1話−10 真相?
さぁ、ついに退魔師バトルの戦いです。
あっはははは、なんだこれ。
なんかすっごいぶっとんでるなぁ。
このありえない光景を見て思わず感じたことはこれだった。
なんだかもう最初の頃とはえらい様子の変わった篠田裕子。髪が自由にうねうね動いてるし、体も全体的にどす黒くなり、かろうじて手足があるから人間なんだなって判断できるぐらい。黒い煙みたいなのも出てるし。そして私の前で背を向けて立ってるのが瀬戸悠也。こっちはこっちで全体的に青っぽく光ってるし、腕周りだけ特に強く光ってる。
そんで私はさっきの髪の毛から解放され、へたりこんだまんまである。
「さぁて、生気をなくして正体が出てきましたか。篠田裕子を媒介とした悪霊が! ……なーんてセリフを言うとあれだね。ヒーローって感じだね俺」
がくっ。おいおい、冗談言ってる場合ですか!?
でもちょっと待って? 媒介としたってことは。
「この人は篠田裕子さんの幽霊じゃないの?」
「そうだけど、これはもう別物なんだよ。あの後まだ続きの話があってな。死に方が死に方だったからそこをつけ狙われて……。まぁ今はそんな話してる暇なさそうだから……美咲ちゃんはそこを動くなよ。いいか、ぜっっっったいに動くなよ」
思いきり念を押されてしまったのでとりあえずその場でへたり込んだままの私。媒介ってなんだろう? じゃああれは違う幽霊ってことなのかな?
一見にらみ合ってるように見える二人だけど、押してるのは瀬戸悠也のほう。篠田裕子……もう原型あんまりとどめてないから幽霊って呼ぶことにしよう。んで、幽霊はジリジリと下がっている。どうやらさっきの私の時といい、あの青い光が苦手らしい。
「おっし、先手必勝!」
そう叫んで一気に幽霊との間合いをつめた瀬戸悠也。幽霊といっても、ほいほい飛んだり壁を抜けたりするわけじゃないみたいで、浮いてはいるけど、なんとか回避しようと構えてる。
瀬戸悠也は、その青い光に覆われた手で空をきっただけで、衝撃波のようなものが出てきて幽霊にダメージを与えている。あの光はさっき私にも出てきたけど、どうやって出してるんだろう。今の私にはその気配がまったくないけれど……。
「わわわっ!」
突然私の周辺に火の玉(っていうの? 鬼火っていうの?)がぐるぐる周ってる。さっきまでまとわりついてた幽霊の髪の毛が砂のようになってやがて消えていった。
『美咲ちゃん、大丈夫?』
え、火の玉がしゃべった!! しゃべったというか、私の頭の中に直接響いてくる。
『これは瑠雨の使役霊、だから心配いらないよ』
えーと、なんだ? またよくわからない単語が……。あぁ、でも察しはつく。まぁつまりはこれは近くにいても平気ってことなのね。使役霊って何なのかよくわからないけど、概ね言葉どおりのことなんだろう。
「って、これ最初に入った時に見た人魂じゃないの!」
そう、最初の時にみた電球レベルに輝いてたあれ。私が鞄振り回して追い出しちゃったやつ。
『うん、あの時は驚かせちゃってごめんなさい』
「え、あ、こっちこそごめん」
二人して謝りあう。奇妙な光景だ。
「ゥァァァアアアアアアアアアアア!」
すさまじい悲鳴が聞こえた。もちろん幽霊のほうです。瀬戸悠也は素手で幽霊の腕を捕まえて力を入れているのかな? なんか幽霊が二重に見えるような気がする。
瀬戸悠也が捕まえてる幽霊は、徐々にあの篠田裕子の姿になっていく。そしてそれにかぶって、黒い煙のような幽霊がたくさん出てきた。よく見ると、あれは何十人もの顔だった。私と同じ年ぐらいの子の顔の集合体!! そしてその顔の幽霊は風に乗るように素早く、まっすぐに私の方に向かってきた!!
え? 何で、何で私!?
瀬戸悠也がそれに気づいた時は、もう私の目の前にそいつがきてしまっていた。壁のように立ちはだかってくれた瑠雨ちゃんの使役霊は、その黒い幽霊の禍々しいオーラ……これは邪気っていうのかな。すごい鳥肌がたつような嫌な感じの空気。それに吹き消されてしまった。
「うわぁっっ!」
「美咲!」
一瞬で私の体内に黒い煙が入ってきた。視界がグラついて、何がなんだかわからない。内臓が飛び出てくるみたいに気持ち悪い。
イヤ!ナニ!?
ダレカ、ダレカタスケテ
イタイ、ヤメテ
オネガイ、ヤメテ
コロサナイデ……
「う、うぅ……」
いやだ、何よこれ。
誰かの悲痛な思いが心に突き刺さる。嫌……これ以上見せないで。見たくない、聞きたくない。
両目を閉じて両耳をふさぐ。それでも声が、映像が、頭の中でぐちゃぐちゃに混ざる。
「や、やめてよ。勝手に人の中に入ってきて、だいたいなんで私がこんな目に……」
そうよ、なんでこんな目にあわなきゃいけないわけ?
私は何もしてないのに、普通の高校生をやってきてたのに、へんてこなところへ連れてこられ、こわい思いばっかりさせられて。みんなはこんな体験しないのに。周りのみんなは幸せそうで。私ばっかり裏でこういう思いしてるってわかってないんだよ。
こんなとこにいたって私は誰も救えない。
今だって、足をひっぱってるだけじゃない。
私はあの時、あの時殺されるべきだったんだ。そうすれば、あの子を……助けられたかもしれない。
私が代わりになってあげてれば……。
『タキガワ! ニゲロ!』
『イヤー! ナンナノコレ!?』
『ハヤク、ハヤクニゲロ!』
『ウアアアアアアアア!』
『イヤダ、ヤメテ! シンジャウヨ!』
「……い」
さらに強く耳を塞ぐ。やめて、思い出したくない。
「嫌だ! 嫌だ! もうやめて!」
何も聞きたくない。どんなに年月がたっても消えない記憶。消えるどころか積み重なってどんどん私の心にのしかかってくる。もう……嫌だよ。
「おいってば!」
びくっ。
今、私何を考えてた!?
目を開くと瀬戸悠也が目の前にいた、私の両肩をつかんでる。その腕はやっぱり光っている。
「わり、守るとか言っといてさっそく危険な目に合わせちゃったな」
ぺこっと頭を下げられた。
「あ……あの……」
その後ろで幽霊がまだいるんですけどー!ちょっとこっちきてる場合じゃないでよー!
幽霊がまた向かってきて髪の毛を伸ばしてくる。けれど瀬戸悠也はそんなの軽々飛び越して一気に幽霊の懐へ入った。お腹の辺りを思いっきり蹴り飛ばすと、まるで焼かれたかのような幽霊の断末魔が聞こえてくる。
彼は……彼らは私をこの闇から救ってくれるだろうか?あの7年前の惨劇を……私のせいで起きてしまったあの出来事を……。
負けない、こんなことで負けるものか!!
私は退魔師なんでしょう!? 特別なチカラを持っているんでしょう!? だったら打ち勝つことだってできるはずだよ! 今だけは、今だけは逃げちゃだめだ。
「う、う、う、」
体が熱い。中から何かが……私の気持ちが体の外に出てくる。
「うあああああああああああああああ!」
なんとか正気を取り戻そうとしたら、私の体からあの青い光が、すごい勢いで放出して、昼間のように明るくなった。自分で目を開くことができないぐらいにまぶしくなっているけれど、それでも止まらない。
「あああああああああ! ……!!」
プツッ。
頭の中で何かが切れたような気がした。
あ、何か、急に疲れちゃった。
体内にいた何者かはいなくなったような気がするけど、私自身も体から抜け出てしまうような空虚感に襲われ。
そのまま気を失ってしまった。
〜〜〜
……ん?
今度はどこだろう
目が覚めると、また学校にいた。でもさっきと違って禍々しい感じがない。かといって現実の学校とはまた違う気がする。
どこかの教室の一つで目覚めたけれど、今は深夜みたい。外をみると真っ暗で満月がライトのように教室を照らす。かかっている時計を見ると21時だった
そして、私の様子がおかしい。そこに立って居るはずなのにいないような気がする。自分が空気になってみたいな不確かな感じ。妙にふわふわした感じ。重力を受けてないような……。
ガタッ。
教卓のあたりから音が聞こえた。上からのぞいて確かめてみると……。
そう、私は現在宙を浮いていて、自由に飛ぶことができた。だからふわふわした感じなんだね。
制服姿の女性徒が教卓の中に潜んでいた。隠れるように身をちぢこませてして教室を見張っている。
あれは、篠田裕子さんだ。どうしてここにいるんだろう? しかも15年前に在学していたはずだから、今はもういい歳してるはずなのに、ここにいる篠田裕子は私と変わらぬ歳の女の子だった。冥界の中で会った時とは全然違う。艶々した黒髪。細いけれども程よく焼けた肌。活発そうで、勝気そうな意思の強そうな瞳はいかにもクラスの中心にいるって感じの女の子だった。どうやら私の姿には気づいていないらしい。
カツ、カツ、カツ。
廊下のほうから足音が聞こえてくる。周りが静かだから妙に音が響く。ゆっくりと、でも確実にこちらへ向かってくる。篠田裕子にもそれは聞こえていたらしく、益々警戒するように教卓の中で身をひそめる。
「来たな……くだらないイジメの犯人」
教卓から少し身を出してぽそっと呟く。想像よりも低くてきっぱりした口調だった。
そうか、イジメの犯人をつきとめようとしているのか。確か柳沢さんが言ってたな。
やがて知らない男が入ってきた。周りをキョロキョロと見回して明らかに様子がおかしい。目深にかぶった帽子といい、サングラスといい、そして、右手には……刃物が握られている。
違う。この人は学生じゃない。
ガタンッ。
その刃物が月明かりできらめいたのを見てしまったせいか、篠田裕子が驚いて体制を崩してしまい、軋んだ音が教室に響いた。
男はゆっくり篠田裕子の方をみて、ニヤリと笑うとゆっくり近づいてきた。
「あ、あなた、誰……なんなの……こっちにこないでよ」
その言葉もむなしく、目の前にまで近づいてきた。そして、刃物を振り上げると、目の前で怯えているその女子に突き立てた。刃物……おそらく包丁だろう、それはいとも簡単にニットでできた薄手のベストを切り裂いた。紙一重でよけたんだ。
「キャアアアアアアアアア!」
めいっぱいの悲鳴をあげて篠田裕子が教室を飛び出した。でも恐怖が体中を支配してしまい、足がもつれてうまく走れることができないみたい。男はそんな篠田裕子の様子を嘲笑ってゆっくりと歩み寄ってきた。
あぁ、ここまで見てわかった。ここは15年前の様子だ。
いじめの犯人を捕まえようとして夜中に学校に泊まり込んで、おそらくたまたま現れた変質者に狙われたんだろう。
不思議なことに、こんな残虐的なものを見せつけられていたのに私は恐怖も何もわいてこなかった。
何か、今の私には感情ってものがこの体にはないみたいだ。
タスケテ
ダレカ
とうとう廊下の突き当りまで追い詰められてしまった。壁を背に、絶望の表情を浮かべる。男はケラケラ笑いながらじりじりと詰め寄ってくる。
「や、やめて……」
無駄だとわかっても、涙を浮かべながら必死で訴えている。
男はまた包丁を振り上げる。
「ころさないで……」
振り下ろされる。
そこで光景が消えてしまった。
何もうつらない暗闇の中に佇む。
あぁ、そうか。行方不明ってことは今もまだ……。
『ミツケテ……』
そんな声が後ろからしてきた。振り返るとそこには篠田裕子が立っていた。微笑みを浮かべてこちらを見ている。もちろん異様な姿ではなく、普通の姿でだ。
ゆっくり真横を指さす。先を目でおうと、みんなが捉えられていた地下の場所だった。
「あそこに……あの地下にいるの?」
無言で首を縦にふる。
「そっか……15年間もいたんだ。それは心細かったね」
彼女がもう何も言わず、ただ微笑みを浮かべているだけだった。
わ。
オチがこれかよ!って突っ込みはなしでお願いします。
そして、今回は最初ですし、美咲ちゃんは戦えないのでバトルがえらく短いです。この1章で終わりですよ、悠也くんは何をやってるんですかね?守ってないし(笑
そしてイジメ云々は実は関係ないっていうオチでした。人生そんなもんです。
この学校の警備はどうなってるんですかね、私も不思議でなりません。
推定であと2〜3章で第1話が終了します。なげーよ。1話で2ヶ月もかかるのかよ。もうちょっとアップするピッチをあげたいと思います。体力が続く限り。