 瀬戸悠也は目を細めて微笑んで、私の目元や頬に残る涙を指でぬぐってくれる。

 え、えっと…何?男の子にこういうことされたことってないからちょっと戸惑うんだけど。


 そして腕を私の肩にまわして、頭の上に頬を乗せた。


「よく」

「え? へ?」

 恥ずかしながら動揺する。

 こんなことされたこと今までないんだもん! 何? 何なの?


「よく、6年間も耐えたね。誰にも言えずに一人で、怖かっただろ」


 !!!


「ふ……ふえ……」


 どうして。

 何も考えてないような顔で心の奥底で私が思ってたことをさらっと言ってくるんだろう。どうして欲しかった言葉がわかるんだろう。


「うあああああああん、ああああああ」


 まさかね。

 まさか高校生にもなって子供のように声をあげて泣くとは思わなかった。

 でも、今まで溜めこんでたものが涙とともに落ちてなくなっていく気がして、嫌ではなかった。


 泣いてる間ずっと頭をなでてもらっていた。

 これも嫌じゃなかった。


はい

最近忙しくて更新遅い筆者であります。なんか甘々ですねぇ。今回は2人しか出てきていませんな。まぁ主役だからしゃーない。

美咲ちゃんは気絶状態で気がついたら家にいたということでした。実はこれにも深い裏があったりなかったり。

まぁそれを語れるのはだーいぶ先の話でしょう。

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